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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2013.04
09
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13:00
Category : 有職故実
 モンゴル人民軍についての聞き取り調査があるのだけれども。赤い監獄と忌避され、そのなかでのイジメや負の側面が現れている。それでも兵役は悪くない、兵役いかない男は一人前ではないと兵役経験者がいう。モンゴルも、男らしさを誇示しなければならない社会なんだろう。



 『国立民族学博物館研究報告』に、娜仁格日勒さんの「1960~1980年代におけるモンゴル人民軍の生活実態」※ が載っている。内蒙古大学教授の娜仁格日さん(でいいのかな)がモンゴルでの聞き取り調査をしたものだ。

 冷戦期、モンゴル人民軍は最悪の状態にあった。娜仁格日さんは、聞き取り調査の部分「5 軍隊生活の実態-当事者の証言」で
飢寒状態、上下関係の悪化及び官僚主義的腐敗行為が一般化し、制度の不備に伴う無法状況下で、法に抵触するリンチや暴力、それに強盗などが多発していた
   「1960~1980年代におけるモンゴル人民軍の生活実態」p.168
と総括している。

 実際に、聞き取り調査は「紀律大隊」(ママ)から提示されている。紀律大隊は、犯罪者を集めて作った部隊であり、犯罪将兵を民間刑務所に送ると余計に悪さを覚えて帰ってくるので造られた。普通の軍隊よりも待遇を厳しくした収容所のようなものである。将兵は階級章をつけない。50%が小隊長経験者で、兵士への暴力で軍法会議に送り方となり、大隊に送られたとされている。

 兵士への暴力は旧日本軍隊と同じか、それ以上である。何かあると拳や棒で殴る。椅子で背もたれが折れるほど殴る。6ヶ月前に入隊した古年兵が、6ヶ月後に入ってきた新兵を「トイレに呼び出してバハル(Baqal)というロシア製の非常に硬い長靴を使って殴る」というのは、旧軍での革スリッパでのビンタに近い。「『自転車に乗る』というのは被害者の足のゆびの間に棉を挟ませ、それに火をつけるものである。被害者は熱さに我慢できず、自転車をこぐように足を動かす」というものもある。また、大量の飲み物を飲ませ、トイレに行かせずに失禁させる。飲み物を与えずにパンを腹一杯に食べさせ、ベルトを締めあげて走らせて嘔吐させるというものも採取されている。

 殺人も行われていたらしい。「兵士がお互いを建物の上から押し合い、落として死亡させる。しかし、家族に通知するときは事故死」というやり方と、それをソ連の影響とした経験者の話もある。また「何らかのトラブル或いは以前の仲たがいによって、相手を撃ち殺しておきながら銃が暴発したという」「暴発事故の多くが新兵同士ではなく、2年か3年の老兵による新兵に対するものであ」り、不自然であるという話もある。

 当然ながら、自殺者も多発する。「ズゥーンバーヤン駐屯部隊だけで毎年の自殺者は10~20人であった」や「1984年末、131部隊の新兵がズボンのベルトを使ってトイレで首をつって自殺した」という内容も再録されている。概ね旧日本軍隊と同じ雰囲気だったのだろう。

 しかし、暴力を肯定してそれを乗り越えないと男になれないという風潮もある。聞き取りでは「男は飢寒に晒され、殴られ、いじめられといったような多くの苦難を経て成長していくものである」や「兵士の経歴のない男は本当の男ではない、軍隊のいじめなどを乗り越えられない、耐えられない軍人がごみ同然である」といった意見も掲載されている。

 徴兵での理不尽に耐えて一人前になるという話は日本でもある。日本では兵隊に取られたことのない、六十七十の爺様が偉そうに言うが、それにくらべて、モンゴルではまだ兵隊に取られた人間が述べているだけはマシなのかもしれない。

 モンゴルには、イジメ、暴力、理不尽、殺人、自殺といった、前近代的な無法組織がつい最近まで存在していた。学校の先生なんかも、徴兵上がりが無茶をやったりしたのだろう。そういった雰囲気で生育ったモンゴル人は、ほかの国民に比べ、まだ無法組織で耐えることができるのではないか。



 まあ、これが相撲でモンゴル人が強い理由の一つかもしれない。イジメ、暴力、理不尽、殺人、自殺、そして前近代的な男らしさを建前とする相撲部屋とモンゴル人の相性は、ほかの国民の相性に較べれば高い。モンゴル人が横綱大関以下の多くを占める理由はその辺りにあるのではないかな。

※ 娜仁格日勒「1960~1980年代におけるモンゴル人民軍の生活実態」『国立民族学博物館研究報告』35巻1号(国立民族学博物館、2011.11)pp.139-210
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