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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2012.02
29
CM:0
TB:0
13:00
Category : ミリタリー
 人間魚雷への対策も、どこまでできるのかね。「米海軍はイラン人間魚雷に対抗できるのかね」で「人間魚雷に対抗する専用システムはない」としたけど、売っていないわけではない。ただ、それで「安全になるのかね」というと、違うんじゃないかな。




 港湾防衛における潜水員対策を謳ったシステムは、存在する。少々古いIDRに、DRS Technology社による港湾防備システム(Habour Security System)提案が掲載されている。記事では、米海軍/沿岸警備隊のシステムに連接可能であるとしており、一見、有効な器材であるように見える。

 しかし、実態は港湾監視システムである。DRSが提案した器材は、海面監視用に使われるレーダ、海中監視用ソーナー、光学監視器材にすぎない。レーダ、ソーナー共、極端に短い波長を使用している。波長が短くなると、高解像度が得られる。おそらくは物体の形状を画像確認しようとしているのだろう。

 海面監視用にはスカウト・レーダが用いられる。IDRによれば、Iバンド(Xバンド:8-10Ghz,波長3mm)が使用されている。出力は1wと小さく、システムはハンヴィーに搭載できる大きさである。エジプトが30セットを購入したとされる。能力的には、破壊工作対策でもあるだろうが、まずは密入国対策、国境管理用だろう。

 海中には、潜水員監視用ソーナーが提案されている。同じくIDRによれば、360度操作可能なソーナーで、800m以内の50目標を補足できるとされている。アクティブは、基本100khz、オプション300khzであり、機雷用ソーナーに似ている。別にパッシブで2-8khzを監視できるとされている。写真によれば、VDSタイプであり、使用時にも1-2ktで航行できるとある。

 別に、光学監視器材として、EO/IRが挙げられている。電子器材による光学・赤外線監視を指すが、細かい説明はない。

 このシステムでは、潜水員は確実に補足できないだろう。

 レーダで監視できる面積は、それほど広いとも思えない。大遠距離での分解能を確保できる出力ではない。低出力では、ノイズによって埋もれてしまう。遠距離、例えば10km先の小型船程度を追尾できるかもしれないが、泳者の頭は見えない。高分解能を実現できるのは、それなりの近距離になる。その程度の距離であれば、進入側は潜水したままで通り抜けようとする。

 ソーナーでの探知距離は、公称800mとさらに短い。泳者に限れば、探知できる距離はさらに短くなる。比較的大きな対機雷専用ソーナーでも、何かが落ちているとわかる距離、公称で同じような距離である。ソーナーの大きさはわからないが、掃討艇よりも小さい船を投入するだろうとすれば、800mで探知できると見るのは楽観的である。また、360度方向にアクティブ・ソナーを振り回せるだろうが、同時に全周を監視できるわけではない。スリ抜けられる可能性は高い。

 EO/IRも、泳者には有効とは思えない。船舶から横合いに海面を見ても、海中は見にくい。機械でも同じである。真上から透視するように使えば、透視できる可能性も高い。しかし、常時在空しての監視は、監視できるエリアの広さにもよるが、UAVを使うにしても容易ではない。

 そして、このシステムは監視しかできず、侵入者排除・無力化は別の方法による。水中にいれた防御側ダイバーが、水中銃、ナイフ程度でどうにかする。あるいは、上方向から、銃撃や爆雷で攻撃しなければならない。排除・無力化はシステム化されていない。原始的に対応しなければならないのである。

 DRS Technology社による港湾防備システムは、確実に人間魚雷から港湾を防御できるものではない。まず、確実に泳者を発見できるものではない。その上、泳者を攻撃する手段は別であり、そこにも確実性はない。

 調教したイルカなりを投入した方が有効に見える。米海軍は、対機雷戦用に調教したイルカを、軍用犬的に警備にも運用する。相当有効だろうが、イルカはそれほど多数を擁しているわけでもなさそうである。対機雷戦もあるため、ペルシア湾での泊地防衛に投入できるかわからない。また、動物であり、24時間働けるものでもない。増やそうにしても、イルカは工場で作れない。捕獲調達には動物愛護との兼ね合いもある。調教にも時間を要する。

 イランが原始的な攻撃行った場合、やはり米海軍は対抗に苦慮することになるだろう。人間魚雷なら、経験豊富な英・伊に泣きつくしかない。



 …まあ、米国とイランは大規模な戦争にならないだろうけどね。多少の摩擦や小規模な衝突は起きるかもしれないが、エスカレーションするとも思えない。イラン・イラク戦争のような大規模なタンカー攻撃や、小規模な機雷敷設までも行かないだろうねえ。



※ Habour Security System DRS Technolog, Jane's International Defence Review  (Aug 2005) p.24
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2012.02
29
CM:6
TB:0
12:59
Category : ミリタリー
 過渡期の文学といえば、『新体詩抄』なんだが、読み返すと直訳的な感じがヘンテコ。

 「抜刀隊」なんかは、近くに載っている和訳されたテニスン「軽騎兵」(クリミア戦争)を…パクリとはいわないけれども、まあ、インスパイアを受けている。「西南戦争で作り直してみました」という感じ。

 それに気づいてから「抜刀隊」の歌詞を読むとヘンテコな感じがして取れない。「進めや進め諸共に」は外国の軍歌の翻訳だ。「天地容れざる朝敵ぞ」は「天地不レ可レ容朝敵也」という漢文が頭に浮かんで仕方がない。

 「抜刀隊」でイメージする「日本精神」ってのは、勘違いだね。歌詞は輸入品を直訳したもの。ただの、当時のハイカラ歌謡に過ぎない。しかも音楽は「ヨドバシカメラの歌」(実はアメリカ軍歌)と同系列のマーチだし。

 「抜刀隊」で思い浮かぶ情景は、条件づけの結果に過ぎない。抜刀隊が「大和魂」を云々する状況で多く使われた音楽だからそれを聞くを尚古的かつ尚武的なイメージを感じるようになっただけなのだろう

 まあ、翻訳(漢語調)+マーチ(輸入音楽)と言う点では海軍の「軍艦」も同じ。今では「軍艦」の歌詞は脱落して行進曲(歩きにくいけど)になっているから気づきにくいけど、『うかべる城』は英語的な受動態だし、対句の利用、漢語調も同じ。

 直訳+漢語+マーチは、多分日本人に合わない。「抜刀隊」、「軍艦」タイプの軍歌の時代は、すぐに終わる。生き残ったのも、「抜刀隊」と「軍艦」だけ。以降に作られた『雪の進軍』や『勇敢な水兵』には、直訳調や漢語調は消えている。音楽も『雪の進軍』は俗謡。その後の軍歌からは直訳漢語調もマーチ調も消える。

 日本人にとって、完成形の軍歌って「海ゆかば」じゃないですかね。最初は「軍艦」のオマケに家持の歌をくっつけたものに過ぎない。それが歌としては独立して、マーチ転用不可の曲がついた。「海ゆかば」は大成功しましたよ。戦前・戦時中には、軍歌として「軍艦」以上に膾炙しています。実際には、戦争末期の記憶と結合して、戦後には反戦歌になりましたけどね。