Category : ミリタリー
連休はどこも混んでいるもので、買うだけ買って積んでおいた本を読んでいます。
Rossiterさんの"Sink the Belgranoga"※ がなかなか面白い。潜水艦による水上目標襲撃について具体的な行動、速力や深度、探知距離が明記されている。肝心なところはボカしているのかもしれないけれども、ルポルタージュだからそれなりに信用していい数字なんでしょう。
フォークランド紛争では、英原潜コンカラーがアルゼンチン巡洋艦ベルグラーノを沈めた。よく知られた紛争のエピソードで、最終段階では戦前タイプの旧式直進魚雷を利用しているといった部分は有名です。色んな本や記事で、日本語でも容易に読めます。
しかし、潜水艦による水上襲撃について、各段階に言及している本はありません。
まず、最初にソーナー探知できた距離が30マイル(陸マイル)であることが明記されています。探知距離50kmで、距離に直すと大西洋での第2CZになります。ただし、簡単な航跡図では、コンカラーは比較的浅い大陸棚にいる。CZは発生しない水深です。
コンカラーは追跡を始めますが、その際に15ktで航走しています。最大静粛速力がその程度なのでしょう。相手は巡洋艦・駆逐艦とも旧式艦であり、ソーナー能力が低いことを見越して、多少高速で航走したかも知れません。それでも15kt以上は出さなかった様子です。この間、時折4-5ktまで減速していますが、これはソーナーを使用するための減速です。自艦航走による雑音を避けるために減速しています。また随伴タンカーが出すディーゼル音を探知、645hzであったとし、6気筒、2ストロークであることも分かったとしています。
追跡は潜水襲撃圏※※ に収めようとする行動でもあります。本書では"Aproch Limited ANGLE"とされていますが"Limited Line of Submarged Aproch"でしょう。これは、目標に対して射点に入れる限界線です。自艦速力と目標速力、雷速、馳走距離で決まります。大雑把ですが、アルゼンチン側が20kt程度、コンカラーが15kt、雷速が45kt、馳走距離5km程度なら、だいたい目標前方50度に入らなければなりません。
やはり、最終段階では潜望鏡で確認しています。ソーナーである程度分かっても、結局は肉眼で確認する、あるいは確認したい気持ちがあるのでしょう。誤射防止もあるでしょう。また目標が何であるかを確認しなければ、戦果も不明になる。やはり肉眼で確認したい。高性能ソーナーを備えていても、最終段階では最低1回は露頂すると見てよいわけです。襲撃潜望鏡は余りにも小さく、容易に見つけられるものではありません。ですが、水上艦艇側にも、目視やレーダで発見するチャンスはなくはないのでしょう。
射点進入、離脱では、コンカラーは20kt以上を発揮しています。21-22ktですが、ダッシュしています。使用した魚雷が誘導機構を欠く直進魚雷であることもあるのでしょう。しかし、有利な対勢をとる必要があるので、発射寸前と発射後にはそれなりの速力を出すものと見ていいでしょう。水上艦艇側には、相手が静粛であっても、襲撃その時には所在を掴める可能性があるかもしれません。
"Sink the Belgranoga"は、潜水艦襲撃での様相を明らかしているのです。
コンカラーによる襲撃を参考にすると、中国海軍潜水艦による米空母機動部隊襲撃は難しそうです。特に、第二列島線まで前進しての邀撃は容易ではありません。
特に潜水襲撃圏に移動することが困難です。コンカラーは最大静粛速力で15ktを発揮できましたが、平均15kt程度で行動したアルゼンチン艦隊を補足するには苦労しています。
まず中国原潜が、米空母機動部隊周辺で15ktも出せるか疑問です。そもそも静粛性が高いわけではなく、加えて米空母機動部隊が持つ対潜バリアーへの被探知を避けなければなりません。中国原潜が高い静粛性を持っているとする話はありません。また米空母機動部隊は、哨戒機による前路哨戒があり、艦隊直前も艦載ヘリがパッシブで哨戒しています。
また、目標としての米空母機動部隊も高速で移動しています。特に潜水艦脅威があれば、20ktを超えるスピードを発揮するでしょう。米側は20kt以上でも潜水艦を探知できます。高速発揮による雑音で、水上艦によるパッシブ探知は難しいですが、航空機による前路哨戒があります。また、空母直近でも、空母艦載ヘリはアクティブで哨戒しています。おそらく、米軍相手に15ktを出せない潜水艦は、空母機動部隊の針路上にいない限り、接敵できません。
第二列島線まで前進した邀撃は、中国原潜でも難しいわけです。
トランジット速力で劣る在来潜水艦では、幸運がない限り接敵も難しい。静粛性に優れると言われるキロ、宋、元であったとしても、米海軍邀撃を意図するなら、基本は第一列島線周辺から中国内側でしか使えないと見るべきでしょう。
※ Rossiter,Mike, Sink the Belgrano, (Bantam Press,London,2007)
※※ 日本での術語としての正式名は知らない。潜水艦関係者なら知っているだろうけど、あの人達は口が堅いから教えてくれないし、教えてもらっても難しいからすぐに忘れてしまう。まあ「二酸化炭素濃度が高くて困って、甕から吸収剤を柄杓で汲んで直撒した」みたいに、今は使っていないアミンみたいな話なら教えてくれるんだけどね。
