Category : ミリタリー
海自哨戒機は平時からガンガン飛んで中露ほか周辺国艦船を監視している。従来は「そこに船が居るとしか分からない」と見られてきたけど。実際には、レーダ画像だけで軍艦か否か、何級であるか、識別されているのかもね。
防衛省が公表しているとおり、P-3CとSH-60KにはISARが搭載されている。ISARとは、逆合成開口レーダを略したものであり、長距離から船体形状を確認する能力を持っている。
艦船は航海中に動揺する。ピッチング(縦揺れ)、ローリング(横揺れ)、ヨーイング(方向揺れ)がある。その時、重心から離れた位置にある、マスト、艦橋、煙突、艦首艦尾は円運動をする。
動揺で生じる円運動は、航空機に搭載したレーダから見れば、距離方向への前後運動としての成分を持つ。
レーダに対して前後運動は、ドップラー・シフトを起こす。近づく救急車が出すサイレンが高く聞こえる。遠ざかるときには低く聞こえる。それと同じ理屈がレーダでも起きる。
ISARはドップラー・シフトを利用して船体形状を識別する。艦首、艦橋、マスト、煙突、艦尾が動揺で起こす前後運動で形状が判明する。
具体的に例を挙げると、理解しやすい。ISARを搭載した飛行機の真正面から衝突コースで進んでくる※艦船があるとして説明する。
ISARは、距離方向での分解能力も高い。雑誌記事に掲載された写真からすれば、分解能は距離10mとか5m※※といったものだろう。ISARで真正面から観察した場合、艦船は全長が判明する。艦首から跳ね返った反射波が最初に到達し、艦尾から跳ね返ってきた反射波が終わるまでの時間から計算できる。
この時に受波したレーダ反射波を、仮に10m刻みでスライスして周波数変化を分析する。重心から離れるほど、前後運動が大きくなり、ドップラー・シフトも大きくなる。つまり、周波数変化量が高さを示す。高さは相対的であるものの、
概略ではあるが、ISARで船体形状が判明する。レーダに真正面であれば艦首から艦橋・マスト、煙突、艦尾までの距離は正確にわかる。また、相対的ではあるものの、高さも判明する。もちろん誤差を減らすために、何回も繰り返す。成果として、ピンぼけ写真風ではあるにせよ、船体のシルエットを得ることができる。
ただし、レーダに対して船体が斜めであると、不正確になる。まず全長は縮んで見える。見かけ上で全長方向のスライスも甘くなる。ピッチングによる前後運動も見かけ上では、小さくなる。
しかし、プロポーションは変化しない。シルエット中で、艦首、艦橋、マスト、煙突、艦尾が示す比率は変わらない。艦船針路からある程度は船体はどの向きであるかも推測できるので、それなりに補正もできる。
ピッチングが起こす周波数変化も、ある程度はヨーイング、ローリングで代替できる。横から見た艦船イメージがわかるピッチング利用に対して、ヨーイングは上からみたイメージ、ローリングは正面から見たイメージなる。イメージとして使いにくいものの、ないよりはマシである。
実用的には、常に艦船がレーダに正体しているわけではない。ISAR画像で識別するためには、斜め位置から得られたピンぼけ写真を見て、船体プロポーションでの比率で判断することになる。
初期には、人間が識別していた。ン年前にP-3CでISAR画像を見たことがある。その時には、画像にディバイダー(両方が針のコンパス)を当てて、全長と、艦橋、マスト、煙突位置の比率を見て判断していた。もちろん、煙突が2本とかそういった特徴も加味するが、人間が判断していた。
しかし、現在では機械が行っている様子である。
まず、SH-60KにもISARが搭載されていることがその証拠である。これが船体イメージ取得用であり、機上で解析もできるISARだとすれば、自動で識別しているということになる。ヘリ機上で、ピンぼけ写真で比率だけ見て判断は無理であるからだ。
また、ISARでの軍艦画像識別に関し、自衛艦シルエットを用いた論文が存在する※※※ことも証拠である。河原ほか「一部欠損のあるISAR画像における白色化部分空間法を用いた船舶の自動識別」では、検証モデルとして、自衛艦である「ちよだ」「こんごう」「むらさめ」「むろと」「しらね」が利用されている。艦首、艦尾がちぎれた画像でも、それなりに似ている「こんごう」と「むらさめ」を識別できると主張している。
論文著者に東芝の肩書きもある。P-3C、SH-60Kのいずれか、あるいは両者には、東芝製識別機構が搭載されていると推測できる。
実際にどの程度まで識別できるかは不明である。器械による類識別機能が実用に達しているか、いないかを伺うことができる話は出ていない。
