Category : ミリタリー
陸軍国との比較や、GDPや、人口あたりの軍人数はあまり意味はない。井上和彦さんは「日本の自衛隊、資質や士気高いが深刻な問題も」※ で、3つの数字を出して「自衛隊の戦力がいかに少ないかが分かる。」と嘆いている。だが、いずれも根拠としては怪しいものだ。
軍隊の多い国と比較して、自衛隊が少ないとする主張は、意味がない。井上さんは、自衛隊の人員数23万を米国(157万)、中国(229万)、北朝鮮(120万)、韓国(66万)と比較して少ないと評している。しかし、米軍は全世界に介入する軍隊である。中国軍は長大な国境で他国と対峙している。北朝鮮と韓国は内戦中であり、停戦ラインを挟んで睨んでいる。これらを無視して、自衛隊総兵力を比較することは妥当ではない。
また、軍事費のGDP比率を以って、日本の防衛費が少ないとする井上さんの主張も妥当ではない。井上さんはGDP比率をもって、日本防衛費、4兆7000億円を「各国の半分以下」であり少額と主張している。つまり、防衛費に9兆円以上を注ぎ込めというようなものだ。国防費9兆円となると、世界第二位の額である。戦争もしていないというのに、世界第二位の金額を何に使うのか。そもそも、日本の税収は40兆円である。そして国債の償還費を毎年20兆円払う原状である。基本的に動ける幅は残り20兆しかないしかない。そのうちの、防衛費は既に1/4を占めているというのに、それを倍にして、実質的な歳入のうち、半分を防衛費に費やせというのは尋常ではない。防衛が栄えれば国が滅んでもよいと言っているようなものだ。
井上さんが指摘する、人口あたり軍人数も、意味のある数字ではない。まず、今後主流となる自衛隊海外活動では、日本の人口に対する自衛隊員の比率を云々しても仕方がない。そして、優先度が下がる国土防衛についての指摘にしても、人口あたりよりも面積あたりの兵員数で比較しなければならない。陸上作戦が土地の支配を競うものであることからすれば、総人口あたり軍人の数は意味を持たない。そして、国土狭隘な日本は、面積あたりの兵員数ではむしろ米中露を超えている。(このあたりは「面積あたりでみりゃ、戦車は多すぎるね」でも同じようなことを説明した)
井上さんの主張は、防衛省・自衛隊が部内誌や部内講話でしていた、内輪話をそのまま書いただけのものである。アレな自衛官が「自衛隊は人数が足りない、だから増やせ」という内輪話をするときに、毎回出てくる根拠にすぎない。この主張は、自衛隊内では、内弁慶を発揮する。だが、その根拠も結論は外に出せるようなものではない。たまにOBが雑誌で発表したりするが、防衛費を5割10割増し、陸自30万50万といった非現実的な話であり、馬鹿にされるだけの話だからだ。
井上さんが新聞にそれを発表するのは、自衛隊へのヨイショでしかない。上の理屈は、井上さん本人も内心では馬鹿にしている論理だろう。何の根拠もなく、必要性も示せない数字にすぎない。しかし、新聞で主張した実績をつくることで、高級感部も含まれるアレ自衛官にはウケが良くなる。それで自衛隊の歓心を買おうとするものだ。
いずれにせよ、井上さんの陸軍国との比較や、GDPや、人口あたりの軍人数を持ちだしての主張は、根拠になり得ないものであり、容易に反論することができる。
外国兵力数との比較については、陸上国境を持たない国との比較で反論できる。日本同様に、四面環海の英国でも兵員数は20万人であり、自衛隊よりも少ない。国境が安定しているという意味では、日本や英国と同様の仏独にしても、仏国23万、独国19万に過ぎない。自衛隊と同じか、それよりも少ない。
自衛隊人員数は、英仏独軍の人員数とほとんど差異はない。これは「自衛隊の戦力がいかに少ないか」と嘆くことが、大げさであることを浮き彫りにする。日本には自然の防壁としての海がある。日本(と米国)が海を好きにできる限り、中朝韓のように、戦力の過半を占める陸上兵力はあまり必要はないのである。
GDP比率の話も容易に反論できる。GDP比率は、その国に必要な防衛予算を算定する根拠にはならない。GDP/GNP比率の話は、もともと、1950年代にアメリカが同盟国の尻を叩くために作ったロジックである。各国に軍事支出を増やすことを要求するとき、各国には予算規模に差があるので「各国はGNP比率でこの程度は支出してくれ」としたものだ。冷戦に勝つため、これくらい軍事費を増やしてくれという寄付金あつめのようなものだ。
このGDPの話は、根本的な矛盾をはらんでいる。井上さんの言うように「GDP比率の軍事予算が少ないので防衛に支障をきたす」理屈は、逆に「GDPを下げれば日本の防衛は充実する」という奇妙な結論を導いてしまう。
人員あたりの軍人数も同じ方法で矛盾をつくことができる。井上さんの主張の通り「人口あたりの軍人数が少ないので、防衛に支障がある」という理屈は、逆に「同じ隊員数でも、人口が減らせば軍人比率が高くなるので、防衛が充実する」という、珍奇な結論になるなってしまうのである。
井上和彦さんがしている主張の根拠は、妥当性がないということだ。
※ 井上和彦「日本の自衛隊、資質や士気高いが深刻な問題も」『ZAKZAK』(産経新聞,2013.07.14)http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130714/plt1307140730000-n1.htm
