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北朝鮮の多連装ロケットは、韓国にとってそれほどの脅威だろうか?
高橋浩祐さんの「北の脅威を一気に高める新兵器『KN-09』」は、興味ふかい記事である。北朝鮮が新型多連装ロケットを保有している点と、その内実について知られている限りの情報を提供して、その全体像や効果について論じており、なかなか面白い。
そこで高橋さんは、KN-09とされる多連装ロケットの射程をもって脅威と述べている。射程が在来型多連装ロケットの3倍にあたる190-200kmと言った点を評価してのことだ。
しかし、KN-09は大した脅威の積み増しにはならない。KN-09をロケットとする前提で述べるが、命中精度は期待できず①、威力は少ない②、新しい心理的効果も見込めない③、ためである。
① まず、KN-09の命中精度には余り期待できない。多連装ロケットそのものが精度を発射数で補う発想に基づくものであり、ロケット弾の命中精度は高くはない。
多連装ロケットの命中精度は、近距離でも1%近くに達する。射程10km程度のロケットでも、距離方向に射程の0.5%、方位方向に1%の散らばりがでる。この散らばりは距離が伸びれば伸びるほど大きくなる。
KN-09については、おそらく命中精度としてはまぐれ当たりしか期待できない。その命中精度が200km先で1.5%とすれば、直径3kmの円のどこかに落ちる程度に過ぎない。通常弾頭では混乱を起こす(輸送網に対してはそれなりに効果があるだろう)ことはできても、何かを確実に壊したり、軍隊等狙った人員を確実に殺傷することは期待できない。
② また、威力が少ないといった問題もある。結局はロケット弾であり、弾頭はそれほど大きくもない。砲弾に比べると、ロケット弾の弾頭は軽く、存速も遅く、一般的に弾殻も薄い(厚くもできるけれども)ので、榴弾威力そのものは小さい。威力が低めになる点は、弾道弾と比較しても同じである。空中爆発であれば、地下壕程度でも耐えられる程度に過ぎない。
③ そして、新しい心理効果は生まれない。北朝鮮はすでに短距離弾道弾を多数保有し、韓国全土を射程に収めている。後方地帯でも北朝鮮に攻撃されるといった心理的効果はすでに存在している。そこに、ヨリ短射程でヨリ低威力のロケット弾が登場しても、新しい恐怖、心理的な脅威は生まれない。
これらの点からみても、KN-09は結局は2門目、3門目のパリ砲にすぎないのでは無いか。パリ砲とは、第一次世界大戦でドイツが使った長距離砲で、パリを直接砲撃した実績を持つ砲であるが、結局は大した混乱も起こせなかった。しかも、③で述べたように、北朝鮮はすでに短距離弾道弾を持っている。この点からすると、パリ砲が増えた程度であり、大した恐怖の積み増しにはならない。
さらに、北朝鮮としても、それほど魅力的な装備とも思えない。射程200kmまでの短距離弾道弾の代わりとしても、命中精度も弾頭威力も低い。しかし、ロケット弾としては高価である。相手に見せる兵器としてはいいかもしれないが、実用性に加えて価格面でもあまりメリットはないように見える。
なお、高橋さんはミサイルの可能性も否定できないとしている。もちろんそうだが、仮に誘導機構を持つミサイルだった場合には、精度は上がるが、価格はそれ以上にハネ上がる。威力を考えれば、割が合わない兵器だろう。
※ 高橋浩祐「北の脅威を一気に高める新兵器『KN-09』」『東洋経済オンライン』(東洋経済新報社,2014.4.9)http://toyokeizai.net/articles/-/34898
高橋浩祐さんの「北の脅威を一気に高める新兵器『KN-09』」は、興味ふかい記事である。北朝鮮が新型多連装ロケットを保有している点と、その内実について知られている限りの情報を提供して、その全体像や効果について論じており、なかなか面白い。
そこで高橋さんは、KN-09とされる多連装ロケットの射程をもって脅威と述べている。射程が在来型多連装ロケットの3倍にあたる190-200kmと言った点を評価してのことだ。
しかし、KN-09は大した脅威の積み増しにはならない。KN-09をロケットとする前提で述べるが、命中精度は期待できず①、威力は少ない②、新しい心理的効果も見込めない③、ためである。
① まず、KN-09の命中精度には余り期待できない。多連装ロケットそのものが精度を発射数で補う発想に基づくものであり、ロケット弾の命中精度は高くはない。
多連装ロケットの命中精度は、近距離でも1%近くに達する。射程10km程度のロケットでも、距離方向に射程の0.5%、方位方向に1%の散らばりがでる。この散らばりは距離が伸びれば伸びるほど大きくなる。
KN-09については、おそらく命中精度としてはまぐれ当たりしか期待できない。その命中精度が200km先で1.5%とすれば、直径3kmの円のどこかに落ちる程度に過ぎない。通常弾頭では混乱を起こす(輸送網に対してはそれなりに効果があるだろう)ことはできても、何かを確実に壊したり、軍隊等狙った人員を確実に殺傷することは期待できない。
② また、威力が少ないといった問題もある。結局はロケット弾であり、弾頭はそれほど大きくもない。砲弾に比べると、ロケット弾の弾頭は軽く、存速も遅く、一般的に弾殻も薄い(厚くもできるけれども)ので、榴弾威力そのものは小さい。威力が低めになる点は、弾道弾と比較しても同じである。空中爆発であれば、地下壕程度でも耐えられる程度に過ぎない。
③ そして、新しい心理効果は生まれない。北朝鮮はすでに短距離弾道弾を多数保有し、韓国全土を射程に収めている。後方地帯でも北朝鮮に攻撃されるといった心理的効果はすでに存在している。そこに、ヨリ短射程でヨリ低威力のロケット弾が登場しても、新しい恐怖、心理的な脅威は生まれない。
これらの点からみても、KN-09は結局は2門目、3門目のパリ砲にすぎないのでは無いか。パリ砲とは、第一次世界大戦でドイツが使った長距離砲で、パリを直接砲撃した実績を持つ砲であるが、結局は大した混乱も起こせなかった。しかも、③で述べたように、北朝鮮はすでに短距離弾道弾を持っている。この点からすると、パリ砲が増えた程度であり、大した恐怖の積み増しにはならない。
さらに、北朝鮮としても、それほど魅力的な装備とも思えない。射程200kmまでの短距離弾道弾の代わりとしても、命中精度も弾頭威力も低い。しかし、ロケット弾としては高価である。相手に見せる兵器としてはいいかもしれないが、実用性に加えて価格面でもあまりメリットはないように見える。
なお、高橋さんはミサイルの可能性も否定できないとしている。もちろんそうだが、仮に誘導機構を持つミサイルだった場合には、精度は上がるが、価格はそれ以上にハネ上がる。威力を考えれば、割が合わない兵器だろう。
※ 高橋浩祐「北の脅威を一気に高める新兵器『KN-09』」『東洋経済オンライン』(東洋経済新報社,2014.4.9)http://toyokeizai.net/articles/-/34898
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