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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2011.09
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Category : ミリタリー
 魚雷発射管から発射する対艦ミサイル(USM)って、使いにくいものではないかね。

 ハプーンUSMやエグゾゼUSMは、通常魚雷発射管から発射できる。直径30センチ程度である対艦ミサイルをカプセルに封入し、そのカプセルを53センチ発射管から撃ち出す仕組みとなっている。
 USMは、潜水艦による水上艦船襲撃を変化させるものと考えられていた。ハプーンUSMやエグゾゼUSMは80年代に登場する。当時、USM登場により、魚雷は時代遅れになったというような極端な話もあった。
 しかし、その後、USMはあまり注目を受けなくなった。実際に、90年代以降、USMはあまり強調されていない。潜水艦による水上艦船襲撃が話題となっても、魚雷が主用される前提である。このあたりで熱は醒めたのだろう。

 USMは使いにくいのだろう。USMは大遠距離でも攻撃できるメリットがある。しかし、デメリットもある。大射程であるが、潜水艦が持つ捜索能力ではカバーできない。遠距離であるので、目標を視認できない。同じ理由により戦果も確認できない。発射位置が丸分かりになる可能性がある。水上艦船側にリアクション・タイムを与える。威力も小さい…。USMが持つメリットは、大遠距離で攻撃できる1点に過ぎない。大して、デメリットは多すぎるのである。

 まず、USMが持つ大射程は、潜水艦が持つ捜索能力では扱い難い。USMは、ジェットエンジンを持つハプーンでは100kmを超えると言われる。エグゾゼでも50kmである。潜水艦は、この距離で目標艦船をソーナー探知することは、まずできない。ソーナーにより潜水艦が水上艦を探知できる距離は、あまり明示されていない。Submarineで示唆されている限りでは、直接波やボトム・バウンズ(BB)で約10km、コンバージェンス・ゾーン(CZ)で60km程度※※である。BBやCZは海底状況や水深を選び、さらに発生条件も限定される。潜水艦がソーナー探知できる距離は、約10km程度であり、USMが持つ射程を大幅に下回るのである。USMは大射程を持つとはいえ、潜水艦ではその大射程を活かすことは容易ではない。

 大射程であるので、目標視認・戦果確認できない点もUSMは不利である。USMによる大射程攻撃では、目標が何であるのか分からない、あるいは直接確認できない。仮に目標が敵であることは間違いなかったとしても、潜水艦からでは、何を攻撃したのかがわからない。そして戦果も確認できないのである。この状況では、潜水艦側は攻撃はしたがらない。

 USMでは、発射位置も丸分かりである。USMは海面から発射後、一回大きく上昇してから巡航飛翔に遷る。ミサイルが上昇時期で探知された場合、そして、USMであると判断された場合には、潜水艦は位置が局限されてしまう。魚雷では、概略方位程度しか把握されないが、USMでは点で把握されてしまうのである。この点は、USM攻撃は逆にリスクを負うのである。

 大遠距離での攻撃では、水上艦船側にリアクション・タイムを与える可能性も高い。防御側が防空システムを持つ場合、AEWや対空レーダー、ESMを持っていれば、USMは早期発見される可能性は高い。特に、大遠距離から飛翔する場合には、防御側に対艦ミサイル防御を行う時間を与えてしまう。USMは同時発射しても6発が上限である。目標が防空システムを持つ艦隊であれば、6発では無効化されてしまう可能性が高い。また、対艦ミサイルは目視による見張りでも、確認されやすい。その場合、船首尾をミサイルに立てて、投影面積を最低限にする程度は可能である。

 そして、USMは炸薬は威力に欠ける。USMは炸薬量150~200kg程度である。命中時には船体表面や、運が良ければ船体内で爆発する。それなりの威力であるが、対水上艦用魚雷に較べれば、威力は相当、小さい。対水上艦用魚雷は、威力が大きな水雷用炸薬を300kg程度装填している。魚雷が中央部艦底で水中爆発した場合には、小型水上艦であれば船体が2つに折れる威力がある。USMは魚雷に較べ、威力は相当小さいのである。

 水上艦船襲撃を考慮した場合、USMと魚雷では、魚雷が選ばれるのである。ソーナ探知できる10km程度であれば、魚雷でも充分に到達する。魚雷であれば、被攻撃側は直前でなければ攻撃探知はできない。威力は段違いである。やはり魚雷が選ばれるのである。USMが魚雷に優位に立てる状況は、CZや味方情報による大遠距離攻撃に限られる。だが、CZは条件が限定される。また潜水艦では、味方情報は容易に得られない。USMはあまり使い道がないのである。

 USMは使いにくいのである。だから、USMはなおざりにされている。実際にも、USMは新しく開発されてもいない。USMは専用対艦ミサイルは開発されていない。USMは、中身である対艦ミサイルを入れ替える程度に過ぎない。常に新型が開発されている魚雷との差は対照的である。USMは、80年代に「作ってみました」程度であったのだろう。

※ Hervey,John,Submarines(London,Brasseys,1994)。pp.106-108に図がある。

※※ Submarinesによれば、CZによる探知幅は55kmから65kmに限定される。CZでは55~65kmの外側も内側も探知できない。また、艦船以外に潜水艦も探知されるが、両者は区別できない。なお、CZによる探知距離は、海域によって異なる。
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