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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2018.08
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Category : 未分類
 今年も8月15日。終戦の日が来ます。土曜日にはTBSラジオで亡くなられた秋山ちえ子の『かわいそうなしゃち』の朗読が始まりました。

 昭和時代に小学校教育を受けた人ならみんな知っている内容です。毎年、あの暑い夏の一日の記念日に、秋山ちえ子は戦争を語り継ぐため、相模湾、江ノ島での悲劇を朗読をします。

 戦争中に起きたライオンやぞうやひょうの動物の出征のお話はご存知でしょう。ジョージもそのような動物の一匹です。

 軍隊はアメリカの潜水艦を沈めるためにシャチをつかおうとしました。秘匿名称はオルカ金物です。ジョーイは生物爆雷として潜行中の潜水艦に体当たりするように条件付けをされたのです。

  体当たり用の爆雷を取り付けられたジョーイですが、戦局が悪化し南方外洋での運用が不可能になります。役立たずになったジョーイは江ノ島にある生育った水族館に留め置かれました。そして毎日近くの海で遊んでは帰ってくるといったように、ノンビリ過ごしていました。

 ですが戦争は内地まで近づいてしまいました。すでに特攻隊は何遍も飛び立っていました。そして内地でも空襲が始まっていました。 

 食べ物も足りなくなっていました。みんなが食べるものもなく、それで体を壊してしまいしんでしまう人もでてきました。

 それではジョーイを生かし続けることは出来ません。シャチは1日に10貫目20貫目の魚を食べてしまうのです。

 軍隊はジョーイをを殺しなさい。という命令が出てしまったのです。

 水族館では、ジョーイに毒薬を注射しようとしますが針は海獣の厚い皮を通さずポキリと折れてしまいます。大好きな魚に毒の入れて与えようとしても、知能の高いジョーイはそれを見抜いてしまいます。

 飼育員のおじさんたちは、命令違反を承知でジョーイを塩釜の沖まで送りました。北の海まで逃がそうとします。でも水族館で育ったジョーイは外海で生きていけません。賢いジョーイは遠い海を辿って帰ってきてしまうのです。

 生まれ育ったプールに戻して欲しいジョーイは水族館の前で芸をします。飛び上がって回転したり、上半身を水上に突き出してみたり、逆立ちをして尻尾を立ててみたり。飼育員さんを鼻先に乗せようとしたりして、ほめてもらおうとするのです。それを見ていたみんなは、銃殺や干上げて殺すことはとてもできない。プールで餓死させるしかないだろうと決めました。

 しかし、そんなことを知るジョーイではありません。よい芸を見せれば今まで育ててくれた人間が餌をくれるものと信じています。芸をすれば体力が奪われてしまうというのに。そして、ジョーイはどんどん弱っていってしまいました。流線型の体は脂肪が減って痩せ馬がでてしまいました。ほとんど衰弱して、ただ浮かぶだけになってしまいますが、飼育員の長谷川さんを見つけるとあの小さな眼の澄んだ瞳で見つめて、餌を貰おうと芸をみせようとするのです。

 ジョーイを子供のように思う飼育員の長谷川さんは辛くなって、辛くなって、ついに食料のサバやイワシを、ジョーイに分けてしまいました。限られた燃料を使って、汚穢船を転用した支援船で網を引いて手に入れた皆の食べ物です。「ジョーイ、腹が減ったろう、おいしいか、おいしいか」と食べさせる長谷川さんに他の飼育員のおじさんたちは何もいえませんでした。所長も、大学の人も、配属された海軍の将校さんも何も言わずに、見守っていました。中には涙を流している人もいました。

 みんなその晩に話し合いをしました。「ジョーイを殺すことなんかできない」「心を鬼にしてプールからジョーイを追い出そう。銛でついてもいい、音でいじめてもいい、普通のシャチとは違う体になってしまったけれども、外に出れば、お腹が空けば魚を食べるだろう。」

