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Category : 未分類
原理的な制約が大きなOTHレーダ(超水平線レーダ)で、空母機動部隊を探知できるのだろうか?
北村淳さんが中国のOTHレーダに言及している。JBPRESS「今年の「中国軍事レポート」はどこが不十分なのか」において、中国OTHレーダの能力を高目に評価するものだ。
だが、OTHレーダでの水上艦船探知は難しく、しかも米空母機動部隊とそれ以外の識別はまず不可能である。
■ 目標探知は原理的に困難
まず、中国が使う電離層反射型のレーダは水上目標を上手く探知できない。
OTHレーダには短波による電離層利用型と長波による表面波利用型がある。後者はいいところ100~200km程度しか探知できないため、今回話題となる長距離用の探知手段は前者となる。
だが、探知できる目標は航空機、つまりある程度の高度差をもち、高速移動する目標に限定される。地表・海面反射との距離差分が大きく、しかも高速移動やエンジンのタービン反射波でドップラーシフトが発生する目標である。そこに艦船は含まれない。もちろん、空母も電波を反射はするが、海面との距離差は小さく分離し難い。
この改善は難しい。基本的に帯域幅拡大やFM変調を使っても解決しない。電離層反射が期待できる3-30MhZ程度と周波数帯が狭いため、帯域拡大には限界がある。FM変調にしても、マルチパスの集積により日常的にフェージング(残響のようなもの)が発生するため、やはり艦船反射波を拾い出すことは難しい。
強いて言えば、力任せの大出力化でどうこうすることは可能だろう。
だが、それでも米空母機動部隊は探知できない。空母とそれ以外を類識別できないためだ。
■ 探知目標が何かわからない
OTHレーダーでは、探知目標が何であるかわからない。わかるのはある程度の距離と大雑把な方位と、信号の強弱だけである。
簡単な話、似たような信号強度を持つ反応と空母機動部隊の区別ができない。沿岸から流れだしたレーダ・リフレクタ付きのブイや、独行する鉄鉱石バルクやタンカーと空母の区別はつかない。距離・方位が相当に大雑把なため、移動速度も測定できないためだ。
もちろん、自分の方向に向かって飛んで来る飛行機位はわかる。自然状態ではありえない速度で距離が変化するためだ。
だが、使えるのは警報装置程度でしかない。何かが飛んで来るから警戒せよといったものだ。実際に作られたOTHレーダもそのようなものだ。ソ連はレーダ網を整備できなかった北極・シベリア・極東方面にOTHレーダを運用した。米国もソ連本土方面を長距離探知し、航空機の活動水準だけでもつかめればとOTHを運用した。日本も自国AEW覆域の向こうから突っ込んでくるソ連機がいるかどうかを掴むためだけに硫黄島にOTHを作ろうともした。
だが、その敵が何かはわからない。そもそも敵かどうかも分からないのである。
これも対艦弾道弾の運用に耐えるものではない。わからないので牽制的にケチケチぶち込めば、米空母機動部隊にBMDされるだろうし、とりあえず一八勝負でブチ込むと大外れの可能性も大きい。
■ 目標の距離も方位も怪しい
さらに、目標の距離も方位もよくわからない。そのような目標に高価で数が限られる対艦弾道弾を釣瓶撃ちできるかと言った問題もある。
まず、OTHレーダの距離分解能やその安定性も低い。電波は電離層と地表反射を繰り返すため、最短距離で戻ってきたパルスの往復時間を光速で割っても目標までの距離は出ない。反射波の経路を推測することである程度の距離はでるが、推測でしかない。そもそも電離層の状況(高度等)はその日その時に変わるのである。
海の中に一個だけ島、まずは火山島があってその反射波と比較できればよいのだろう。だが、中国OTHレーダーの環境はそうではない。サイド・ローブがフィリピンや九州を拾うため、おそらくそれはできない。
さらに方位分解能もあまり期待できない。
反射波が強力であれば、到来時間差から電波の到来方位自体は分かる。HFDFのように複数局でそれをフィックスすれば推定位置は出る。
だが、OTHレーダの艦船反射波は不明瞭であり拾えるかどうか分からず、しかもパルス到達時刻も多少伸び縮みする。華中から発信されたOTHレーダの受信局が東北と華南にあったとしても、見つけたエコーが同じ目標であるかどうかはイマイチわからない。
■ 簡単に妨害される
そして、OTHのレーダは容易に妨害される。もともと使える周波数帯は狭い。極端な話、3-30MHz帯全部でジャミングを欠けることは容易である。もちろんそれでは他国に迷惑がかかるからと、相手の発振周波数・繰り返し周波数、パルス幅、FM変調に合わせたジャミングも容易である。なにしろ所詮は短波でしかない。
