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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2012.07
04
CM:0
TB:0
22:45
Category : ナショナリズム
 ふと思うことがあったので書いてみた。



 昨日3日と今日4日、領土問題に関するニュースが日本の南北で起きた。ロシアのメドベージェフ首相が国後島に上陸しロシア領であることを宣言した。尖閣諸島では台湾民間船と政府交船が尖閣諸島で日本領海に侵入し、中国領域であると主張した。それに憤慨して、政府の無策云々、政権政党云々する人がいる。しかし、どの政府でも、どんな政権政党でも、現実的に打つ手もない。

 だいたい、領土問題はどうやっても解決しない。

 もともと領有権主張は、水掛け論であり、決着はつかない。日本人からすれば、北方領土も尖閣諸島も日本領であることは自明。私も日本人なのでそう考えている。しかし、ロシア人や台湾人にしても、ロシア領であり、中国領であることは自明であり、疑う余地もない。話し合った所で何も解決しない。北方領土であれば、日本人は「北方領土は千島列島に含まれない」、「火事場泥棒で占領された島である」とする主張が揺るぎないものとしている。対して、ロシア人は「クリル列島に含まれる島」であり、「戦争で獲得した島である」と信じている。想像の共同体とはよくいったもので、ナショナリズムは確信が先に立つ宗教論争と同じだから、決着がつくはずもない。

 そもそも領土は神聖であり、絶対に喪うことが許されない。仮に領有論主張で正邪を納得させたところで、政党側に領土をホイホイ渡す政府はない。これはどの国でも同じ。日本でも、ロシアでも、台湾でも同じ話。どう交渉しても、領土を喪う国民は納得しない。政府・政権は信を喪い、倒される。

 領土交渉をする余地もない。神聖な領土を喪うような交渉、妥協はもともと成り立たない。戦争でもやって、相手を屈服させて、講和条件で領土主張を放棄しない限りは、領土交渉はできないと考えたほうが良い。

 結局、それぞれの政府にできることは、抗議程度しかない。口頭や文書による抗議、政府交船や軍艦を差し出しての示威的な抗議、大使召喚といったように、強度は色々ある。しかし、エスカレーションさせても得るものもない。そもそも、領土問題は解決しないのである。そこで領土以外の関係をこじらせても、得るものもない。

 北方領土、竹島、尖閣諸島といった領土問題は、すでに固定化している。関係国間では、漁業での調整措置、領海侵入や不法上陸での送還措置、コーストガードや軍隊同士の衝突予防措置が、明文か不文律かはともかく、ルールとして成立している。※ 政府も政権も、実質的にこのルールの中で行動する縛りがある。どの政権でも、政権政党でも、ルールの中でできるオプションは限定されている。打つ手はない。



※ このルールに違背したのが、2010年9月の中国漁船抑留、ビデオ流出だね。日本側がゲームのルールに違背したので、中国側もレアアース輸出やフジタ社員拘束をしたわけだ。日本は実績を一個積み上げたわけで、日本の勝ちといえば勝ちなのだが、最終的に解決しないゲームなので、日本人の溜飲を下げただけで、あまり意味は無かったねえ。



 まあ、次の戦争でケリつけるしかないんじゃないのかな。
 北方領土なら、日ソ国交正常化の時に2島返還で手を打つか、ソ連崩壊のドサクサで4島買い取るかがチャンスだったのだけれどもね。なんにせよ、両者にとっての利益になるシベリア開発は遅々として進まなかったのは損だった。そのうち、中国資本に取られるんじゃないかな。
 その点、尖閣で対立する日中は巧くいったもの。「戦略的互恵関係」という言葉で互いに誤魔化して、仲良くお金儲けをしている。日中両国関係は対立的であり、ドライであるように見える。でも実はウェットであるんじゃないかと己は思っているんだけどねえ
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2012.07
04
CM:1
TB:0
13:00
Category : ミリタリー
 国産機は過剰評価されるものだ。中国新哨戒機、高新6号についての中文記事を見つけたのだが、自画自賛に流れている。対潜機としてのハードを褒めるだけで、最も重要なソフトウェアは全く言及していない。分かっていて伏せているよりも、国産に目が眩み、気づかないのだろう。

 中国が開発したという対潜哨戒機、高新6号について香港誌が取り上げている。香港誌『鏡報』7月号、いつもの梁天仞さんの「6大高新戦機震撼問世」※ が取り上げている。これまでは「運-8輸送機を元にした機体である」程度から、一歩進んだ内容になっており、非常に興味深い内容になっている。

