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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2013.01
16
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13:00
Category : ミリタリー
 桜林さんの主張は「愛国無罪」そのものではないか?

 三菱による防衛省への過大請求事件について、桜林さんは国防のためにやった「工夫」であると主張している。「自衛隊の活動を支えていた防衛関連企業の見えない『やり繰り』」 では、請求書の金額を勝手に増やしたことを
国のためではありながら国に補填してもらえない赤字を、自分たちの社内の工夫でなんとか乗り切っていたということだ。
と述べている。

 いずれにせよ、実態は詐欺でしかない。「安い金額でできる」と請け負ったけれども「利潤が上がらないから」と請求書を水増しすることは「工夫」と言うことには無理がある。そもそも、低廉応札のウラには、後の維持保守契約や、契約変更での数量増加を見越した判断がある。その目論見が外れたところで「利潤が上がらないから」水増しというのは、信義則に反しています。

 しかし、防衛産業側に立った桜林さんには、それがわからない。桜林さんは事件という言葉を避けて「事案」という言葉を使っている。この点、桜林さんは自身を企業や官に擬する心情がある。当事者の心情であるからには、眼が曇り擁護するのも仕方がない。結果、「工夫」であったと主張するに至ったのである。

 ある防衛専門家は、桜林さんの主張を「愛国無罪」と述べた。名は秘するが、的確な評である。法で許されない行為でも、国家のためであれば罪とはならない。桜林さんの主張は、革命期の中国でよく見られた論理と変わるものではない。

 いずれにせよ、桜林さんの主張には、防衛側に都合の良い物が多い。言い方は悪いが、パペット、プロキシである。今回は
私が各所で「防衛産業はボロ儲けなどしていない」と言うと、現役自衛官からも「嘘だ! ちゃんと利益が出る仕組みになっているじゃないか」と反発されることがしばしばあるが、これで信じてもらえるだろうか。
と述べているが、GCIPの存在を理解しているとは思えない。競争入札の原価見積もりや、随意契約では、経費と利潤が確保されている。利益として、経費に利潤率であるGCIPを掛けたものが確保されている。GCIPは企業ごとに違うが、取りはぐれなのない官需にしては、なかなか高率になっている。もちろん、経費も取りはぐれはない。

 GCIPは、桜林さんが引用した資料にもでている。
防衛省は、原価計算方式で契約を行う際は、原価や経費について所定の率を適用して計算価格を算定している。この率は、各企業から製造原価や労務管理関係に関する非公開資料等を収集・分析して設定しているが、必ずしも企業で実際に発生する原価や経費をそのまま反映するものとはしてない。また、原価監査に当たっても、同様な計算方法を用いて支払金額を確定している。このため、防衛省が受注者に支払う金額が、実際に履行に要した費用に適正利益を加えた額を下回る契約案件が発生する。
桜林さんは、後半の「下回る契約事案が発生する」だけを見て『防衛産業はボロ儲けなどしていない』と述べている。あたかも赤字を垂れ流しているような主張である。しかし、ほとんどは上回る事案もあるし、中には「ボロ儲け」としか見えない契約もある。そもそも積み上げた経費が確保され、自動的に利益率が確保される構造は悪いものではない。

 桜林さんは、防衛側、あるいは防衛産業側の主張を鵜呑みにして、右から左に流しているだけである。そこに自身の判断や解釈はない。例えば新潮に掲載された「トホホな自衛隊で国が守れるか」※※ がある。自衛隊の問題点として、片軸運転、低燃費飛行、ボイラ制限等を挙げているが、前二者は問題ではなく、後者も問題は陸自の体質にある。

 護衛艦や戦闘機が、平時の巡航時に経済運転することは、当たり前の話にすぎない。桜林さんが「トホホ」と主張する海自艦艇が「二つのスクリューのうち一つを止めるなどして実施」は、片軸運転といって、ガスタービン艦艇では昔からやっている方法である。巡航速度は1軸で発揮できる上、燃料は少なくて済む。やらないほうが奇妙である。「訓練空域までの往復は低燃費飛行」にしても、長距離進出時は経済速力で巡航するのは当然であり、戦闘出力を出す必要はない。なぜ、経済運転が「トホホ」であるのかは、全く理解できない。

 陸自について「トホホ」と主張する分は、陸自が予算要求でケチっただけの話に過ぎない。入浴制限や暖房制限は、ボイラで焚く燃料費をケチった結果である。他のオンボロ隊舎そのほかの問題を含めて「営舎維持費」や「雑運営費」(という予算がある)をケチって、正面装備や訓練の予算を欲張って確保しようとした結果うまれたものである。コピーや事務用品、トイレットペーパーを自費で調達するのも、部隊や地方の「庁費」(という予算がある)を吸い上げて中央に持っていった結果である。その辺りをキチンと要求する海空自では問題にもなっていない。桜林さんは海空部隊も回っている、そこでは「陸自にはなかったものがある」ことに気づかなければならないはずであるが、それがない。

 もともと片軸運転以下を貧乏に見せるのは、当局側が予算要求する上でのレトリックに過ぎない。それを見抜けず、自衛隊広報ほかの言い分をそのままに「トホホ」として開陳し、同情を引こうとしている。桜林さんは、JBプレスでは「国防問題などを中心に取材・執筆。」としているが、取材で聞いたことを解釈せず、右から左に執筆するようでは、やはりパペットやプロキシであるようにしか見えないだろう。



※ 桜林美佐「自衛隊の活動を支えていた防衛関連企業の見えない『やり繰り』http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36888
※※ 桜林美佐「『レトロ戦車』『クラシック小銃』『省略戦闘機』トホホな自衛隊で国を守れるか」『週刊新潮 2010年4月8日号』(新潮社,2010)
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