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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2011.10
01
CM:1
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13:00
Category : ミリタリー
 昨日届いた香港誌『鏡報』に「空母直衛艦としてスラーヴァ級『ウクライナ』購入がよくね?」という記事(梁天仞「烏克蘭巡洋艦宜租莫買」)※ が掲載されいたのだけれども。主張を見ても、空母直衛艦への要求性能や、そもそも運用形態について不思議な間隔を看取れたので少々。中国では海軍作戦というものがキチンと近いされていないんじゃないかな。



 中国では海軍作戦はそれほど理解されていない。梁さんの記事「烏克蘭巡洋艦宜租莫買」は、空母直衛艦や空母機動部隊に関し、理解は不十分、あるいはズレたイメージを示している。この梁さんの記事が、専門家による記事として掲載されている点、中国一般では海軍作戦への理解が怪しい点を示唆している。

 梁さんは「国産艦は空母直衛に足りない所がある。スラーヴァ級導入をすべき」(大意)と主張している。この「国産艦の不足」(「中国戦艦的四不足」)は、第1に最高速力、第2に航続距離、第3に対空ミサイルの搭載数、第4が対潜戦力である。

 しかし空母直衛艦として挙げた「国産艦の不足」は、実際には問題ともならないように見える。

 梁さんは最高速力について「空母が35ノット出した場合、最高速力30-27ノットである在来艦は追いつけない」と問題視している。しかし、空母は常に30ノット以上で航行するものでもない。大戦期とは異なり、直衛艦も厳密な艦隊陣形を維持する必要もない。兵器が持つ射程距離が伸びたこともあり、概略方位と距離を保てれば充分である。航空機離着艦のため、空母が短期間ダッシュしても問題はない。

 航続距離についても「在来艦はあまりにも短い」としているが、例示したLUYANGにしても、4500マイル(15ノット)と短いものではない。本来であれば、補給艦によって解決すべき問題である。広範囲を長期間行動する米海軍駆逐艦やフリゲートも、航続距離4500マイル(20ノット)であっても問題にはならない。

 対空ミサイル搭載数は、中華版イージスであるLUYANGⅡであっても「ただし、対空ミサイルは多くない」(「但防空導弾数量不多」)と述べている。しかし、LUYANGⅡは6連装発射機を8基装備しており、計48発と少なくはない。中華版イージスといわれるシステムが、考えがたいことだが、米海軍イージス並であったとしても、48発は少なくはない。アーレイ・バーク級であっても、VLSセル数は90程度であり、全てはSAMではない。中華版イージスが持つ、極端に高くないであろう性能に合わせるとすれば、48発は充分である。

 対潜戦力は「対潜用の魚雷[やロケット]が少ない」(「反潜魚雷品種甚少」)としている。しかし、対潜戦力でのキモはソナーや、対潜ヘリに搭載されたセンサーである。発見したあとの兵器ではない。しかも、対潜ヘリではなく、個艦が持つ対潜魚雷に機体を抱いている点は、ピントが外れているのである。

 そして、梁さんが主張する「国産艦の不足」を埋める、スラーヴァ級に対する期待も、その具体性を見るとピントは外れている。

 最高速力35ノット、航続距離7500マイルについても、スラーヴァ級を整備したところで、1隻だけが発揮できる性能に過ぎない。他の直衛艦は30-27ノットであり、航続距離4500マイルである以上、艦隊として速力も航続距離も伸びない。航続距離の問題は、本来は補給艦による洋上補給等で解決する問題である。

 対空ミサイル装備数にしても、梁さんは64発搭載した艦隊防空用対空ミサイルであるSA-N-6(射程100km)に、なぜか個艦防空用であるSA-N-4(射程15km)を40発足している。あまり意味のある数字ではない。防空能力について、CIWSであるAK630が6基用意している点を評価している。だが、低能力・低信頼性(独立動作しない)であるため、6基必要としている可能性に気づいていない。

