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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

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2011.02
09
CM:3
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17:08
Category : 海上運輸
 マラッカ海峡-バシー海峡が使えなくなったとしても、日本の石油需要が満たせなくなることはない。マカッサル方面に迂回することにより、日本は石油を確保できる。同様に迂回によってヨーロッパ航路も確保できる。日本にとってマラッカ海峡、バシー海峡は重要ではあるが、死活的ではない。

 『陸戦研究』最新号(23年2月号)には筆頭記事として、「東南アジアにおける南西航路帯の防衛」(平沢達也)※が掲載されている。平沢さんの記事は、現在の南シナ海情勢を興味深くまとめあげたものであり、日本にとって死活問題である海上輸送を確保しなければならない点を指摘している。マラッカ海峡・バシー海峡を重視する主張は説得性に富んでおり、また、日本がベトナムや他のASEAN諸国、環太平洋諸国との軍事も含めた交流をすすめるべきという結論にも賛成できるものである。

 しかし、問題意識としては、あまりにも悲観的に過ぎる。平沢さんは、南シナ海航路が使えなくなった際に、日本は石油需要を満たせなくなると主張している。

[南シナ海で日本船舶の航行が中国によって圧迫された場合には]日本向けのタンカーは、危険を回避するために東・南シナ海を迂回してマカッサル海峡を通過することになる。しかしながら、長期にわたってこの状態が続けば、日本向けタンカーの通航は徐々に減少し、国内需要が十分に満たせなくなる。すると日本は、最終的に備蓄原油の使用を余儀なくされ、国内における石油価格が上昇する上、中国との交渉が難航すれば、政府に対する国民の信頼が大きく低下して国内が混乱する。(平沢 2011 pp.12)


 確かにマラッカ海峡-南シナ海-バシー海峡は日本にとって重要な航路である。だが、不可欠な航路ではない。仮に通航不可となったとしても、迂回によって問題は解決する。平沢さんが指摘しているマカッサル方面への迂回である。中東からの石油も、ヨーロッパとのコンテナ輸送にしても、迂回によって問題は解決する。

 中東からの石油輸送は、マカッサル迂回があっても、タンカーの輸送コスト・稼航率にはそれほど影響はしない。ホルムズ海峡から東京までの距離を比較しても、マカッサル経由では距離は1割程度増えるに留まる。グーグルマップで距離を測定すると、ホルムズ海峡から東京湾口までの距離は
・ 南シナ海経由 約12000km マラッカ-南シナ海-バシー経由
・ マカッサル経由 約13000km ロンボク-マカッサル経由 (+8.5%)
と1000km程度、8.5%の増しか生じない。原油輸入価格に占める輸送コストは5%以下であり、しかも半分は船舶減価償却や荷物の積み下ろしコストである。マカッサル迂回により、船舶運航の燃料費や人件費が8.5%程度上昇したとしても、輸送コストは5%程度しか上昇しない。現在の原油価格からすれば、原油輸入価格の0.25%の上昇に留まる。コストとして無視してもよい。また、航海日数も片道20日が22日になる程度である。これも稼航率上、無視してよい。 そして、実際に、マカッサルを経由しているタンカーも存在する。タンカーの中には、水深の関係からマラッカ海峡を通峡できない船もある。そのような船はすでにマカッサルを迂回している。このマカッサル迂回により、タンカー運用に死活的な影響は出ていない。

 ヨーロッパ航路でも、マカッサル迂回は死活的な影響とはならない。原油の場合と同じように、東京湾口からロッテルダム(ヨーロッパでのコンテナ輸送の中心)までの輸送距離を比較しても
・ 南シナ海経由 約21500km  
・ マカッサル経由 約23000km (+7%)
距離にして1500km、7%の増としからならない。主力のコンテナ輸送についても、原油輸送と同様に、製品価格に占める輸送コストは(品目によって異なるが)ほぼ無視して良い。公海日数も稼航率も同様である。問題点としては、コンテナ船の寄港地であるシンガポールへのアクセス可否の方が大きい。

 南シナ海通航不可・マカッサル迂回は、日本の海上輸送にとっては、死活的な問題とはならない。コストアップは無視できる程度であり、実際には、原油価格やコンテナの海上輸送運賃といった市況変動に隠れる程度の影響でしかない。稼航率についても、タンカーで約2日、コンテナ船で約1日、航海日数が増加するだけであり、大きく影響しない。問題は、マカッサル海峡・ロンボク海峡における航路支援、場合によれば航路管制、また船舶保険への影響である。だが、両者とも解決できない問題ではない。※※

