Category : ミリタリー
カナダの駆逐艦と補給艦が衝突したニュースがある。たとえば"Canadian warships collide during manoeuvres in Pacific"と報じられている。シアトル対岸にある加領ビクトリア、エスクィモルト(ピュージェット・サウンドから100kmも離れていない)から、ハワイにいく中途、訓練中にぶつかったという。
※がそれである。
訓練は、曳き船・曳かれ船というもの。互いが互いを曳航する作業で、片方が曳航船となり、残りが被曳航船となる。自動車で言えば、エンスト車牽引のお稽古のようなもの。
曳航は相当に難しい。海自でも、艦艇の技量を見るには、曳き船・曳かれ船をやらせるのが一番良いという話もある。
まず、曳き出す過程が難しい。曳航側、引っ張るほうが曳航索を準備するのだが、最初から全部を繰り出すものではない。いきなり張り合わせると、索に溜まる張力が悪さをする。曳航索はゴム紐のようなもので、曳かれる方の船を近づけてブツけるとか、索が切れて暴れだし両艦艇作業甲板上にいる人間を殺傷する可能性がある。平時訓練で時間があれば、相当に準備する。後甲板に板を敷き、曳航索を蛇行させ、そこに一種パワーヒューズとして、索に10センチ間隔で細紐をつけて板と結束する。曳航を始めてテンションが掛かりだすとき、細紐を斧で傷つけて張力を少しずつ逃す。航洋曳船や海保の巡視船には、張力を調整する曳航装置があるが、軍艦にはない。
曳っぱりだしたあとも面倒くさい。自動車ならば、牽引される方にハンドルもブレーキもある。しかし、艦船にはそんな便利なものはない。ハンドルに相当する舵は、効き出すまで時間がかかる上に、曲がれる範囲も相当に制限される。ブレーキに相当するのは、機械が生きていれば、有効なのはスクリュー逆転程度で、あとは気休め程度にスクリューの遊転/固定設定と、可変ピッチプロペラのピッチ変換があるだけである。同じ速度で真っ直ぐ進むにしても、外力や固有振動周期で多少は暴れる。変速や変針でどういう挙動をするのか分かったものではない。
なにより止めるのが難しい。機関や舵が生きている艦艇なら、後進や舵を活用すればどうにかなる。しかし、本来はどちらもダメになった艦船を想定しての訓練になっている。常に安全側には振れるものではない。
だから、軍艦による曳航訓練で事故がでるのは、仕方がない部分もある。特に実戦的な曳航訓練、準備を省略しての曳航開始や、比較的高速での曳航をすれば、事故は起きやすい。しかし、実戦的な曳航訓練をしていないと、戦闘状況ほかで上手に曳航できない可能性が高く、艦船を喪うことになる。
便宜上海軍と呼ぶが、カナダ海軍は正当な英連邦海軍である。英連邦海軍は実戦経験を重視する。厳密に安全性を確保するより、実戦や実遭難での対応力確保を重視していたのかもしれない。事故を起こしたことは不手際であるが、事故を恐れるあまりに実戦的な訓練ができないとか、そもそも曳き船・曳かれ船ができない海軍よりはよほど立派で、頼もしい。
そのカナダ海軍に、中国とのゲームに多少であれ参加したほうがよくないかという話※※ もある。キチンとした海軍力が日米側に積み上がれば、中国によるキャッチアップは相当困難なものとなるだろう。
※ "Canadian warships collide during manoeuvres in Pacific""The Star.com CANADA"(Toronto Star Newspapers,2013.9.2)http://www.thestar.com/news/canada/2013/08/31/two_canadian_warships_collide_during_exercise_manoeuvres_en_route_to_hawaii.html
※※ O’Neil,Peter"Navy should shift warships to West Coast in response to China’s aggressive military buildup, defence analysts say""National POST"(National Post,2013.8.11)http://news.nationalpost.com/2013/08/11/navy-should-shift-warships-to-west-coast-in-response-to-chinas-aggressive-military-buildup-defence-analysts-say/
※がそれである。
訓練は、曳き船・曳かれ船というもの。互いが互いを曳航する作業で、片方が曳航船となり、残りが被曳航船となる。自動車で言えば、エンスト車牽引のお稽古のようなもの。
曳航は相当に難しい。海自でも、艦艇の技量を見るには、曳き船・曳かれ船をやらせるのが一番良いという話もある。
まず、曳き出す過程が難しい。曳航側、引っ張るほうが曳航索を準備するのだが、最初から全部を繰り出すものではない。いきなり張り合わせると、索に溜まる張力が悪さをする。曳航索はゴム紐のようなもので、曳かれる方の船を近づけてブツけるとか、索が切れて暴れだし両艦艇作業甲板上にいる人間を殺傷する可能性がある。平時訓練で時間があれば、相当に準備する。後甲板に板を敷き、曳航索を蛇行させ、そこに一種パワーヒューズとして、索に10センチ間隔で細紐をつけて板と結束する。曳航を始めてテンションが掛かりだすとき、細紐を斧で傷つけて張力を少しずつ逃す。航洋曳船や海保の巡視船には、張力を調整する曳航装置があるが、軍艦にはない。
曳っぱりだしたあとも面倒くさい。自動車ならば、牽引される方にハンドルもブレーキもある。しかし、艦船にはそんな便利なものはない。ハンドルに相当する舵は、効き出すまで時間がかかる上に、曲がれる範囲も相当に制限される。ブレーキに相当するのは、機械が生きていれば、有効なのはスクリュー逆転程度で、あとは気休め程度にスクリューの遊転/固定設定と、可変ピッチプロペラのピッチ変換があるだけである。同じ速度で真っ直ぐ進むにしても、外力や固有振動周期で多少は暴れる。変速や変針でどういう挙動をするのか分かったものではない。
なにより止めるのが難しい。機関や舵が生きている艦艇なら、後進や舵を活用すればどうにかなる。しかし、本来はどちらもダメになった艦船を想定しての訓練になっている。常に安全側には振れるものではない。
だから、軍艦による曳航訓練で事故がでるのは、仕方がない部分もある。特に実戦的な曳航訓練、準備を省略しての曳航開始や、比較的高速での曳航をすれば、事故は起きやすい。しかし、実戦的な曳航訓練をしていないと、戦闘状況ほかで上手に曳航できない可能性が高く、艦船を喪うことになる。
便宜上海軍と呼ぶが、カナダ海軍は正当な英連邦海軍である。英連邦海軍は実戦経験を重視する。厳密に安全性を確保するより、実戦や実遭難での対応力確保を重視していたのかもしれない。事故を起こしたことは不手際であるが、事故を恐れるあまりに実戦的な訓練ができないとか、そもそも曳き船・曳かれ船ができない海軍よりはよほど立派で、頼もしい。
そのカナダ海軍に、中国とのゲームに多少であれ参加したほうがよくないかという話※※ もある。キチンとした海軍力が日米側に積み上がれば、中国によるキャッチアップは相当困難なものとなるだろう。
※ "Canadian warships collide during manoeuvres in Pacific""The Star.com CANADA"(Toronto Star Newspapers,2013.9.2)http://www.thestar.com/news/canada/2013/08/31/two_canadian_warships_collide_during_exercise_manoeuvres_en_route_to_hawaii.html
※※ O’Neil,Peter"Navy should shift warships to West Coast in response to China’s aggressive military buildup, defence analysts say""National POST"(National Post,2013.8.11)http://news.nationalpost.com/2013/08/11/navy-should-shift-warships-to-west-coast-in-response-to-chinas-aggressive-military-buildup-defence-analysts-say/
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