Category : ミリタリー
ドイツは上昇機雷を作っていたのではないか。戦前に出された『火兵学会誌』に、ドイツ製磁気感応機雷を紹介する記事※があるが、これが上昇機雷になっている。『火兵学会誌』昭和15年3月号に「ドイツの磁気機雷」とする記事がある。戦前とはいうものの、すでに欧州では第二次世界大戦が始まった時期である。英独が互いに機雷戦を始めた、その最初に使われたドイツ磁気感応機雷が説明されている。
この磁気感応機雷が上昇式として説明されている。機雷缶体のうち、後部は浮力室になっている。沈底時には、浮力室は海水が溜まっているが、受磁以降、発火直前には浮力室に圧縮空気が流し込まれ、海水が押し出されて浮力を生み出す。説明では、尾部から圧縮空気を吹き出すことにより、ロケット的な効果ももたらすとされている。水中での姿勢を支持させるためか、爆弾と同じような尾翼も取り付けられている。発火は、水圧によるとされている。一定深度、-50ft(-15m)あるいは-20~-40ft(-6~-12m)に達した時、水圧深度計により発火するとされている。
果たして、説明通りに動作するのだろうか。
まず、上昇機構に不具合だろう点を見つけられる。浮力室を後部に作ると、重心から後部を上にして上昇するよう思える。その場合尾翼は上になる。真っ直ぐ上昇するためには寄与しない。むしろ、微妙な角度により、機雷を明後日の方向に進める結果になる。正のフィードバック(ポジティブ・フィードバック)であり、水深が深くなればなるほど、機雷はデタラメな方向に向かいがちになる。
発火機構として、水圧を使う点も、具合が良いとは考え難い。記事では缶体頭部に水圧深度計が付いている。缶体が綺麗に真っ直ぐ上昇するのであれば、それなりに動作するだろう。しかし、姿勢がまちまちでは、水流との関係もあり、正確な深度で発火しにくいようにも見える。
そもそも、この上昇式磁気機雷は実在したのか、と疑問が湧くのである。
記事で示されたドイツ製上昇機雷は、別資料で見かけたことはない。第二次世界大戦で使用されたドイツ感応機雷は、沈底式と繋維式とされている。上昇式について言及されたものはない。
ただし、上昇機構以外では、ドイツ製ニードル式磁気機雷が持つ特徴と一致する。非磁性素材で作られた外郭(ドイツ磁気機雷はアルミニウム系を使用)、5本あるニードルで構成される磁気感応機構、磁気感応機構を回転させて磁北を保持する方法である。これらの点については、この記事は日本陸軍※※が収集した磁気感応機雷情報よりも正確である。
つまり、史料により実在は裏付けられないが、デティールは正確であり得る形ということだ。この点について、説明は考えつくが、仮説には確証は持てない。「極初期に試作したタイプではないのか」もしくは「ドイツ側ミスリーディングによるものではないのか」であったとすれば、納得はできるが、証拠はない。
いずれにせよ、この上昇機雷は実用性に乏しいと考えられる。すでにきちんと上昇できるか、一定水深で発火できるのかといった問題は述べた。他にも、大深度でニードル式で感応できるほど、受磁できるのかといった問題もある。大深度では、艦船が通る水面までの距離が遠くなる。船体が消磁された場合、感応に足りる磁気変動が海底まで届くかどうかも問題になるだろう。ニードル式の場合、感応ロジックをいじりにくい※※※。単純に高感度にした場合、地場が強い艦船であれば、遠距離で発火してしまう。
現実的には、大深度に敷設する場合には、繋維機雷としたほうが確実である。英独では航空機で敷設できる触発繋維機雷は、すでに戦前に準備されている。その缶体を磁気感応とすれば済む。実際に、ドイツはニードル式機雷を大深度で使用する場合には、繋維機雷としている。繋維掃海で処理されてしまう不利はあるが、確実性では上昇機雷に勝る。
ただし、この「ドイツの磁気機雷」から上昇機雷に関するアイデアが、戦争初期にはあったことが確認できるのである。上昇機雷は、戦後にソ連が発明したものではなさそうだ。
※著者Milbury,C.E、訳者不明「ドイツの磁気機雷」『火兵学会誌』33,6(火兵学会,1940.3)pp.481-482. 初出はScientfic American(1940.3)
※※ 海軍ではない。陸軍資料では、現物とは違う、欧米雑誌による想像図が掲載されており、磁気感応機構や、発火までの感応ロジックも実物とは異なっている。
※※※ 誘導式(コイル式)磁気機雷であれば、機雷ロジックに磁気ピークを利用するため、感度を上げても的確に発火時期を設定できる。具体的には、朝鮮戦争で使用されたソ連磁気機雷は、毎秒0.6ミリガウスの磁気上昇の後、同じように毎秒0.6ミリガウス磁気下降した時に発火する仕組みとされている。これは公開資料(田村久三さんによる)で確認できる。
この磁気感応機雷が上昇式として説明されている。機雷缶体のうち、後部は浮力室になっている。沈底時には、浮力室は海水が溜まっているが、受磁以降、発火直前には浮力室に圧縮空気が流し込まれ、海水が押し出されて浮力を生み出す。説明では、尾部から圧縮空気を吹き出すことにより、ロケット的な効果ももたらすとされている。水中での姿勢を支持させるためか、爆弾と同じような尾翼も取り付けられている。発火は、水圧によるとされている。一定深度、-50ft(-15m)あるいは-20~-40ft(-6~-12m)に達した時、水圧深度計により発火するとされている。
果たして、説明通りに動作するのだろうか。
