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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2013.07
13
CM:3
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12:00
Category : 映画
 試写会に行って来ました。いや、映画館用の予告編で少しだけ出てくる、試作烈風での堀越二郎の空戦体験を楽しみにしていたのですけど、それ以上の収穫があってホクホクしました。

 烈風での空戦もすごかったのですよ。再現しないトラブルの繰り返しに、同乗で確認しようとした堀越技師が空戦に巻き込まれる。空戦中にパイロットの赤松さんに「乗り心地はどうだ」と言われるが、「最悪だな」としか答えられない。「それならもっといい飛行機を作れ」「わかった」という話のあとの、被弾からのシーンは、確かに物語としてのカタルシスでしょう。

 烈風の胴体に機銃弾が貫通すると、暗い機体後部に光が差し込んでくる。その孔から外を観察すると、P-51のような機体に取り囲まれていることがわかります。赤松さんは「本土上空で陸軍機が来るようになったらオシマイだろ」といいながら、最低限の回避を繰り返し、あとはひたすら高度をとって離脱を図ろうとするが、衆寡は敵しない。やはり少数の命中弾は避けられない。

 「奴らは15分、あるいは10分で帰っていく、それまで辛抱してよ」と後ろに怒鳴るのだが、もともと寡黙な堀越さんは何も答えない。ただ、弱い声で左下後方、方位変わらず近づいてくると、死角の方向を観察した声だけを挙げてくる

 そのうち、敵集団が突然混乱した動きをするが、すぐに三々五々に帰っていく。ヤレヤレとした時に、後部から「真後ろ」、「マスタング」「突っ込んでくる」という声が聞こえる。赤松さんが、ああっと声を挙げると、ムスタングは何もせずに真横に並んで飛んでいる。その機体には日の丸がついている。陸軍の捕獲機が援護してくれたのだが、接近したパイロットが身振り手振りで何かを伝えようとしている。キャノピーを上げて大声で怒鳴りあうと、機体後部がエライことになっているのがうすうすわかる。

 そういえば操縦感覚がオカシイ、今までで一度もない感覚だと気づく。「どうも操縦系がやられたみたいですが、堀越さん、後ろはどうですか、妙にフワフワするんですよね」といっても何も帰ってこない。マスタングの援護と指示により、とりあえず福生に降りると、救急車が待機している。念のいったことだと着陸すると、地上員は赤松さんを無視して、いきなり胴体の横腹に向かっていく、胴体を切り裂いて出てきた堀越さんは…という話は、やはりクライマックスなんでしょう。戦後、堀越さんは雑誌媒体には結構寄稿するのですが、テレビに出てこないあたりと関係する実話なのでしょう。

 しかし、それよりも驚いたのが、9試艦戦の事故を入念に追い続けた中盤描写です。9試艦戦開発の黒歴史、堀越さんがアレに変わってしまう事件で、あまり触れないようにしていたエピソード。音速突破の物語を、潤色も込めてですが延々とやり続けるのは、宮崎作品ならではの展開でしょう。

 プロペラ機で、音速突破をしようという話です。戦前、国威発揚を兼ねて何回も行われた実験に焦点を当てた作品は、初めてのものでしょう。空気の薄い高高度に上がり、急降下のあと、ついに90度で降下する。重力加速度を利用して音速を超えようという実験です。400kt500ktまでは、空気も薄ければ問題もないのですが、全金属製の9試艦戦でも、低空の濃密な大気との衝突には耐えられない。異常振動により、機体は分解してしまいパイロットは大怪我をうする。振動対策をしてもダメ、多少丈夫につくってもダメで、パイロットの傷はどんどん厳しくなる。最後に、固定脚の外側で主翼を切断して、その外に使い捨ての仮設翼をつけて降下する実験をやる…その結末はネタバレで書くべきではないのですが、ドーン(アレも口で作った効果音さそうです)と言う音が流れるところは、まあリスペクトなんでしょう。

 実際に、96艦戦は固定脚の内側だけ残れば飛行できるという説もあります。仮に体当りして左右いずれか、場合によれば両翼端を失っても飛行できる等と言われた話もあります。実際はそんなことあるわけもないのですけどね。だいたい空中戦で体当たりとか、しかもバランスのわるい片翼帰還なんかできるわけない。そりゃ、金鵄勲章物だろうと思うのですが、それも宮崎式のロマンなんでしょう。その話を戦闘での話にせず、音速に挑む樫村パイロットの執念の話に仕上げているのが、宮崎流です。

 ただ、マニアとしては、黒江さんの出番にニヤリとしてしまうのは業でしょう。実際に、音速突破実験に立ち会った陸軍の黒江さんと、マスタングのパイロットの黒江さんと、戦後日本人で初めて音速を突破した空自の黒江さんですが、キチンと同一人物としてわかるように描いてあります。そのあたりは、非常によろしいものですなと言うのが、最大の感想なのです。よくみると、黒江さんの私服のネクタイに、垂直降下で音速を超えたセイバー・パイロットに送られる「セイバー・クラブ」のネクタイピンがついているのですが、そこはご愛嬌でしょう。まあ、このあたりはそれは本筋から離れた部分なので、ネタバレもここらでオシマイということで。
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