 南西航路帯は、重要な航路ではあるが、死活的な航路ではない。「南西航路」の船舶輸送に関しては、この南シナ海有事シナリオや、台湾有事シナリオでは「日本にとって死活的な影響を及ぼす」と言われることが多い。しかし、実際の影響を考慮しても、マカッサル迂回で問題は解決してしまうのである。 平沢さんの主張するように、南シナ海航路が使えなくなった際に、日本は石油需要を満たせなくなることはないのである。


※ 平沢達也「東南アジアにおける南西航路帯の防衛」『陸戦研究』23.2(陸戦学会,2011)pp.1-27

※※ 日本による、航路支援(Navigation Aid)や航路管制の支援であるが、マラッカ海峡では実施した実績がある。また、船舶輻輳の問題に関しては、たとえばマラッカ海峡・ロンボク海峡を南行、モルッカ方面を北行と分けることも可能である。船舶保険に関しても、最悪でも政府による再保証で解決する。
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Comment

非公開コメント

ちょっと無茶な主張ですね。
余りに船舶輸送というものを理解していないと思われます。
突っ込みどころは山ほどありますが、よく考えて欲しい点は、原油精製のような枯れたプラントにとって、2.5%ものコストアップは無視できるレベルかどうか。
製品であるガソリンを初めとする油類は国際市況商品なんで、国内での精製がペイしなくなっちゃっていう話になるんですよ。

2つの誤読をしていますね。

>ちょっと無茶な主張ですね さん

 2つの誤読をしていますね。

 一つ目の誤読は私の主張についてです

・ マラッカ海峡-バシー海峡が使えなくなったとしても、
  日本の石油需要が満たせなくなることはない。
・ マラッカ海峡-南シナ海-バシー海峡は日本にとって重要な航路である。
  だが、不可欠な航路ではない。

です。影響したとしても、日本にとって死活的ではないという話です。

>コストアップは無視できるレベルかどうか。
>国内での精製がペイしなくなっちゃって
(ちょっと無茶な主張ですね さん)

日本にとって死活的な問題ではありません。


 2つ目の誤読は、数字です。コストアップ幅は0.25%に過ぎません。

…1000km程度、8.5%の増しか生じない。原油輸入価格に占める輸送コストは5%以下であり、しかも半分は船舶減価償却や荷物の積み下ろしコストである。(文谷)

>2.5%ものコストアップ
(ちょっと無茶な主張ですね さん)

 現在の原油価格では、原油輸入価格のうち、輸送コストは5%以下※にすぎません。
 輸送コストのうち、半分を積み込み・積み下ろしの費用と考えれば、距離に応じて増減するコストは原油輸入価格のうち2.5%にすぎない。迂回によって輸送距離が10%※※増えても、2.5%の部分が1割増えるだけです。
 迂回によるコストアップは、0.25%にすぎません。



 また、 ちょっと無茶な主張ですね さんは、原油市況を全く無視しています。仮にコストアップの高さが「2.5%」だとしても、原油価格の変動の前には誤差にすぎません。原油価格は1年間の間に30-40%は変動します。また、00年代前半までは低落していた現有価格が、2008年にバレル140ドルを超え、またここ2年間も80-90ドルと高止まりしている状況です

>2.5%ものコストアップは無視できるレベルかどうか。
(ちょっと無茶な主張ですね さん)

「2.5%」は「無視できるレベル」です。仮に ちょっと無茶な主張ですね さんが「日本にとって『2.5%』は無視できない数字」であると主張するのであれば、それほど繊細な日本はバレル140ドルを示した2008年をどのように評価しなければならないのか、興味あるところです。


※ 石油が再び高騰しているので、輸送コストは今では2%程度でしょう
※※ 正確には8.5%

素早いレスポンス痛み入ります。
やや誤解があるようなので、説明します。
ポイントは、原油自体も市況商品であるけれど、精錬プラントの最終製品もまた市況商品だという点にあります。
普通に考えれば、油田に精製プラントを付属させるのが一番効率的です。ところが日本の場合、国内までわざわざ運んで精製しているわけです。これは石油に限らず、鉄、非鉄金属などでも同様です。
産業構造の問題なんです。
さて、苦労して日本で精製した油脂類、値段は国際市況で決まるわけですが、原油高になれば油脂類の国際価格も上昇します。つまり、原油の高騰は最終的に価格に転嫁できるんですよ。
ところが海峡が使えなくなることによるコストアップは誰が負担しますか?
コストアップ分はプラントの努力で埋めるしかないんです。
この手の大規模プラントは、そりゃあもう凄まじく効率化されていますからね、「原単位を2.5%下げる」なんて、年単位の問題になりますよ。