自動識別が実用水準にあれば、ISARだけで、リアルタイムでの類識別が可能ということになる。洋上で発見した目標が軍艦であるか否か、軍艦であるとしたら、何級であるかが判明する。ISAR搭載機は水上目標捜索で今まで以上に優位に立てる。
もちろん実運用によるデータ蓄積やフィードバックが重要であるが、日本にとっては難しい話ではない。日本はP-3C、EP-3、OP-3を約100機ほど保有している。P-3Cはそのうち60機分が飛び回っている。日中双方での新聞報道によれば、日中中間線から先にあるガス田監視は毎日行われている。冬季にはオホーツクでの流氷観測も毎日実施されている。実哨戒頻度、機数、方面、コースは公表されていないが、相当に高頻度で飛行している。
平時であれば、じきに精度はあがる。ISARでイメージ取得し、その後に目標を目視、光学で観察ができる。また、ESMとの連接もできるだろう。
ISAR装備は、海上戦力での日本側アドバンテージになるんじゃないのかな。
ま、そのうち、中露ほか大型水上艦は、港を出た段階で識別されるようになるのではないかな。艦隊を組んでも、大遠距離から、その構成が丸裸になる。有事には相当、不利になるのではないかな。
「中国やロシアも導入するから、チャラ」っていうのは違うと思う。中国やロシアがISAR技術だけをもってもどうしようもない。そもそも実用までの試行錯誤も難しい。海上哨戒機も数が少なく、専用機でもない。中国哨戒機は日本の太平洋側までまず飛んでこない。ロシア哨戒機も滅多にとんでこない。ISARによる識別以前に、単なる水上監視も難しいからねえ。
※ レーダに衝突コースである必要はなく、どの角度でもいい。飛行機側からみて、正面あるいは背後であれば理想的である。ピッチングの揺れがそのまま前後運動になる。
※※ Hewish,Mark,The eyes and ears of maritime patrol,Jane's Internatinal Defence Review,(Jane's,London,1996.10)p.p.28-35
※※※ 河原智一ほか「一部欠損のあるISAR画像における白色化部分空間法を用いた船舶の自動識別」『電子情報通信学会技術研究報告』(電子情報通信学会、2011.7)pp31-36 で認識させたモデル画像として「ちよだ、こんごう、むらさめ、むろと、しらね」が挙げられている。
防衛省が公表しているとおり、P-3CとSH-60KにはISARが搭載されている。ISARとは、逆合成開口レーダを略したものであり、長距離から船体形状を確認する能力を持っている。
艦船は航海中に動揺する。ピッチング(縦揺れ)、ローリング(横揺れ)、ヨーイング(方向揺れ)がある。その時、重心から離れた位置にある、マスト、艦橋、煙突、艦首艦尾は円運動をする。
動揺で生じる円運動は、航空機に搭載したレーダから見れば、距離方向への前後運動としての成分を持つ。
レーダに対して前後運動は、ドップラー・シフトを起こす。近づく救急車が出すサイレンが高く聞こえる。遠ざかるときには低く聞こえる。それと同じ理屈がレーダでも起きる。
ISARはドップラー・シフトを利用して船体形状を識別する。艦首、艦橋、マスト、煙突、艦尾が動揺で起こす前後運動で形状が判明する。
具体的に例を挙げると、理解しやすい。ISARを搭載した飛行機の真正面から衝突コースで進んでくる※艦船があるとして説明する。
ISARは、距離方向での分解能力も高い。雑誌記事に掲載された写真からすれば、分解能は距離10mとか5m※※といったものだろう。ISARで真正面から観察した場合、艦船は全長が判明する。艦首から跳ね返った反射波が最初に到達し、艦尾から跳ね返ってきた反射波が終わるまでの時間から計算できる。
この時に受波したレーダ反射波を、仮に10m刻みでスライスして周波数変化を分析する。重心から離れるほど、前後運動が大きくなり、ドップラー・シフトも大きくなる。つまり、周波数変化量が高さを示す。高さは相対的であるものの、
概略ではあるが、ISARで船体形状が判明する。レーダに真正面であれば艦首から艦橋・マスト、煙突、艦尾までの距離は正確にわかる。また、相対的ではあるものの、高さも判明する。もちろん誤差を減らすために、何回も繰り返す。成果として、ピンぼけ写真風ではあるにせよ、船体のシルエットを得ることができる。
ただし、レーダに対して船体が斜めであると、不正確になる。まず全長は縮んで見える。見かけ上で全長方向のスライスも甘くなる。ピッチングによる前後運動も見かけ上では、小さくなる。
