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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

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2014.08
26
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Category : 未分類
 桜林美佐さんの防衛産業擁護には、お涙頂戴しかなく、何の新主張も新発見もない。「自衛隊を支える民間企業の知られざる苦労」(ZAKZAK)は全くその例である。

 桜林さんの記事には、内容は全くない。

 まず、防衛産業がいかに防衛に貢献しているか紹介しているが、ごく一部の例をつまみ食いした上で、何故そうなっているのかについて全く思慮に及んでいない。如何に自衛隊に都合が良いかの例として、総火演に「装備品に携わる防衛産業の人々も、御殿場近辺に集まり、何かあったときに備えて期間中は待機している」(桜林)とか、防衛産業が「[故障が]起きたときに、すぐに飛んでいく態勢」(桜林)故障対応が早いといったものだ。だが、なぜそのような対応を取るのか、取れるのかについて、全く言及せず、あるいは言及しない。それをすると桜林さんの、防衛産業エライ論の構造が崩れるからである。

 しかし、企業関係者が事前参集するのは、そうしないと発注者の機嫌を損ねるためである。だいたい、部隊近隣に事務所を確保するような企業は、自社製品にある問題点に気づいている会社が多い。あるいは次の受注での点数稼ぎである。防衛には、入札参加企業をランク付けするときに、何回挨拶に来たかで点数をつけることもありその類である。そして、事前参集等の機嫌取りを許すだけの利益率があるということでもある。

 また、緊急対応ですぐに飛んでくるのも同然である。緊急対応しないと、防衛はやいのやいの言う。一般競争入札であっても、結局は仕様書次第である。A社を避けB社にすることは容易である(この点は前に書いた「調達で『エレーのテネックス』と指定するべきではない」)し、経理にはそれを見ぬくことができない。その緊急対応も、大甘に見た人件費と移動経費に、さらに利益率が掛かっている。企業は緊急対応すればするほど儲かる構造である。重要物件なら、どうみても企業側に問題がある機材なのに、3日も置かずに呼ぶ。

 桜林さんにある唯一の主張、防衛産業は防衛に献身的に貢献しているの中身は、この程度のものだ。前々から防衛に対する真剣さで、無償であるかのように印象つけようとしているが、結局は企業も算盤づくである。

 そして、防衛産業側の「努力」に対し、読者の同情を得るため、桜林さんは情緒的な「可哀想」だけを連発している。防衛産業の担当者について、「企業から来た技術者の[PAC3区画への]立ち入りが制限され」いるので、自由にアクセスできないとか「子供の卒業式をすっぽかす」(桜林)、「家族旅行をキャンセル」(桜林)と、防衛産業だけに限定されれない情緒的な可哀想だけを挙げている。

 秘の区画への立ち入りが制限されるのは、企業の担当者だけではなく、一般隊員も同じである。PAC3等の区画への立入を明許されるのは関連隊員・指揮官だけで、立ち入り申請なし無条件で入れるのは将官だけである。一般隊員も入る都度に許可がいる区画に、桜林さんは企業担当者を無条件で入れろというのだろうか?

 そもそも「担当者が仕事で卒業式、家族旅行、運動会にいけなくなる」というのは、防衛産業固有の問題でもないし、さらに言えばその企業の問題である。己の知る限りでも、住重や三菱電機、五洋は担当者の長となれる要員を2-3人準備しており、卒業式、家族旅行、運動会、冠婚葬祭にはキッチリ対応していた。設計やコンサルといった、代替が用意できない企業にしても、その手の状況では最短3日といった対応をしている。

 「子供の卒業式をすっぽかす」(桜林)、「家族旅行をキャンセル」(桜林)といった防衛関連企業は、ロクな企業ではないか、あるいは当人が卒業式や家族旅行を重視していないかどっちかなのだろう。

 立ち入り制限にせよ、卒業式にせよ、桜林さんは同情心を得ようと、読者に防衛産業に対する一種の罪悪感を想起しようとしているが、その実はこの程度のものだ。まじめに取り合うべきではない。

 「自衛隊を支える民間企業の知られざる苦労」の記事について総括すれば、防衛や防衛産業の構造についての新しい発見はなく、目新しい主張はない、いつもの情緒に訴えるだけの記事だということだ。

 結局は、本人の言うとおり「企業をヨイショしている」(桜林)内容に過ぎない。ヨイショする理由は、桜林さんにある国防大事、超大事といった保守的モメンタムや、取材が容易になること、取材結果に対して全肯定すればよいので検討やクリティカル・シンキングといった面倒がないことがあるのだろう。防衛産業のプロクシやパペットとなることも当然な話である。



※ 桜林美佐「自衛隊を支える民間企業の知られざる苦労」『ZAKZAK』(産経新聞,2014.8.26)http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20140826/plt1408260800002-n1.htm

※※ 桜林さんの記事は概ねこの類である。最初の単著である対機雷戦本「海をひらく」から変わらないものだ。掃海部隊本も、ことごとくが先行文献や、関係者聞き取り(これも先行文献からの孫引きに当たるものが多い)を抜書きしたものであって、主張すら先行文献と変わるものではなく、何の新発見も新主張もない。
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Comment

非公開コメント

No title

これは結局、書き方と読み方の問題でもあるし、自衛隊や防衛業界の広報の問題でもあるのだと思います。

読み方というのは、かつての共産圏でのプラウダの行間を読み取るような技術が要されるということではあります。産経関係の自衛隊称賛記事もそうですが、少なくともどこに端緒があり、どこに取材に行っているかはおぼろげながらにも分かりますし。

もちろん、世界全体の動きを見据えて公平かつ中立で深い理解と高い批判精神で格調高い文体の記事であれば申し分無いですけども、それはなかなか難しいところがあるのかもしれません。

軍事関係のライターという点まで話を広げれば、各種媒体向けに取材を活かして書き分ける方が多いというのは、少なくともそれぞれの媒体の読者の事情を知悉し記事を作れる方がまだまだ大勢おられるということでもありますし、筆名を使い分けておられる場合もあるでしょうし。