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北村淳さんのJBPress記事「決定間近、オーストラリアは日本の潜水艦を選ぶのか」だが、最大静粛速力があがってもディーゼル潜では敵艦は追尾できないのではないか。
北村さんの記事は、豪新型潜水艦の選定についての良記事となっている。いつものような商業的理由からの過剰な安全保障重視の姿勢もなく、読み物としても面白いものだ。
だが、仏潜水艦の評価については引っかかるところがある。
の部分だ。
■ 水中全速は1時間がいいところ
まず、在来潜は水中全速ではおそらく1時間走れるかどうかである。その点から高速目標の追尾は現実的には不可能である。
水中航続距離は電池容量で決まるが、それで走れる距離は速力を増やせば増やすほど短くなる。水中抵抗は速力の自乗に応じて増加するためだ。
つまり、最大速力を出すとすぐに電池は尽きる。古い潜水艦では「水中16ktを出せるのは20分」といった話があった。
仮に今の潜水艦がフル充電で6倍の電池容量があったとしても、今の水中ダッシュ速力20kt(アップホルダー型)では1時間を走るのがせいぜいといったところだ。
電池容量が昔の10倍でも、電池充電が6割であればそれと変わらない。8割充電でも、実際には追いついた後の事を考えなければならない。まず水中最高速力1時間からそれほど進歩するものでもない。
仮に、ポンプジェット推進で水中静粛速力24ktを出せても、30分や40分で電池が切れるだろう。ポンプジェットは水中静粛性は上がるが、推進効率は大径のスクリューには劣る。燃費の悪い推進方法であるためだ。
これでは追尾ができる状態とはならない。
■ 距離も速力も分からない
また、潜水艦からは敵艦の速力やその距離が分かりがたい。このため足の短い在来潜ではため、全速追尾はしがたいといった問題もある。
潜水艦からは目標の距離はよくわからない。基本パッシブ探知であり、目標方位はわかるが距離は漠然としたものであり、長時間観測してある程度推測できるものに過ぎないためだ。
また、速力も分からない。低速であるか、高速を出しているかどうかくらいは分かるだろう。だが、それが何ノットかまでは断言しがたい。
つまり、距離や速力が分からない「高速の水上戦闘艦」(北村)の場合、仮に水中静粛速力24kt程度で追いつけるかどうかは全くわからないのである。目標が20ノット以上の目標については、2マイル以上離れていれば追いつけない。そこで全速出して追尾はしないというころだ。
逆に言えば、目の前を通り過ぎた「高速の水上戦闘艦」を30分追いかけられるかどうかといったものだ。もちろん距離が近いので、アクティブ/パッシブ探知される可能性も高い。
この点でも、追尾できるといった主張はあまり意味は無いのである。
■ 旧ソ連でも作れる
そして最後が、ポンプジェットは大した技術ではないということだ。
北村さんは「原子力潜水艦に比べて小型の通常動力潜水艦にポンプジェット推進システムを搭載できる技術力を持っているのはDCNSだけである。」(北村)と述べている。
だが、在来潜へのポンプジェット推進適用については、ソ連/ロシアのキロ級に前例がある。初期型の1隻がポンプジェット推進となっている。
この点でも、フランス潜水艦への評価については疑問を覚えるものだ。
もちろん「フランスは実用できるといっている」と意見するかもしれないが、そのフランスも実際にポンプジェット推進の在来潜は作っていない。
そして、日独もポンプジェットを作れと言われれば作るだろう。この辺り、イギリスから技術を買えば済む話であるためだ。ただ、推進効率の低下により、水中航続距離が短くなるからやりたくないだけの話である。
■ いつものお約束
以上が、仏潜水艦の評価については引っかかる点だ。
他にも、豪潜水艦の使い方についても踏み込みが悪い点も、ちょっと物足りない部分ではある。*
だが、今回の記事が良記事であることを否定するものではない。
北村さんの記事ついて書く時のお約束だが、北村さんの記事は、読む価値はある記事ではある。調べることや、言及するべきことはしっかり踏んでいる。その中で媒体への適応があり、商業的なバイアスがかかっているのが残念といったものだ。(今回、そのようなバイアスはない)
この点、井上和彦さんや桜林美佐さんのような、愛国エンターテインメント読み物とはぜんぜん違う。中身もなければ志もない上、全く調べ物もしないものとは一線を画している。その点で褒めるし、一読すべきと勧めるものである。
* もちろん、「EEZを守るために潜水艦を買うのです」のようなアレに較べれば相当にしっかりした書きぶりではある。
北村さんの記事は、豪新型潜水艦の選定についての良記事となっている。いつものような商業的理由からの過剰な安全保障重視の姿勢もなく、読み物としても面白いものだ。
だが、仏潜水艦の評価については引っかかるところがある。