しかし、プロポーションは変化しない。シルエット中で、艦首、艦橋、マスト、煙突、艦尾が示す比率は変わらない。艦船針路からある程度は船体はどの向きであるかも推測できるので、それなりに補正もできる。
ピッチングが起こす周波数変化も、ある程度はヨーイング、ローリングで代替できる。横から見た艦船イメージがわかるピッチング利用に対して、ヨーイングは上からみたイメージ、ローリングは正面から見たイメージなる。イメージとして使いにくいものの、ないよりはマシである。
実用的には、常に艦船がレーダに正体しているわけではない。ISAR画像で識別するためには、斜め位置から得られたピンぼけ写真を見て、船体プロポーションでの比率で判断することになる。
初期には、人間が識別していた。ン年前にP-3CでISAR画像を見たことがある。その時には、画像にディバイダー(両方が針のコンパス)を当てて、全長と、艦橋、マスト、煙突位置の比率を見て判断していた。もちろん、煙突が2本とかそういった特徴も加味するが、人間が判断していた。
しかし、現在では機械が行っている様子である。
まず、SH-60KにもISARが搭載されていることがその証拠である。これが船体イメージ取得用であり、機上で解析もできるISARだとすれば、自動で識別しているということになる。ヘリ機上で、ピンぼけ写真で比率だけ見て判断は無理であるからだ。
また、ISARでの軍艦画像識別に関し、自衛艦シルエットを用いた論文が存在する※※※ことも証拠である。河原ほか「一部欠損のあるISAR画像における白色化部分空間法を用いた船舶の自動識別」では、検証モデルとして、自衛艦である「ちよだ」「こんごう」「むらさめ」「むろと」「しらね」が利用されている。艦首、艦尾がちぎれた画像でも、それなりに似ている「こんごう」と「むらさめ」を識別できると主張している。
論文著者に東芝の肩書きもある。P-3C、SH-60Kのいずれか、あるいは両者には、東芝製識別機構が搭載されていると推測できる。
実際にどの程度まで識別できるかは不明である。器械による類識別機能が実用に達しているか、いないかを伺うことができる話は出ていない。
自動識別が実用水準にあれば、ISARだけで、リアルタイムでの類識別が可能ということになる。洋上で発見した目標が軍艦であるか否か、軍艦であるとしたら、何級であるかが判明する。ISAR搭載機は水上目標捜索で今まで以上に優位に立てる。
もちろん実運用によるデータ蓄積やフィードバックが重要であるが、日本にとっては難しい話ではない。日本はP-3C、EP-3、OP-3を約100機ほど保有している。P-3Cはそのうち60機分が飛び回っている。日中双方での新聞報道によれば、日中中間線から先にあるガス田監視は毎日行われている。冬季にはオホーツクでの流氷観測も毎日実施されている。実哨戒頻度、機数、方面、コースは公表されていないが、相当に高頻度で飛行している。
平時であれば、じきに精度はあがる。ISARでイメージ取得し、その後に目標を目視、光学で観察ができる。また、ESMとの連接もできるだろう。
ISAR装備は、海上戦力での日本側アドバンテージになるんじゃないのかな。
ま、そのうち、中露ほか大型水上艦は、港を出た段階で識別されるようになるのではないかな。艦隊を組んでも、大遠距離から、その構成が丸裸になる。有事には相当、不利になるのではないかな。
「中国やロシアも導入するから、チャラ」っていうのは違うと思う。中国やロシアがISAR技術だけをもってもどうしようもない。そもそも実用までの試行錯誤も難しい。海上哨戒機も数が少なく、専用機でもない。中国哨戒機は日本の太平洋側までまず飛んでこない。ロシア哨戒機も滅多にとんでこない。ISARによる識別以前に、単なる水上監視も難しいからねえ。
※ レーダに衝突コースである必要はなく、どの角度でもいい。飛行機側からみて、正面あるいは背後であれば理想的である。ピッチングの揺れがそのまま前後運動になる。
※※ Hewish,Mark,The eyes and ears of maritime patrol,Jane's Internatinal Defence Review,(Jane's,London,1996.10)p.p.28-35
※※※ 河原智一ほか「一部欠損のあるISAR画像における白色化部分空間法を用いた船舶の自動識別」『電子情報通信学会技術研究報告』(電子情報通信学会、2011.7)pp31-36 で認識させたモデル画像として「ちよだ、こんごう、むらさめ、むろと、しらね」が挙げられている。
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