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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2011.06
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Category : ミリタリー
 1950年代、米国で「ソ連がアラスカに攻めて来る」と主張する向きがあった。翻訳記事ヘルナー,モーリス Hの『アジアの闘争と海上権』(Helner,Maurice H‘Sea Power and the Struggle for Asia’"Proceedings"(USNI,1956))では、当時、米国では「ソ連がアラスカに攻めて来る」とする意見が『よく耳にする』とされている。ちょうど、日本人の一部が「ロシア軍(ソ連軍)が日本本土に上陸してくる」と発想するものと同じあり、なかなか興味深いものである。

 「ソ連がアラスカに攻めて来る」とする主張を、翻訳記事から引用すると次のとおりにである。『チューコット半島と、アラスカを隔てているベーリング海峡は極めて狭く、ソ連軍は容易にアラスカに侵入できる』『アラスカに対して空挺隊による侵略を試みる』 単純に「対岸にいるソ連軍は、自国領土に攻めて来る」というものである。これは、冷戦期に日本で唱えられたソ連脅威論で最先鋭的だった『ソ連軍が日本に攻めてくる』と同じ発想である。

 ヘルナーはソ連極東部での地理的条件から、アラスカ侵攻を否定している。ヘルナーは極東部でソ連が採れる可能行動については、輸送がネックになることを示している。ソ連極東部ではシベリア鉄道終点であるウラジオ、支線(当時)の終点であるソビエツカヤ・ガバニから先に陸上輸送機関はない。そこから先へは海上輸送するしかなく、ソ連が極東で採用できる可能行動は、海上輸送によって制限されるとしている。ヘルナーは具体的に、ソ連が大規模な作戦行動を支えられる大規模海上輸送を実施できるか、否かについては明言していない。だが、ベーリング・アプローチそのものについては『通俗雑誌や時事解説的分析に過ぎない』とも片付けている。事実上「不可能である」としているのである。

 極東部でのソ連、ロシアが採用できる可能行動は制限される。シベリア鉄道と、後のバム鉄道沿線をのぞけば、ソ連、ロシアは大規模な作戦行動を実施できない。海上輸送を実現するための輸送力と、それを保護する海軍力を持たないためである。日本に近い、樺太や北方領土でも同じである。ソ連、ロシアはアラスカに上陸・空挺侵攻できないことと同じように、日本本土に上陸できないのである。

 「ロシアが日本に上陸してくる」も「通俗雑誌的分析に過ぎない」ものだということだ。今日になってなお「ロシアが日本に上陸してくる」と主張されることがあるが、ヘルナーの言葉を借りれば全く通俗雑誌の発想である。それを戦車の性能だけで一点突破しようとしても、それはできない話である。まず『海上輸送は上陸作戦に必要であるばかりではなく[略]上陸作戦の基地を作るためにも必要である』ということである。ロシアに対日線に足る輸送能力はない。ロシアの鉄道・船舶輸送力が絶対的に不足している。ロシアの海軍力と日本の海軍力に絶望的な差がある。このような現実を前にすれば、戦車の性能優劣は取るに足らない問題である。このことからしても、「ロシアが日本に上陸してくる」と主張は、容易に否定されるのである。
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