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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2016.06
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Category : 未分類
 6月20日、関西電力が保有する高浜原発1・2号機について運転延長が認可された。これは1974~75年完成、今年で40年以上を経過した原子力発電所について、さらに今後20年の運転を原子力規制委員会が認めたものだ。

 結果、高浜原発は最長で2035年までの運転が可能となる。今後、関西電力は配管等の改修を行い最短2019年中に運転を再開するという。

 だが、もともと高コストとなる旧式老朽の原発を改修し、無理に運転する必要があるのだろうか?

 それはない。なぜなら今後は電力の需要は減り、同時に安価な電力の供給が増強されるためだ。この状況では、高コストとなる高浜原発1・2号機の寿命を延長しても、まず出番はない。その理由について順を追って説明しよう。


■ 電力需要は減少するだけ

 最初に知っておくべきことは「今後、電力需要が減少する」ということだ。人口減少と産業構造の変化によって日本の電力需要は将来は減り続けるのである。

 家庭向け電力量は人口に応じて減少していく。日本の総人口は1億2800万人(2008年)がピークであり、以降は減少に転じた。2048年には1億を切る見込みである。この人口変化からやや遅れるが、実際の電力消費もやはり2011年をピークとして減少を始めている。

 電力会社系の研究所もそのように見ている。電力中央研究所の研究発表(2016年3月)がそれだ。2030年の家庭向け電力需要は10年と比較し0.5%減少するとしている。電力系の立場からか「消費電力は増える」要素を努力して積み上げている感があるが、それでも需要は減少するのである。

 産業・業務用の電力量も今後は減少する。日本は以前から三次産業へのシフトが進んでいる。簡単にいえば工場は減って事務所やお店に変わるといったものだ。これは今でも続いており逆戻りする見込みはない。当然だが、動力や熱源を大量に消費する製造業が減れば、産業全体としての電力需要も減る。

 これも同じ研究発表で示されている。具体的な需要の低下幅は、景気不景気の影響を受けるとして挙げてはいない。だが、沖縄以外の産業・業務用電力では電力需要は減少するだろうといった結論を示している。

 実際には、好景気が来ても産業・業務用電力は低下し続けるだろう。産業は既にサービス業にシフトしており、今なお残る工業もかつてのように大電力を消費する重厚長大産業が中心ではない。


■ 石炭火力が2000万kw増える

 そして、今後は安価な電力供給の急増が見込まれている。石炭・天然ガス・太陽光発電がそれだ。これらは原発とは比較にならないほど安価な電力を供給する。

 日本では石炭火力発電所の新設が進んでおり、今後能力は激増する。石炭は燃料としては最も安価であり、それを押しとどめていた環境省が新設を認める姿勢に転じた結果である。英国経済系の電子ジャーナルから拾った数字だが日本で建設中の石炭火力は合計190万kwであり、別に合計2800万kw分が計画中としている。なお、26年までに旧式石炭火力1030万kwが廃用されるが、同年までには現段階で建設中と計画中の発電所が完成すれば3000万kwの増となるため、差し引きでも2000万kw増となる。

 また、天然ガスを使うLNG発電所も新設と微増見込まれている。これもガス価格下落の影響を受け、現状では資源がほぼ最低価格となった結果だ。石炭火力同様の数字だが、現段階で530万kwが建設中であり、1490万kwが計画されている。こちらは石炭火力とは異なり退役発電所との差し引きの計算の数字はないが、既存のガス発電所から寿命45年としても26年までに退役するだろう1984kwをカバーし純増となる。

 つまり2026年までには石炭増設分の2000万kwの純増となる。ちなみに2016年の『エネルギー白書』(資エネ庁)によれば14年の日本の総発電能力は2.5億kwである。今の供給能力の1割近い石炭火力が増えるということだ。

 さらに、今後の電力供給では太陽光発電の普及も無視できない。太陽光発電協会の資料(2014年)のグラフ読み取りでは、2013年の段階で1500万kwが既に設置済みであり、2030年にはそれが8500万kwに達すると推測されているのである。

 もちろん太陽光発電は最大出力であり、常に発揮できる数字ではない。設置条件や季節差から実際には正午でも能力100%に達せず、あたりまえだが夜は発電しない。だが、燃料代はかからないため、ランニングコストでは他を圧する安価な電力を供給する。


■ 石炭と天然ガスは安定供給される

 なお、念のために言えばエネルギー安全保障も高浜を残す理由にはならない。「もし、石油ショックがあれば」といった観点から原発の比率を上げる、あるいは「念のため原発の数を揃えておこう」といった判断もさほどに現実的ではない。

 なぜなら石炭や天然ガスには「石油ショック」が起きる可能性は低いためだ。両者の供給は石油とは異なり安定している。石炭は埋蔵資源量は大きく、輸出国の政情は安定しており、その配置も世界中に分散しており海上輸送に不安はない。天然ガスも同様だが、石炭以上に未利用の資源も多く、それらが近年では新たな供給先として登場している。日本向けであれば豪州の海底ガス田開発、米国シェールガスの輸入がそれだ。

 もちろん輸入頼みといったリスクは残る。一応は日本としても北海道の石炭や南関東のガス田等、国内で採掘できないこともない。だが埋蔵量やコスト、立地といった問題から非常時の国産完全代替は現実的ではない。

 だが、輸入頼みのリスクは核燃料も変わらない。日本国内でウランは商業的に採掘できず、再処理による使用済み燃料再生の見込みも立っていないのである。

 さらに、原発による電力安定供給には他にも政治・司法リスクがある。その時々の政治動向や司法判断で動かせなくなることもありえるのだ。これは石炭や天然ガス、太陽光にはないリスクである。


■ 老朽原発に出番はない

 今後、電力需要は減るなか、安価な電力が大量供給されるということだ。

 そこに老朽した高浜1・2号機の出番はない。もともと発電能力はさほど高いものではなく、それでいて旧式であり老朽している。経年劣化が進んでいるため、運転すれば動かせば短時間でどこかしかが壊れる。どうしても点検維持や整備補修費用といった運用コストは嵩むだろう。

 そのような老朽原発に資金を投じる意味があるのだろうか? 高浜1・2号機は改修工事を施しても活用できる見込みはない。仮に寿命延長を行い、無理に運転させても動かせば動かすほど損となるだけだ。最終的には電力料金を支払う国民の損ともなるだろう。




6月21日に書いた「老朽原発動かしてどうするのかね」の数字を詰めたバージョンです。
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