さらに、チャフを撒いたらそれっきりとなる。既述の通り艦船エコーは探知しがたく、類識別も距離も目標もあやふやである。仮に米軍が九州からグアムあたりにC-2を飛ばし、高度3000mくらいで貨物室から甕に積んだチャフを柄杓で巻いていればOTHレーダはまったくアテにならなくなるだろう。あるいは25m-2.5mのコイルでも積んだ風船ボートでも複数流せば終りとなる。
■ OTHはアテにならない
つまり、対艦弾道弾の捜索機能としてOTHはアテにならないということだ。本当なら哨戒機を使うべきであるし、それができないなら光学・レーダ(海面高度差を見るやつ)の衛星や、潜水艦やバレれば保護を失うが民間航空機、民間船、ヒューミント、ESをつかったほうがよい。
この点が北村淳さんの記事にある瑕疵だろう。JBPRESSの安全保障セクターは「防衛超大事」を強調する立場にあり、中国脅威論を煽る傾向がある。その媒体に合わせ「OTHヤバイ」を強調した結果、そうなってしまったというものだ。
もちろん「米国でそういう話があるよ」といった形であるため、判断の正誤は問えるものではない。そもそも、大元となった『中国軍事レポート』はかつてのソビエト・ミリタリー・パワー同様、国防総省の省益確保のために脅威を高めに振っている。さらに「米国のシンクタンクや米軍関係の対中戦略家」(北村)も中国脅威論で衣食しているのでそれ以上に誇張している。
だがOTHで水上艦隊探知は、ない。そういうことだ。
なお、北村さんの記事についていつも断っていることだが、北村さんの記事は読む価値がある記事である。その点、国難を振り回す桜井よしこさんや井上和彦さん、防衛産業のプロキシでしかない桜林美佐さんといった皆さんの頭の弱いネトウヨ向け記事とは異なっている。「安全保障大事」「中国ヤバイ」が強すぎる嫌いはあるが、新発見も読み応えもある記事である。
北村淳さんが中国のOTHレーダに言及している。JBPRESS「今年の「中国軍事レポート」はどこが不十分なのか」において、中国OTHレーダの能力を高目に評価するものだ。
[中国の対艦弾道弾には]水平線のはるか彼方の攻撃目標を探知し誘導するための衛星測位システムと超水平線(OTH)レーダーが必要となる。[中略]人民解放軍のOTHレーダーの技術的進展は、レーダーシステム自身だけでなく偵察衛星などの関連システムを含めて、目覚しいものがあると米軍情報関係者たちは分析している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46933?page=2
そして米海軍情報局やシンクタンク関係者たちは、このような長射程での、しかも移動する小型目標を捕捉しDF-26の弾頭を誘導するための各種衛星群、ならびにOTHレーダーシステムの改良も飛躍的に進んでいると分析している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46933?page=3
だが、OTHレーダでの水上艦船探知は難しく、しかも米空母機動部隊とそれ以外の識別はまず不可能である。
■ 目標探知は原理的に困難
まず、中国が使う電離層反射型のレーダは水上目標を上手く探知できない。
OTHレーダには短波による電離層利用型と長波による表面波利用型がある。後者はいいところ100~200km程度しか探知できないため、今回話題となる長距離用の探知手段は前者となる。
だが、探知できる目標は航空機、つまりある程度の高度差をもち、高速移動する目標に限定される。地表・海面反射との距離差分が大きく、しかも高速移動やエンジンのタービン反射波でドップラーシフトが発生する目標である。そこに艦船は含まれない。もちろん、空母も電波を反射はするが、海面との距離差は小さく分離し難い。
この改善は難しい。基本的に帯域幅拡大やFM変調を使っても解決しない。電離層反射が期待できる3-30MhZ程度と周波数帯が狭いため、帯域拡大には限界がある。FM変調にしても、マルチパスの集積により日常的にフェージング(残響のようなもの)が発生するため、やはり艦船反射波を拾い出すことは難しい。
強いて言えば、力任せの大出力化でどうこうすることは可能だろう。
だが、それでも米空母機動部隊は探知できない。空母とそれ以外を類識別できないためだ。
■ 探知目標が何かわからない
OTHレーダーでは、探知目標が何であるかわからない。わかるのはある程度の距離と大雑把な方位と、信号の強弱だけである。
簡単な話、似たような信号強度を持つ反応と空母機動部隊の区別ができない。沿岸から流れだしたレーダ・リフレクタ付きのブイや、独行する鉄鉱石バルクやタンカーと空母の区別はつかない。距離・方位が相当に大雑把なため、移動速度も測定できないためだ。