 対潜戦力についても、同様である。スラーヴァ級が対潜戦力に優れる点として、5連装長魚雷とRBU6000対潜ロケットを提示している。しかし、潜水艦をどのようにして見つけるかについては、指摘がないのである。本来ならVDSやTASSの類、バウ/ハル・ソーナーに言及すべきであるが、それもない。

 そして、サンド・ボックス対艦ミサイルとAK130への評価も、空母直衛艦としての優位性を強調するものではない。対艦ミサイルは、搭載数や能力から、空母艦載機による対艦攻撃力を見込めない点を代替する手段かもしれない。だが、主砲であるAK130が持つ高発射速度を沿岸への艦砲射撃での優位性として示す点も不可解である。

 これらの違和感は、海軍作戦への理解が不十分である点に起因している。最高速力や航続距離についての勘違いは、空母直衛艦に必要とされる性能や、空母機動部隊が取る運用形態をイメージできない結果である。対空ミサイル搭載数についての誤解も、艦隊防空と個艦防空にある差異を意識しない結果である。対潜戦力についても、重視すべき点は潜水艦捜索であり、攻撃段階ではない点を誤っている。

 中国では、海軍作戦を理解する水準は低い。梁さんの記事は、中国での海軍作戦理解についての水準を推測する材料である。海軍部内では、少なくとも一部は西側的な海軍作戦理解をしている。しかし、中国は外洋海軍や空母機動部隊運用の経験やノウハウも乏しい。海軍を取り巻く外部は海軍作戦をあまり理解していない。海軍全体でも怪しい水準である。実際に、対潜戦力を軽視した水上艦や、実用性も怪しい紅稗級、対機雷戦に対応できないような対機雷戦艦艇が生まれている。おそらく、空母も空母直衛艦も、西側での先進的な海軍作戦には追いつかない水準で出現するだろう。

※ 梁天仞「烏克蘭巡洋艦宜租莫買」『鏡報』(鏡報文化企業公司,2011.10)p.p76-79



 威信財として強力な軍艦を手に入れるならまだしも。空母直衛艦だったら、同じ買うにしてもウダロイⅡの方がマシだと思うのだけれどもね。空母自体が威信財だから、なんでもいいのだろうけどさ。
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2011.10
01
CM:1
TB:0
12:59
Category : ミリタリー
 防衛予算なんだが、陸自から海空自衛隊への振り向けは順調に進むだろうね

 9月30日、防衛省による平成24年度予算(2012年度)概算要求が提出された。その概要は『平成24年度概算要求の概要』(http://www.mod.go.jp/j/yosan/2012/gaisan.pdf)で示されている。

 この『平成24年度概算要求の概要』であるが、その中で、陸自は存在価値を示せていない。

 防衛力政策における焦点は明確に「日本の外側」に向いている。『概算要求の概要』は主要なテーマとして
・「実効的な抑止及び対処」
・「アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化」
・「グローバルな安全保障環境の改善」
と3点を挙げている。前からそうであるが、防衛政策での焦点は、アジア太平洋地域や地球規模を視野に入れている。

 このアジア太平洋地域や地球規模での活動では、陸自はそれほど存在価値を示せていない。『概算要求の概要』では幾つかの活動を示しているが、海空が多く、陸は影もない。ここ数年で実際に行った行動にしても、海によるインド洋給油やソマリア沖海賊対処、空によるイラク航空輸送がある。陸もイラク派遣等実施しているが、その影も薄い。

 純軍事的な防衛力整備でも『概算要求の概要』では焦点は本土ではなく、周辺部に据えられている。『概算要求の概要』では、最初の「実効的な抑止及び対処」で軍事的な日本防衛について述べている。この「実効的な抑止及び対処」は「周辺海空域の安全確保」を筆頭とし、ついで「島嶼部に対する攻撃への対応」という順番に展開していく。その次は、「サイバー攻撃等への対処」に過ぎない。軍事的な日本防衛については
・「周辺海空域の安全確保」
・「島嶼部に対する攻撃への対応」
と日本周辺部に焦点を据えている。