軍隊の多い国と比較して、自衛隊が少ないとする主張は、意味がない。井上さんは、自衛隊の人員数23万を米国(157万)、中国(229万)、北朝鮮(120万)、韓国(66万)と比較して少ないと評している。しかし、米軍は全世界に介入する軍隊である。中国軍は長大な国境で他国と対峙している。北朝鮮と韓国は内戦中であり、停戦ラインを挟んで睨んでいる。これらを無視して、自衛隊総兵力を比較することは妥当ではない。
また、軍事費のGDP比率を以って、日本の防衛費が少ないとする井上さんの主張も妥当ではない。井上さんはGDP比率をもって、日本防衛費、4兆7000億円を「各国の半分以下」であり少額と主張している。つまり、防衛費に9兆円以上を注ぎ込めというようなものだ。国防費9兆円となると、世界第二位の額である。戦争もしていないというのに、世界第二位の金額を何に使うのか。そもそも、日本の税収は40兆円である。そして国債の償還費を毎年20兆円払う原状である。基本的に動ける幅は残り20兆しかないしかない。そのうちの、防衛費は既に1/4を占めているというのに、それを倍にして、実質的な歳入のうち、半分を防衛費に費やせというのは尋常ではない。防衛が栄えれば国が滅んでもよいと言っているようなものだ。
井上さんが指摘する、人口あたり軍人数も、意味のある数字ではない。まず、今後主流となる自衛隊海外活動では、日本の人口に対する自衛隊員の比率を云々しても仕方がない。そして、優先度が下がる国土防衛についての指摘にしても、人口あたりよりも面積あたりの兵員数で比較しなければならない。陸上作戦が土地の支配を競うものであることからすれば、総人口あたり軍人の数は意味を持たない。そして、国土狭隘な日本は、面積あたりの兵員数ではむしろ米中露を超えている。(このあたりは「面積あたりでみりゃ、戦車は多すぎるね」でも同じようなことを説明した)
井上さんの主張は、防衛省・自衛隊が部内誌や部内講話でしていた、内輪話をそのまま書いただけのものである。アレな自衛官が「自衛隊は人数が足りない、だから増やせ」という内輪話をするときに、毎回出てくる根拠にすぎない。この主張は、自衛隊内では、内弁慶を発揮する。だが、その根拠も結論は外に出せるようなものではない。たまにOBが雑誌で発表したりするが、防衛費を5割10割増し、陸自30万50万といった非現実的な話であり、馬鹿にされるだけの話だからだ。
井上さんが新聞にそれを発表するのは、自衛隊へのヨイショでしかない。上の理屈は、井上さん本人も内心では馬鹿にしている論理だろう。何の根拠もなく、必要性も示せない数字にすぎない。しかし、新聞で主張した実績をつくることで、高級感部も含まれるアレ自衛官にはウケが良くなる。それで自衛隊の歓心を買おうとするものだ。
いずれにせよ、井上さんの陸軍国との比較や、GDPや、人口あたりの軍人数を持ちだしての主張は、根拠になり得ないものであり、容易に反論することができる。
外国兵力数との比較については、陸上国境を持たない国との比較で反論できる。日本同様に、四面環海の英国でも兵員数は20万人であり、自衛隊よりも少ない。国境が安定しているという意味では、日本や英国と同様の仏独にしても、仏国23万、独国19万に過ぎない。自衛隊と同じか、それよりも少ない。
自衛隊人員数は、英仏独軍の人員数とほとんど差異はない。これは「自衛隊の戦力がいかに少ないか」と嘆くことが、大げさであることを浮き彫りにする。日本には自然の防壁としての海がある。日本(と米国)が海を好きにできる限り、中朝韓のように、戦力の過半を占める陸上兵力はあまり必要はないのである。
GDP比率の話も容易に反論できる。GDP比率は、その国に必要な防衛予算を算定する根拠にはならない。GDP/GNP比率の話は、もともと、1950年代にアメリカが同盟国の尻を叩くために作ったロジックである。各国に軍事支出を増やすことを要求するとき、各国には予算規模に差があるので「各国はGNP比率でこの程度は支出してくれ」としたものだ。冷戦に勝つため、これくらい軍事費を増やしてくれという寄付金あつめのようなものだ。
このGDPの話は、根本的な矛盾をはらんでいる。井上さんの言うように「GDP比率の軍事予算が少ないので防衛に支障をきたす」理屈は、逆に「GDPを下げれば日本の防衛は充実する」という奇妙な結論を導いてしまう。
人員あたりの軍人数も同じ方法で矛盾をつくことができる。井上さんの主張の通り「人口あたりの軍人数が少ないので、防衛に支障がある」という理屈は、逆に「同じ隊員数でも、人口が減らせば軍人比率が高くなるので、防衛が充実する」という、珍奇な結論になるなってしまうのである。
井上和彦さんがしている主張の根拠は、妥当性がないということだ。
※ 井上和彦「日本の自衛隊、資質や士気高いが深刻な問題も」『ZAKZAK』(産経新聞,2013.07.14)http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130714/plt1307140730000-n1.htm
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