もし、追尾する目標が原子力潜水艦や高速の水上戦闘艦であった場合、「そうりゅう」や「タイプ216」はいくら高精度のソナーを備えており静粛性や潜航深度が優れていたとしても、プロペラ推進潜水艦である以上、絶対に追尾することはできない。
しかしながら、DCNSは小型原子力潜水艦建造で培ったポンプジェット推進(ウォータージェット推進)技術を「ショートフィン・バラクーダ」に導入することができる。このため、通常動力潜水艦とはいえ海中でも高速で敵艦を追尾攻撃することが可能である。原子力潜水艦に比べて小型の通常動力潜水艦にポンプジェット推進システムを搭載できる技術力を持っているのはDCNSだけである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46571?page=4
の部分だ。
■ 水中全速は1時間がいいところ
まず、在来潜は水中全速ではおそらく1時間走れるかどうかである。その点から高速目標の追尾は現実的には不可能である。
水中航続距離は電池容量で決まるが、それで走れる距離は速力を増やせば増やすほど短くなる。水中抵抗は速力の自乗に応じて増加するためだ。
つまり、最大速力を出すとすぐに電池は尽きる。古い潜水艦では「水中16ktを出せるのは20分」といった話があった。
仮に今の潜水艦がフル充電で6倍の電池容量があったとしても、今の水中ダッシュ速力20kt(アップホルダー型)では1時間を走るのがせいぜいといったところだ。
電池容量が昔の10倍でも、電池充電が6割であればそれと変わらない。8割充電でも、実際には追いついた後の事を考えなければならない。まず水中最高速力1時間からそれほど進歩するものでもない。
仮に、ポンプジェット推進で水中静粛速力24ktを出せても、30分や40分で電池が切れるだろう。ポンプジェットは水中静粛性は上がるが、推進効率は大径のスクリューには劣る。燃費の悪い推進方法であるためだ。
これでは追尾ができる状態とはならない。
■ 距離も速力も分からない
また、潜水艦からは敵艦の速力やその距離が分かりがたい。このため足の短い在来潜ではため、全速追尾はしがたいといった問題もある。
潜水艦からは目標の距離はよくわからない。基本パッシブ探知であり、目標方位はわかるが距離は漠然としたものであり、長時間観測してある程度推測できるものに過ぎないためだ。
また、速力も分からない。低速であるか、高速を出しているかどうかくらいは分かるだろう。だが、それが何ノットかまでは断言しがたい。
つまり、距離や速力が分からない「高速の水上戦闘艦」(北村)の場合、仮に水中静粛速力24kt程度で追いつけるかどうかは全くわからないのである。目標が20ノット以上の目標については、2マイル以上離れていれば追いつけない。そこで全速出して追尾はしないというころだ。
逆に言えば、目の前を通り過ぎた「高速の水上戦闘艦」を30分追いかけられるかどうかといったものだ。もちろん距離が近いので、アクティブ/パッシブ探知される可能性も高い。
この点でも、追尾できるといった主張はあまり意味は無いのである。
■ 旧ソ連でも作れる
そして最後が、ポンプジェットは大した技術ではないということだ。
北村さんは「原子力潜水艦に比べて小型の通常動力潜水艦にポンプジェット推進システムを搭載できる技術力を持っているのはDCNSだけである。」(北村)と述べている。
だが、在来潜へのポンプジェット推進適用については、ソ連/ロシアのキロ級に前例がある。初期型の1隻がポンプジェット推進となっている。
この点でも、フランス潜水艦への評価については疑問を覚えるものだ。
もちろん「フランスは実用できるといっている」と意見するかもしれないが、そのフランスも実際にポンプジェット推進の在来潜は作っていない。
そして、日独もポンプジェットを作れと言われれば作るだろう。この辺り、イギリスから技術を買えば済む話であるためだ。ただ、推進効率の低下により、水中航続距離が短くなるからやりたくないだけの話である。
■ いつものお約束
以上が、仏潜水艦の評価については引っかかる点だ。
他にも、豪潜水艦の使い方についても踏み込みが悪い点も、ちょっと物足りない部分ではある。*
だが、今回の記事が良記事であることを否定するものではない。
北村さんの記事ついて書く時のお約束だが、北村さんの記事は、読む価値はある記事ではある。調べることや、言及するべきことはしっかり踏んでいる。その中で媒体への適応があり、商業的なバイアスがかかっているのが残念といったものだ。(今回、そのようなバイアスはない)
この点、井上和彦さんや桜林美佐さんのような、愛国エンターテインメント読み物とはぜんぜん違う。中身もなければ志もない上、全く調べ物もしないものとは一線を画している。その点で褒めるし、一読すべきと勧めるものである。
* もちろん、「EEZを守るために潜水艦を買うのです」のようなアレに較べれば相当にしっかりした書きぶりではある。
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