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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

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2015.03
31
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Category : 未分類
 戦争中、日本製魚雷は米製魚雷に負けていた。

 海軍の酸素魚雷は、米国製に超越していない。高度技術を適用し、一部性能で米魚雷を上回ったものの、実戦果には繋がっていない。逆に、取扱や生産技術面でみれば米魚雷に見劣りするものであった。


■ 酸素魚雷は米製魚雷に優れない

 酸素魚雷は、米製魚雷に対して優位ではない。

 高性能として知られる高速力や大馳走距離も、現実的な戦果を産んでいない。直進魚雷なので、結局は近距離で発射しないとどうしようもないためだ。

 威力も、米国製魚雷と大差はない。酸素魚雷はその炸薬量から大威力であるとされた。だが、それは炸薬重量だけを切り取った話に過ぎない。その質を加味すれば、米製魚雷の威力が優れるとも言える。

 米製魚雷には、水雷用炸薬と艦艇起爆の有利がある。日本海軍のTNA(TNTと同等)に対して、米国が使ったトルペックスの水中威力は約3倍とされた。さらに、米国は戦前から磁気信管を使用していた。信頼性や深度調整の問題から威力を発揮したのは戦争後半からだが、航空魚雷を含めて艦底起爆を実現している。


■ 実用性と生産技術は米国製が上

 実用性と生産技術を加味すると、明らかに米国製魚雷は日本製魚雷に優れている。

 米製魚雷は動力源が熱走蒸気あるいは電池のため、取り回しは酸素魚雷に比べて圧倒的優位であった。このため、艦艇や潜水艦、前線基地では、特に高度な整備をする必要はない。

 対して、酸素魚雷は取り扱いや生産は面倒臭いものであった。高度技術に目が眩み、最大性能を発揮しようとしたためである。軍艦でも性能維持のためには、第二空気分留装置ほかが必要であった。

 なによりも、製造技術の差は大きい。

 これは日米の魚雷生産体制や、実生産数の対照的数字が表している。

 日本の魚雷生産能力は年間最大5000本程度である。戦時生産数は、必死になって作って1.2万本であった。41年12月から、産業がまだどうにか動いた44年12月までの3年間で均せば、年間4000本程度となる。つまりは余力のない全力生産だった。

 対して、米国は年間最大2.5万本であった。戦時生産数は5.8万本である。39年11月からの分や、45年8月以降の契約残分を含むが、それはおく。何よりも注目すべきは生産能力であり、相当に余力があったことになる。

 両者の差異は、気室設計・製造の差異である。

 日本は魚雷の気室を鍛造と切削で作った。燃焼用の第二空気を貯める空気タンクを大重量鋼塊から鍛造・押出と、相当分の削り出しで作っていた。部品としては相当に高級である。このため、気室はクリティカル・パスとなった。

 対して、米国は41年7月から溶接化したため、生産性が違った。魚雷そのもののコストを一気に下げることができた。

 この点をみても、米製魚雷は日本魚雷よりも優れているのである。


■ ロシアの超音速対艦ミサイルも同じ

 酸素魚雷は技術的にはスゴイかもしれないが、それで終わるものであった。実際に、酸素魚雷でなければ上げられない戦果もない。酸素魚雷で挙げた戦果は、まずは空気魚雷でも達成できた程度のものである。それでいて手間だけが嵩む意味で、問題児とも言える。

 酸素魚雷に見られる高度技術と実用性の乖離は、日本海軍だけの病理ではない。

 ロシアの超音速対艦ミサイルも、同じ傾向がある。ロシアや中国は、米海軍や海自向けに超音速対艦ミサイルを多用しようとしている。だが、おそらくは高価であり、数も余裕はない。

 もちろん、亜音速のミサイルに対して性能上は優位にある。超音速ミサイルのほうが明らかにエライ。

 だが、超音速対艦ミサイルがその性能を完全発揮できるかは怪しい。高価であることに加え、大重量であり、搭載数が限られる。おそらく、超音速ミサイルだけの攻撃では、対艦ミサイル防御が充実している海軍には通用しない。

 そのため、実際の攻撃では亜音速ミサイルと混用して、艦隊飽和攻撃を狙うしかない。そうなると、超音速対艦ミサイルの高級さや高性能は活かせないことになる。

 つまり、高性能を持ちながらも、実効上では大した成果は期待できない。酸素魚雷と同じ結果に終わる。

 ロシアの超音速対艦ミサイルも、サイズ縮小とコストの低減ができなければ、徒花でおわるだろう。ハープーンやエグゾゼ同等のサイズと価格にならない限りは、まずは技術を褒めるだけの話に終わるものである。
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Comment