Rossiterさんの"Sink the Belgranoga"※ がなかなか面白い。潜水艦による水上目標襲撃について具体的な行動、速力や深度、探知距離が明記されている。肝心なところはボカしているのかもしれないけれども、ルポルタージュだからそれなりに信用していい数字なんでしょう。
フォークランド紛争では、英原潜コンカラーがアルゼンチン巡洋艦ベルグラーノを沈めた。よく知られた紛争のエピソードで、最終段階では戦前タイプの旧式直進魚雷を利用しているといった部分は有名です。色んな本や記事で、日本語でも容易に読めます。
しかし、潜水艦による水上襲撃について、各段階に言及している本はありません。
まず、最初にソーナー探知できた距離が30マイル(陸マイル)であることが明記されています。探知距離50kmで、距離に直すと大西洋での第2CZになります。ただし、簡単な航跡図では、コンカラーは比較的浅い大陸棚にいる。CZは発生しない水深です。
コンカラーは追跡を始めますが、その際に15ktで航走しています。最大静粛速力がその程度なのでしょう。相手は巡洋艦・駆逐艦とも旧式艦であり、ソーナー能力が低いことを見越して、多少高速で航走したかも知れません。それでも15kt以上は出さなかった様子です。この間、時折4-5ktまで減速していますが、これはソーナーを使用するための減速です。自艦航走による雑音を避けるために減速しています。また随伴タンカーが出すディーゼル音を探知、645hzであったとし、6気筒、2ストロークであることも分かったとしています。
追跡は潜水襲撃圏※※ に収めようとする行動でもあります。本書では"Aproch Limited ANGLE"とされていますが"Limited Line of Submarged Aproch"でしょう。これは、目標に対して射点に入れる限界線です。自艦速力と目標速力、雷速、馳走距離で決まります。大雑把ですが、アルゼンチン側が20kt程度、コンカラーが15kt、雷速が45kt、馳走距離5km程度なら、だいたい目標前方50度に入らなければなりません。
やはり、最終段階では潜望鏡で確認しています。ソーナーである程度分かっても、結局は肉眼で確認する、あるいは確認したい気持ちがあるのでしょう。誤射防止もあるでしょう。また目標が何であるかを確認しなければ、戦果も不明になる。やはり肉眼で確認したい。高性能ソーナーを備えていても、最終段階では最低1回は露頂すると見てよいわけです。襲撃潜望鏡は余りにも小さく、容易に見つけられるものではありません。ですが、水上艦艇側にも、目視やレーダで発見するチャンスはなくはないのでしょう。
射点進入、離脱では、コンカラーは20kt以上を発揮しています。21-22ktですが、ダッシュしています。使用した魚雷が誘導機構を欠く直進魚雷であることもあるのでしょう。しかし、有利な対勢をとる必要があるので、発射寸前と発射後にはそれなりの速力を出すものと見ていいでしょう。水上艦艇側には、相手が静粛であっても、襲撃その時には所在を掴める可能性があるかもしれません。
"Sink the Belgranoga"は、潜水艦襲撃での様相を明らかしているのです。
コンカラーによる襲撃を参考にすると、中国海軍潜水艦による米空母機動部隊襲撃は難しそうです。特に、第二列島線まで前進しての邀撃は容易ではありません。
特に潜水襲撃圏に移動することが困難です。コンカラーは最大静粛速力で15ktを発揮できましたが、平均15kt程度で行動したアルゼンチン艦隊を補足するには苦労しています。
まず中国原潜が、米空母機動部隊周辺で15ktも出せるか疑問です。そもそも静粛性が高いわけではなく、加えて米空母機動部隊が持つ対潜バリアーへの被探知を避けなければなりません。中国原潜が高い静粛性を持っているとする話はありません。また米空母機動部隊は、哨戒機による前路哨戒があり、艦隊直前も艦載ヘリがパッシブで哨戒しています。
また、目標としての米空母機動部隊も高速で移動しています。特に潜水艦脅威があれば、20ktを超えるスピードを発揮するでしょう。米側は20kt以上でも潜水艦を探知できます。高速発揮による雑音で、水上艦によるパッシブ探知は難しいですが、航空機による前路哨戒があります。また、空母直近でも、空母艦載ヘリはアクティブで哨戒しています。おそらく、米軍相手に15ktを出せない潜水艦は、空母機動部隊の針路上にいない限り、接敵できません。
第二列島線まで前進した邀撃は、中国原潜でも難しいわけです。
トランジット速力で劣る在来潜水艦では、幸運がない限り接敵も難しい。静粛性に優れると言われるキロ、宋、元であったとしても、米海軍邀撃を意図するなら、基本は第一列島線周辺から中国内側でしか使えないと見るべきでしょう。
※ Rossiter,Mike, Sink the Belgrano, (Bantam Press,London,2007)
※※ 日本での術語としての正式名は知らない。潜水艦関係者なら知っているだろうけど、あの人達は口が堅いから教えてくれないし、教えてもらっても難しいからすぐに忘れてしまう。まあ「二酸化炭素濃度が高くて困って、甕から吸収剤を柄杓で汲んで直撒した」みたいに、今は使っていないアミンみたいな話なら教えてくれるんだけどね。
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