 しかし、国産機であるための自画自賛がある。そして、そこにある不利に着目しない点は残念である。

 梁さんは、機体そのものの性能を褒めている。高新6号は、6枚プロペラの4発機で、航続距離は短いものの、巡航速度、最高速度、最大離陸重量はP-3C相当であるという。低空性能も優れているとしている。P-3Cが機内ソノブイ48本しか積めないのに、高新6号は100本搭載できるとも言及している。

 しかし、対潜哨戒機でハードウェアを褒めても仕方がない。P-3Cもニムロッドもオリジナルは旅客機で、しかも古い。それと較べて勝っていても自慢にはならない。低空での運動性能についても、どの程度まで動けるものか。梁さんは「低空盤旋能力」を示しているが、MADを使った低空運動は思ったよりも激しい。潜水艦から離れると磁気以上は探知できないので、低く低く飛ぶ。飛沫がかかる高度60m程度まで下がって右に左に動きまわる。「可以在野戦機場所起飛」ともあるが、脚が長い哨戒機を野戦飛行場で運用する理由もない。「空空導弾、自防能力P-3C相若」とあるが、サイドワインダーの類はどんな機体でも運用できるので、取り立てるほどのものでもない。

 梁さんは、レーダーほかも褒めている。だが、そこに日米機が持っているISARはない。海自機がダンマリでいつの間にかつけている電子光学関連器材もない。P-3にあって、高新6号にないものは少なくない。

 特にソフトウェア、中でもデータベースの遅れは5年10年では追いつかない。

 パッシブでの対潜戦はデータベースとの照合作業になる。潜水艦から発生する音響データ、海洋での音響伝播データが重要になる。極端な話、器材であるソノブイの性能は中国でもどうとでもなる。しかし、音響データはどうしようもない。東シナ海を挟んで対峙する日米海軍、その潜水艦は特に静粛性が高い。潜水艦を見つけるのが難しい。その音響データを収集しなければならない。少なくとも潜水艦と潜水艦以外を聞き分けられるよう、データベース化するには至難である。

 ESM関連もデータベースとの照合である。データベースがなければ、ESM自体は作れても、その方向から電波が来ていることしかわからない。各種レーダの周波数、繰り返し周波数、輻射パターンといったデータを集め、どこの国の、何のレーダ波か。捜索用レーダなのか、射撃用レーダに捕まったのか、あるいはミサイル誘導用であるか。その電界強度と、距離による減衰との関係もはわからない。

 高新6号はそれらしい外形であるが、能力はP-3Cに追いつくものではない。外見や機体スペックはP-3Cなみかもしれない。だが、ソフトウェア、特にデータベースの遅れは、日米に追いつくものでもない。日本ですらP-3Cで使うデータベースの一部は、米国からブラックボックス形式で渡されていた。P-1で対潜機器独自開発を行ったが、背景にはここ20年30年をかけ、日本独自で収集したデータの集積がある。対して、間違いなく中国にはデータ集積はない。頼むロシアにもおそらくない。高新6号は、パッシブ戦やESMでは能力を発揮できない。

 国産装備は盲目的に評価される。そこで優れるものを挙げて賞賛する。しかし、あるべきものがないことは触れられない。これはどこの国でも変わるものでもない。日本でも、F-2を「対艦ミサイルが4発積める、万邦無比の対艦攻撃機」であるように讃えられていたが、80年台にはバッカニアもトーネードも同程度のミサイルを4発積んでいる。「F-16とは全く別物」とも褒めているが、F-16最新型と比べると大差もない。戦車も軍艦も似たようなものだろう。

 国産装備を褒めて褒めて褒めちぎる意見は、どこかに穴がある、アラはある。国産品を賞賛するのは色眼鏡であって、外さないと物事を見誤るのだろうね。



 しかし、『鏡報』も変わったもので、萌え系のページができているのには驚いたよ。大陸系出版社が出した香港誌で、実際には中国人が国内で主張できない話をしているので購読していたのだけれどもね。祈子陽さん作画の「甜甜圏看世界」という、まあ萌え系イラストによる紀行が掲載されている。「哈利法塔的伝奇」というドバイ旅行記なんだがね。香港や大陸のゆとり世代に阿らないといけないのだろうねえ。


※ 梁天仞「6大高新戦機震撼問世」『鏡報』420(鏡報文化企業有限公司,香港,2012.7)pp.80-82.
※※ 作者 甜甜圏,作画 祈子陽「哈利法塔的伝奇」『鏡報』420(鏡報文化企業有限公司,香港,2012.7)pp.102-103.


その他の高新シリーズ(高新1号-高新6号)は、こちらhttp://schmidametallborsig.blog130.fc2.com/blog-entry-337.html