もちろん、自分の方向に向かって飛んで来る飛行機位はわかる。自然状態ではありえない速度で距離が変化するためだ。
だが、使えるのは警報装置程度でしかない。何かが飛んで来るから警戒せよといったものだ。実際に作られたOTHレーダもそのようなものだ。ソ連はレーダ網を整備できなかった北極・シベリア・極東方面にOTHレーダを運用した。米国もソ連本土方面を長距離探知し、航空機の活動水準だけでもつかめればとOTHを運用した。日本も自国AEW覆域の向こうから突っ込んでくるソ連機がいるかどうかを掴むためだけに硫黄島にOTHを作ろうともした。
だが、その敵が何かはわからない。そもそも敵かどうかも分からないのである。
これも対艦弾道弾の運用に耐えるものではない。わからないので牽制的にケチケチぶち込めば、米空母機動部隊にBMDされるだろうし、とりあえず一八勝負でブチ込むと大外れの可能性も大きい。
■ 目標の距離も方位も怪しい
さらに、目標の距離も方位もよくわからない。そのような目標に高価で数が限られる対艦弾道弾を釣瓶撃ちできるかと言った問題もある。
まず、OTHレーダの距離分解能やその安定性も低い。電波は電離層と地表反射を繰り返すため、最短距離で戻ってきたパルスの往復時間を光速で割っても目標までの距離は出ない。反射波の経路を推測することである程度の距離はでるが、推測でしかない。そもそも電離層の状況(高度等)はその日その時に変わるのである。
海の中に一個だけ島、まずは火山島があってその反射波と比較できればよいのだろう。だが、中国OTHレーダーの環境はそうではない。サイド・ローブがフィリピンや九州を拾うため、おそらくそれはできない。
さらに方位分解能もあまり期待できない。
反射波が強力であれば、到来時間差から電波の到来方位自体は分かる。HFDFのように複数局でそれをフィックスすれば推定位置は出る。
だが、OTHレーダの艦船反射波は不明瞭であり拾えるかどうか分からず、しかもパルス到達時刻も多少伸び縮みする。華中から発信されたOTHレーダの受信局が東北と華南にあったとしても、見つけたエコーが同じ目標であるかどうかはイマイチわからない。
■ 簡単に妨害される
そして、OTHのレーダは容易に妨害される。もともと使える周波数帯は狭い。極端な話、3-30MHz帯全部でジャミングを欠けることは容易である。もちろんそれでは他国に迷惑がかかるからと、相手の発振周波数・繰り返し周波数、パルス幅、FM変調に合わせたジャミングも容易である。なにしろ所詮は短波でしかない。
さらに、チャフを撒いたらそれっきりとなる。既述の通り艦船エコーは探知しがたく、類識別も距離も目標もあやふやである。仮に米軍が九州からグアムあたりにC-2を飛ばし、高度3000mくらいで貨物室から甕に積んだチャフを柄杓で巻いていればOTHレーダはまったくアテにならなくなるだろう。あるいは25m-2.5mのコイルでも積んだ風船ボートでも複数流せば終りとなる。
■ OTHはアテにならない
つまり、対艦弾道弾の捜索機能としてOTHはアテにならないということだ。本当なら哨戒機を使うべきであるし、それができないなら光学・レーダ(海面高度差を見るやつ)の衛星や、潜水艦やバレれば保護を失うが民間航空機、民間船、ヒューミント、ESをつかったほうがよい。
この点が北村淳さんの記事にある瑕疵だろう。JBPRESSの安全保障セクターは「防衛超大事」を強調する立場にあり、中国脅威論を煽る傾向がある。その媒体に合わせ「OTHヤバイ」を強調した結果、そうなってしまったというものだ。
もちろん「米国でそういう話があるよ」といった形であるため、判断の正誤は問えるものではない。そもそも、大元となった『中国軍事レポート』はかつてのソビエト・ミリタリー・パワー同様、国防総省の省益確保のために脅威を高めに振っている。さらに「米国のシンクタンクや米軍関係の対中戦略家」(北村)も中国脅威論で衣食しているのでそれ以上に誇張している。
だがOTHで水上艦隊探知は、ない。そういうことだ。
なお、北村さんの記事についていつも断っていることだが、北村さんの記事は読む価値がある記事である。その点、国難を振り回す桜井よしこさんや井上和彦さん、防衛産業のプロキシでしかない桜林美佐さんといった皆さんの頭の弱いネトウヨ向け記事とは異なっている。「安全保障大事」「中国ヤバイ」が強すぎる嫌いはあるが、新発見も読み応えもある記事である。
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No title
07:02
チャイカ