非公開コメント

No title

興味深く読ませていただきました。いつか墨田金属さんの執筆した太平洋戦争の機雷戦や対潜戦の記事を読みたいです。

No title

 性能優越主義というか、実際に発生してるのは「開発スタッフの技術力維持優先主義」じゃないかなあ。とりわけ兵器の電子システム化が進行するにつれ、全体コストに占めるソフトウェア開発費用がハードウェアの製造原価に較べてどんどん高騰していってる。
 それが馬鹿らしいから旧式兵器を量産してしのごうとしてると、世代交代の時にはもうソフトウェアを開発できる技術力が消滅していた、という可能性が生じるから「無意味とわかってても技術力維持のためだけに開発の仕事をこさえる」という事態になる。

 典型的な例としては、KC-767をそのままこさえてればいいものをせんでもいいアビオニクス入れ替えで炎上したKC-46。あれなんか裏の事情を考えると、結局は「なんかしら新型機のシステム開発の仕事を入れないと開発スタッフが維持できない」ということなんじゃなかろうか

No title

文谷さんは酸素魚雷の炸薬が米海軍の魚雷に劣ると言っておられますが、帝国海軍は米軍がトーペックスを制式採用する1942年以前にRDXを用いる九四式爆薬を1934年に採用しているんですよ。なのに九七式爆薬を新規開発したのは下瀬火薬で三笠を爆沈してしまった教訓を踏まえて安全性を高めたことが伺えます。また、酸素魚雷は雷跡の見えづらさが肝であって、長射程と高速性は副次的なものに過ぎないから、十分にペイできていると思います。

No title

>九四式爆薬を1934年に採用
それは何の自慢にもならないでしょ。
結局は過敏で危ないから、とお蔵入りにしちゃったんだから。
それでは「炸薬量のわりに威力はイマイチ」というブログ主の意見を覆せないよ。

No title

>2015.04.13 17:09さん

九三式開発の眼目は明確に長射程です。これは短射程の従来型の魚雷では活用の余地がない重巡の雷装のため。
駆逐艦用の酸素魚雷は短射程高速型として開発されているが実用化が遅れたため暫定的に弾頭炸薬量を増した(結果的に射程を犠牲にしている)三型が戦争中に開発されている。
航跡が視認しづらい点は射程や高速の余録であって開発段階ではさほど重視されていません。

酸素魚雷の存在によって重巡を活用した大規模水雷戦構想が可能となるので、その意味では酸素魚雷は日本海軍に大きな影響を与えた兵器ですが、戦前に構想された重巡による遠距離隠密雷撃の実施機会がほとんどなかったことを考えると、ペイしたとは言いがたい気がします。

またトーペックスやRDX系の高性能爆薬に関しては、日本の年間生産量がドイツの月生産量程度しかない、というあたりに限界を見ると思います。
少量生産で高コストな卓越した兵器の存在は、運用者や開発者の着眼やハイエンドな部分の工業力で「劣っていなかった」ことの証明にはなると思いますが、戦力整備全体の優劣とは直結しないのではないでしょうか?

酸素魚雷は

お邪魔します。
 酸素魚雷は漸減作戦、つまり「米主力艦をできるだけ削って、日本の主力艦の劣勢を少しでも緩和する」ために作られた兵器です。「対主力艦向け兵器」だったから生産性や整備性の悪さはある程度黙認されたのでは。実際の戦争は「海上輸送・交通を巡る戦い」になったので、酸素魚雷は有用足りえなかったのではないかと思われます。尤も島国と海洋国家が戦えば、その戦いは「海上輸送・交通を巡る戦い」になるのでしょうが。
 日本は幕末までは自給自足でした。それが黒船によって不平等条約を結ばされました。故に「押し寄せる"黒船"を追い払いさえすれば日本は守れる」という考えになったのではないかと思われますし、「島国対大陸の大国の戦い」である日露戦争ではある程度そういう形になりました。しかし開国後の日本は資源の多くを海の向こうに依存するようになりました。日本列島は自然に恵まれていたので食べていくには十分でしたが、地下資源には恵まれていなかったので列強に立ち向かうには不十分だったのです。つまり「旧海軍がやろうとした事とその当時の日本の実態には食い違いがあった」という事で、それは「酸素魚雷云々」のレベルではなかったのではないかと思われます。