 でも、海軍の人は申し訳なさそうに口を開きました。「ジョーイが三浦半島に住み着いてしまったら、特攻隊の若い人を殺してしまうかもしれません」

 戦争は過酷でした。特攻隊は東京のすぐそば、相模湾の近くにある三浦半島でまで用意されていたのです。そして、毎日、敵の軍艦に体当りする訓練をしていたのです。

 そして、特攻隊の人の乗る、体当たりで敵を沈める潜水艇は、とっても小さく作っていました。条件づけされたジョーイがぶつかるだけでひっくり返ってしまい二度と浮かび上がらなくなってしまうかもしれないのです。

 飼育員のみんなも黙ってしまいました。実は戦争がどうなっているか、軍隊の方針がどうであるのかということは誰の頭にもありませんでした。でも、みんなは特攻隊の兵隊さんが、自分の子供のような年齢の兵隊さんの身の上を思うとなんともいえませんでした。特攻隊の兵隊さんたちは水族館の近くの横須賀や辻堂に住んでいます。そして上陸日には鎌倉や江ノ島に遊びにきていました。ジョーイの芸を楽しみに見に来ていたくらいですからなおさらです。

 学徒出陣してきた分隊士さんの中には、学生時代に水産経済学の研究で水族館に通っていた人もいました。若い下士官を連れた将校さんは、彼らをジョーイの鼻先に乗せてやれるように懇願しました。若い下士官も軍服を着ながらジョーイの鼻や背に乗って無邪気に喜んで、貴重品になった特別配給の飴をジョーイに食べさせようとしたりしているのも見ていました。

 そして、その兵隊さんたちの潜水艇は安全なものではなく、ちょっとした不具合で沈んだままになってしまう。そのまま殉職してしまうことも知っていました。みんなは、もう若い人が、訓練で死ぬのはやりきれないです。

 長谷川さんが口を開きました。「もう、ジョーイには何の餌もやらない」みんなは、下をうつむいて何も離しませんでした。ただただ、長谷川さんを囲んで味のしない合成の理研酒をまわし飲むだけでした。

 それから3週間たった夏の暑い日、長崎に原爆が落ちてからしばらくたったある暑い日の午前中、ジョーイは死にました。プールに沈み、窒息してしまいました。せめて綺麗な体で埋めてあげようと、一端引き上げて爆雷取付具や安全尖外しを取り除き、ガスが堪って膨れたお腹を開いたとき、本当は風呂桶のように大きなジョーイの胃袋は湯たんぽの大きさまでしぼんでいたそうです。

 その日は8月15日でした。いまでもジョーイの命日では鎌倉建長寺で慰霊祭が行われるそうです。

 『かわいそうなしゃち』でした。

 それではみなさん、ごきげんよう。



2009年夏『瀛報』(ようほう)29号のまえがきから、一部修正。

参考
谷甲州「ジョーイ・オルカ」『星の墓標』(1987.7 早川書房)
秋山ちえ子 朗読 土家由岐雄「かわいそうなぞう」『大沢悠里のゆうゆうワイド土曜日版』2018年8月12日(TBSラジオ、2017.8)
2002年8月朗読・録音
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Comment

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去年のドラえもんの「ゾウとおじさん」は良かったですね
http://j.people.com.cn/n3/2017/0818/c94473-9257146.html

No title

>戦没者遺骨“日本人の遺骨なし”鑑定結果を公表せず 厚労省

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20180816/k10011579741000.html