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主様がこのブログで、11年9月24日の地表波OTHレーダの記事で言及しているロシア製OTHレーダーPODSLINUKH(http://www.idelf.ru/en/site.xp/057054048.html?print=1はリンク切れ)ですが、私の手元にはモスクワのロスオボロンネクスポルトから、03年に取り寄せた武器輸出カタログのNAVAL SYSTEMSが有ります。この中に紹介されていたロシア製OTHレーダーPODSLINUKH-E(輸出型)の探知範囲は7千トン以上の大型艦艇で300キロ、高度7千メートルの航空機は300キロ、追尾できる目標数は艦艇で100艦、航空機で100機とされています。因みに重厚長大と言われるのが露製装備の特徴なのですが、運用に関わるオペレーターは僅か3人、保証期間は15年と言う。
ですから、確かに哨戒機よりは劣るし、対抗手段も容易かも知れません。しかし、其れなりに使えるのではないでしょうか?何故なら、有事、若しくは其れに準じた際、相手側哨戒機が重防備された米機動部隊に近づくのは、至難の業ですから。其れに飽くまで、このレーダーの性能は03年当時の物です。あれから13年も経ちますから、ロシアや中国の同様のシステムの性能向上も著しいと思われるのではないでしょうか?
No title
17:01
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それらのほうが優れている以上、OTHレーダーによる水上艦探知をする必要は無い。
だからOTHレーダーでの探知は無い。
名無し様への再レス
06:37
チャイカ
URL
編集
さて、2016.05.31 17:01に投稿された名無し様からのレスは有り難いのですが、「この記事、用はOTHレーダーなぞより優れた手段はいくらでもあるって話でしょ。 それらのほうが優れている以上、OTHレーダーによる水上艦探知をする必要は無い。 だからOTHレーダーでの探知は無い。」この御指摘ですが、だったら、何故、モスクワのロスオボロンネクスポルトが200カイリ海域等の監視の為、OTHレーダーPODSLINUKH-E(輸出型)を売り込んでいるのでしょうか。其れに目的達成の為なら、手段は問わない。使えるモノはなんでも使えと言う考えも有りませんか?
確かに探知範囲が、7千トン以上の大型艦艇で300キロ、高度7千メートルの航空機で300キロ、追尾できる目標数は艦艇や航空機で100目標とされています。環境要因等の関係も有りますし、この性能では哨戒機に比べると劣ります。しかし、重厚長大と言われるのが露製装備の特徴なのですが、運用に関わるオペレーターは僅か3人で、保証期間は15年と言う優れた一面も持っています。其れに飽くまで、このレーダーの性能は03年当時の物です。あれから13年も経ちますから、ロシアや中国の同様のシステムの性能向上も著しいと思われるのではないでしょうか?
ですから、哨戒機等に比べると、性能は劣りますが、ロシア製OTHレーダーPODSLINUKH-E(輸出型)やその類似したものも、 元記事で触れている様に警戒システムの一環として使えると思いますが?
15:57
おひさま
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例えるなら、ビルの火災報知機みたいなもんですよね。
あれも最近のは部屋単位で火災箇所が分かるようになりましたが、昔のタイプだと大雑把に3階の南側とかエリアでしか分からなかった。結局、現場に行かなければいけないのですが、それでも無いよりはマシなわけです。
だからオペレーターも3人で済むように作っているのではないでしょうか。単なる監視に割ける人員はこの位だよと。
Re: タイトルなし
22:30
文谷数重
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湿気で発報するけど、どの部屋のどの部位か分からない
昔、陸自が雨衣干して発報したことがありますね
別に陸自が嫌いなわけじゃないけど、「そこに干すな」というところに干すのは陸自
システムとか高度装備にズブ濡れでも生乾きでも雨衣を掛けるなと
> OTHレーダーですが、警戒用としての運用を前提としているのではないでしょうか。敵か味方か判らないにしても、とにかくレーダーに映ったら誰か現地に行って見て来いと。
>
> 例えるなら、ビルの火災報知機みたいなもんですよね。
> あれも最近のは部屋単位で火災箇所が分かるようになりましたが、昔のタイプだと大雑把に3階の南側とかエリアでしか分からなかった。結局、現場に行かなければいけないのですが、それでも無いよりはマシなわけです。
>
> だからオペレーターも3人で済むように作っているのではないでしょうか。単なる監視に割ける人員はこの位だよと。