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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2016.05
04
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14:01
Category : 未分類
 海底レアアースも胡散くさいものだ。産経が海底レアアースを持ち上げているが、そこにはナショナリズムがあるだけで経済性の検討はどこにもない。資源安全保障と中国脅威だけを強調する点で、メタンハイドレート詐欺に似ている。

 産経が3月30日と3月31日に「【海底資源「夢の泥」はいま】」として特集記事を組んでいる。
・ 3月30日 斎藤浩「脱・資源貧国、日本の切り札『レアアース泥』に中国の触手 南鳥島南方で探査契約」(3月30日)
・ 3月31日 斎藤浩「トウ小平の戦略・中国レアアース開発で荒れ果てた山に無数の酸溶液の池 住民は歯が抜け…陸上破壊進み海洋進出か

 ただ、どちらも中国をdisり、海底レアアースをヨイショしているだけである。実際に採掘ができるか、それが経済性を維持できるかといった検討がまったくない。


■ 日中開発は競合しない

 3月30日の記事「脱・資源貧国」で不思議な点は、日中開発が競合しない可能性を見逃していることである。

 産経は海底レアアースの採掘について日中での争いとなるように書いている。沖ノ鳥島EEZの日本レアアースを、中国は南側の公海にはみ出した分を狙っているというように書いている。

 だが、海底レアアース資源が普遍的なものであれば両者は取り合いとならない。日本は沖ノ鳥島EEZで採掘し、中国はさらに条件の悪い南側公海で採掘すればよいだけだ。

 そもそも海底レアアースはインド洋にもあるとも書いている。調べればどこにでもあるのだろう。


 ・ 経済性検討がない

 そして、経済性検討も全くなされていない。

 そこに採掘コストの検討はない。本土から1500km南にあり、周囲に港湾皆無の沖ノ鳥島で海底5000mから安価に泥を採取する方法は、ない。

 現実的には不可能である。「現在の日本のレアアースの消費量(約1・4万トン)の200年分以上が眠っている」(産経)とある。だが、年間消費1.4万トンのレアアースを完全に国産化するには、海底シルトは品位1%であっても140万トンとなる。(ちなみに陸上ではスイート・スポットでも品位は0.05%以下である) 「中国依存から脱するため」に需要の30%を国産で賄うとしても、採泥量は年50万トンである。なお、採取はスラッジ状で行うため、実際の取扱量は10倍以上となるだろう。それを海底面を移動しながら採取しなければならない。これは現実的ではない。

 仮に採掘できても、価格暴落で割に合わない。もともとレアアースは希少だから高い。それが海底から採取され、大量に市場に流れればどうなるか? 暴落する。例えば最も高価なスカンジウムは2015年末にキロ1500ドルだが、それが1割でも増えれば他のレアアース同様の価格に落ちる。そもそも需要が小さいためだ。

 産経ではそのあたりを触れていない。

 記事中では「30億程度でできる」と書いているが、これは実際に海底から泥を採取するだけの実験である。まずは30億円かけて、500円分の精製希土類がとれる程度の話だ。
「東大コンソーシアム」は南鳥島沖から泥を引き揚げる実証試験を2年後には行いたいとしている。30・8億円と見込まれるコストが課題だが、いま日本にとって重要なのは中国に後れを取らないことだ。
http://www.sankei.com/premium/news/160503/prm1605030006-n5.html


 経済性の検討はないのは、まずは「日本スゲー」だけを書けばいい新聞であるためだ。記者もそれを書くことを求められない。むしろ、日本スゲーの夢を壊すと出世しない。これは、実際の出世例をみればよい。左派を罵倒できれば訴訟で負けてもよいとされているのである。


■ 鉱害があっても安い方が選ばれる

 そして31日の記事「トウ小平の戦略」には説得力がない。中国のレアアース鉱害を強調し、だから外洋採掘に向かうといった内容となっている。だが、経済性がない外洋採掘をする理屈がどこにもないためだ。

 記事は延々鉱害を強調したあと、次のように締められている。
 
南鳥島沖を含めた太平洋の海底のレアアース泥には、陸上鉱床と違ってトリウムやウランがほとんど含まれず、採掘の際に出る放射性廃棄物の問題もないという。レアアースをめぐる環境問題に直面している中国にとって、海底のレアアース泥はかなり魅力的に映っているはずだ。

 陸上から海洋へ-。中国のレアアース戦略は転換期に差し掛かっているのかもしれない。
http://www.sankei.com/premium/news/160504/prm1605040004-n3.html


 だが、結局は汚染処理が進めば終わる話だ。それで陸上採掘コストが海底採掘コストに勝てばどうなるだろうか? といったものだ。もちろん中国人は念のため試掘はするだろう。だが「そんな儲からない商売は日本人にやらせればよい」で終わるものだ。


■ メタンハイドレート詐欺に似ている

 このあたり、産経記事は的外れなものにしか見えない。

 結局はメタンハイドレート詐欺と似たようなものだ。資源ナショナリズムから政治案件として無理推しされたいたが、実際に経済性をもって採掘できる見込みはない。

 学者による推進手法も、メタンハイドレートに似ている。本来、商業的に成功する見込があるなら企業が参入するはずだ。だが、それがないので政府に寄っているようにも見えるのである。

 おそらく、海底レアアースもメタンハイドレート同様に終わる。

 もちろん山師が跳梁跋扈し、国策まで進ませて得るものなしのメタンハイドレートのように詐欺と書くわけではない。だが、経済性から実現不能な点は、メタンハイドレートと変わらない。

 なによりも示唆的な点はは、去年後半以降、記事化されないことだ。海底レアアースにせよ、それを主導する東大の加藤泰浩さんにせよ、記事で取り上げているのは産経だけだ。この辺りが計画としての非現実性を示すものだ。
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