>DNA鑑定「日本人なし」比で収集「戦没者遺骨」 厚労省は報告非公表

http://r.nikkei.com/article/DGXMZO34242810W8A810C1CN8000


こっちの事件も酷いですよ

満蒙開拓団の性接待事件
http://my.shadowcity.jp/2018/08/post-13758.html

> 戦後、本来は責任を取るべき者がまともに責任をとらず大手をふって政治や経済の中枢にいたのが問題なんだよな

> ソ連軍に安全保障と引き換えにこうして若い娘を騙して売ったんだぜ国に見捨てられた満州の日本人達は 頼みの皇軍日本軍は彼らを平気で見捨ててとっくに逃げ消えた後だ

> 敗戦後、旧日本軍に置き去りにされ、現地住民らによる暴行や略奪を受け

> 安 倍 晋 三 の 祖 父 で,A 級 戦 犯, 実 質 満 州 国 ト ッ プ の 岸 信 介 の 所 業 の 一 つ か。

あまり好きじゃない

自分のペットや飼育員なら判るけれど
一般の市民にシャチを可哀想がる権利があるのだろうか
西洋人が日本の捕鯨を非難するのと同じレベルですよね?

じゃあ、自分の今日食べた、牛は? 豚は?
畑を作るために、駆除されて殺された動物だちは?
可哀想じゃないんだろうか? ってことになる。
かなり、もやもやしてしまいます。

TOPさんへ

> 自分のペットや飼育員なら判るけれど一般の市民にシャチを可哀想がる権利があるのだろうか

ありますよ。若い特攻隊員をはじめ、水族館の訪問客の多くはジョーイの芸を見て大いに楽しみ、親愛の情を抱いていたはず。ジョーイの死を知り、彼らの多くは悲しんだと思います。

ジョーイの死を知り憐憫の情、哀悼の情が自然と湧いた観客たちを「西洋人が日本の捕鯨を非難するのと同じレベル!」って批判するのは野暮だと思いますよ。

> じゃあ、自分の今日食べた、牛は?豚は?畑を作るために、駆除されて殺された動物だちは?可哀想じゃないんだろうか?ってことになる。

ならば、あなたが家畜や駆除された野生動物たちの死への悲しみや哀惜の念を公言してはいかがですか。家畜や駆除された野生動物たちが喜ぶと思います。また、一般市民の中でも「その発想は無かった」「我々も家畜や野生動物を追悼しよう」って好意的な反応を示してくれる人が出てくるのでは?

TOPさんの捕鯨云々の話でこれを思い出しました

自分の庭先でやられると怒るだろ?
http://schmidametallborsig.blog130.fc2.com/blog-entry-916.html

> 自分たちの地先で外国漁船が乱獲をすれば、その国民は怒る。その漁船が合法的に操業していても同じである。

> 実際に日本人は、中国漁船の乱獲に怒っている。産経の「東シナ海食い尽くす『虎』 中国、日本狙い横取り『泣き寝入りしかない』」はその好例である。中国漁船による操業も、漁獲法も合法である。しかし、日本人は自分たちの地先で勝手をやられていると義憤に駆られている。

> 南氷洋での調査捕鯨も同じではないか。オーストラリアやニュージーランドは、自分たちの地先にある南氷洋はショバだと思っている。そこで日本人が、よりによって自分たちが大事に思っているクジラを捕ったら、当然激怒するだろう。

> その激怒に「日本は合法的に捕鯨をしている」とか「科学的にクジラは余っている」というのは、妥当ではない。火に油を注ぐようなものだ。

TOPさんは公明正大な方だから、きっと日本近海での中国漁船の乱獲に怒る日本人に「南極海で調査捕鯨をする水産庁に怒るオーストラリア人と同じレベルじゃん!」って突っ込みを入れるんでしょうな。

「寄生獣」にこういう風なセリフが出てきます

>一般の市民にシャチを可哀想がる権利があるのだろうか
>じゃあ、自分の今日食べた、牛は? 豚は?

それなら一般の市民にこう言ってはいかがでしょうか。
「あんたら普段、牛や豚のバラバラ死体を食っているくせに、何シャチの肉のかたまりが一個でき上がったくらいで泣いてんのよ。死んだシャチはシャチじゃない。シャチの形をした肉だ。さっさとその肉のかたまりを処分しようぜ。」