 純軍事的な防衛力整備でも、陸自は出る幕がない。「周辺海空域の安全確保」で挙げられた5事業は、全て海空自である。「島嶼部に対する攻撃への対応」でも、22事業中、陸自は3事業であり、そのうち2事業は地対艦ミサイル整備と輸送ヘリ整備である。離島戦では、制海権・制空権確保が最優先で、極端な話、海と空を抑えればどうにでもなってしまう。陸兵がどれだけ苦労しても、時間の問題にすぎない。純軍事的な防衛力整備で陸自がメインとなるのは「ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応」であるが、その優先順位も低い。

 必要性も、優先度も高い海空自は順当に予算が認められる。日本の防衛は、明確に海空主体となった。海外での活動や、日本周辺部での防備は海空戦力が主体である。この状況では、海空自が提示した事業は通りやすい。事業として認められ、削減幅も少ない。

 対して、陸自は必要性や優先度を示すことができない。海外での活動や、日本周辺部での防備では、今の陸自は存在価値を示せない。防衛省が提出した概算要求段階で、陸自は既に精彩を欠いている。新規事業にも説得力に富んていない。

 陸自は存在価値を示せていない。日本の防衛に関して、陸上戦力による本土決戦的な発想は、すでに過去のものである。そもそも、戦後日本とその周辺を見れば、日本に攻め込める力を持った脅威はない。今日、日本本土への着上陸を脅威と主張しても賛同は得られない。

 予算を査定する上で、陸自分は順当に査定で削減される。そして、新規事業が認められ、結果として削減幅が小さくなる海空自に防衛予算は振り向けられる形になる。24要求では、海自は純増になる可能性もある。

 長期的にも、陸から海空への振り向けは続く。陸上戦力は既に従属的な地位にある。しかし、人員でも予算規模でも陸自が最も大きなウエイトを占めている。これは奇妙な状態である。優先度が低い陸自が削減され、優先度が高い海空に振り向けられるのは当然である。

 陸は、存在価値を示せない限りジリ貧になる。従来どおりである本土防衛体制を大きく改め、海外での活動や、日本周辺部での防備に最適化しなければ生き残れない。日本本土での防衛を副次的役割として、海外活動用や、日本周辺での展開に適した形態に変化できなければ、このまま緩やかに縮小していくことになる。





P.S 本土防衛なんて、4ヶ鎮台4万人くらいに抑えて、余りで海外貢献師団風とか、日本周辺に展開できる海上機動旅団風にしちゃうとかね。

P.SのP.S 「陸上自衛官の実員増」「109人の増員」も、小細工に過ぎないよね。まあ、実員を減らされるにしても、その幅を小さくしようとフッかけているものだ。去年の「陸自2万人増員」と同じ。概算要求だから、まあフカシの塊みたいなもんだが。

P.SのP.SのP.S 実員増は福島第1原発の事故対処を理由にしているけど、短期的な変動だから「工夫すれば終わり」となるだろうね。要は予算上の定員増を指すのだろうけど、法規上の定員(訓定)が減るのに「それはあり得ない、無理」と言われる。人員を増やすのは装備を新しくするどころの難しさじゃない。まず無理だろうね。

P.SのP.SのP.SのP.S 逆に、人員を思い切りカットすれば、新規事業にしても通り易くなるんだけどね。10万人とか9万9000人にすれば、装備の更新も訓練や演習のお金も相当余裕が増えると思うんだけどね。みんなが大好きな新戦車も、実際に優先度の高いシステム・通信やらも、ロジスティックでの外注も容易になると思うんがなあ。まあ、将官・佐官のポストが減る、2佐以上への昇任も困難になるから、官僚組織として呑めない話なんだろうけどね。