まず、上昇機構に不具合だろう点を見つけられる。浮力室を後部に作ると、重心から後部を上にして上昇するよう思える。その場合尾翼は上になる。真っ直ぐ上昇するためには寄与しない。むしろ、微妙な角度により、機雷を明後日の方向に進める結果になる。正のフィードバック(ポジティブ・フィードバック)であり、水深が深くなればなるほど、機雷はデタラメな方向に向かいがちになる。
発火機構として、水圧を使う点も、具合が良いとは考え難い。記事では缶体頭部に水圧深度計が付いている。缶体が綺麗に真っ直ぐ上昇するのであれば、それなりに動作するだろう。しかし、姿勢がまちまちでは、水流との関係もあり、正確な深度で発火しにくいようにも見える。
そもそも、この上昇式磁気機雷は実在したのか、と疑問が湧くのである。
記事で示されたドイツ製上昇機雷は、別資料で見かけたことはない。第二次世界大戦で使用されたドイツ感応機雷は、沈底式と繋維式とされている。上昇式について言及されたものはない。
ただし、上昇機構以外では、ドイツ製ニードル式磁気機雷が持つ特徴と一致する。非磁性素材で作られた外郭(ドイツ磁気機雷はアルミニウム系を使用)、5本あるニードルで構成される磁気感応機構、磁気感応機構を回転させて磁北を保持する方法である。これらの点については、この記事は日本陸軍※※が収集した磁気感応機雷情報よりも正確である。
つまり、史料により実在は裏付けられないが、デティールは正確であり得る形ということだ。この点について、説明は考えつくが、仮説には確証は持てない。「極初期に試作したタイプではないのか」もしくは「ドイツ側ミスリーディングによるものではないのか」であったとすれば、納得はできるが、証拠はない。
いずれにせよ、この上昇機雷は実用性に乏しいと考えられる。すでにきちんと上昇できるか、一定水深で発火できるのかといった問題は述べた。他にも、大深度でニードル式で感応できるほど、受磁できるのかといった問題もある。大深度では、艦船が通る水面までの距離が遠くなる。船体が消磁された場合、感応に足りる磁気変動が海底まで届くかどうかも問題になるだろう。ニードル式の場合、感応ロジックをいじりにくい※※※。単純に高感度にした場合、地場が強い艦船であれば、遠距離で発火してしまう。
現実的には、大深度に敷設する場合には、繋維機雷としたほうが確実である。英独では航空機で敷設できる触発繋維機雷は、すでに戦前に準備されている。その缶体を磁気感応とすれば済む。実際に、ドイツはニードル式機雷を大深度で使用する場合には、繋維機雷としている。繋維掃海で処理されてしまう不利はあるが、確実性では上昇機雷に勝る。
ただし、この「ドイツの磁気機雷」から上昇機雷に関するアイデアが、戦争初期にはあったことが確認できるのである。上昇機雷は、戦後にソ連が発明したものではなさそうだ。
※著者Milbury,C.E、訳者不明「ドイツの磁気機雷」『火兵学会誌』33,6(火兵学会,1940.3)pp.481-482. 初出はScientfic American(1940.3)
※※ 海軍ではない。陸軍資料では、現物とは違う、欧米雑誌による想像図が掲載されており、磁気感応機構や、発火までの感応ロジックも実物とは異なっている。
※※※ 誘導式(コイル式)磁気機雷であれば、機雷ロジックに磁気ピークを利用するため、感度を上げても的確に発火時期を設定できる。具体的には、朝鮮戦争で使用されたソ連磁気機雷は、毎秒0.6ミリガウスの磁気上昇の後、同じように毎秒0.6ミリガウス磁気下降した時に発火する仕組みとされている。これは公開資料(田村久三さんによる)で確認できる。
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これ、多分旧海軍水際機雷。その2触角タイプ。読みは「みずぎわ-きらい」で、今の陸自がもつ「水際地雷」、「スイサイ-ジライ」とは読みが変わっているが、用途は同じ。
写真は、トラックで発見されたとのこと。触角(ホーン)取り付け前だから、基本的には発火の可能性ナシ。もちろん、爆薬で誘爆させれば発火するだろうけどね。
この機雷は、米軍ではタラワ・タイプとも呼ばれた。7戦隊がタラワに緊急輸送した3000個が大規模利用された。その時、米軍は「エライ目にあった」と書いてあるとのことだけれども、手許のモリソン戦史には書いていない。海兵隊戦史かなにかかね。
半球型で、海底/地面に据置、重さ60kgで、うち20kgが炸薬。当然、砂浜でも触角をポキリと破損すれば発火する。LVTがそれなりに引っかかったらしい。20kgも炸薬があるから、TNT/TNAじゃなくて、カーリットでも踏んだらオシマイなんでしょう。
写真は、トラックで発見されたとのこと。触角(ホーン)取り付け前だから、基本的には発火の可能性ナシ。もちろん、爆薬で誘爆させれば発火するだろうけどね。
この機雷は、米軍ではタラワ・タイプとも呼ばれた。7戦隊がタラワに緊急輸送した3000個が大規模利用された。その時、米軍は「エライ目にあった」と書いてあるとのことだけれども、手許のモリソン戦史には書いていない。海兵隊戦史かなにかかね。
半球型で、海底/地面に据置、重さ60kgで、うち20kgが炸薬。当然、砂浜でも触角をポキリと破損すれば発火する。LVTがそれなりに引っかかったらしい。20kgも炸薬があるから、TNT/TNAじゃなくて、カーリットでも踏んだらオシマイなんでしょう。