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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2012.01
07
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13:00
Category : コミケ
 アニメ『アイドルマスター』最終話『洲崎炎上』について感想ですが、ネタバレを含みますので注意してください。



 3月10日の空襲で七六五楼が燃え上がる。その映像美は荷風散人が原作で描いた滅びゆく美しさです。

 最終話は永井荷風『アイドルマスター 日陰の花』での洲崎空襲を見事にアニメ化しています。燃え上がる洲崎パラダイス、女だてら警防団員として焼夷弾と戦ったの真が、消防吏員とともに炎上崩壊する建物に飲み込まれる。炎に巻かれた室内で、沖縄で戦死したパトロンの忘れ形見をあやしながら「旦那様のところに参りますよ」と島言葉で言い含める響。ナパームからわが子を救うため、その上に覆いかぶさり、生きたまま黒焦げになっていく春香。燃える七六五楼。神棚に面した彼女たちの看板が焼けていく。東洋一の傾城と呼ばれた竜宮小町。捕獲ブロマイドから、戦後GI達が「ランクSアイドル」として探しまわったあずさ、伊織、亜美。彼女たちを筆頭とした芸妓名札と写真が徐々に燃えていく。華やかな世界が終わる様子を、美しく、また悲しく描いています。

 花柳界は華やかな話だけが語られがちです。しかし『アイマス』は裏にある陰や闇も逃げずに描いています。

 やよい回、藪入で帰省する話は貧困層ルポそのものです。帰る家を持たぬ伊織が帯同しますが、畳も布団もない貧しさにショックを受ける。わずかなモヤシに喜ぶやよいの弟妹ですが、茶椀に盛切った麦だけの食事は、伊織の喉を通らない。出身である資本家階級との格差に涙を流しながら憤る伊織。戦前日本資本主義の矛盾を描いた、監督ヤマサツの神回です。

 美希回も切ない。在上海九六一機関の女スパイ「滬浙のマタハリ」も情人を喪った後は魂の抜け殻です。帰国した美希の壊れ方には怖気が走る。ただ快楽を求め、毎晩十を越える客を取り、挙句翌朝にも役者◯◯◯、相撲◯◯◯を買う。ヒロポンを常用し座敷ではハイですが、オフではオピウムでダウナーになる落差。その白痴の微笑は、演技でのアヘ顔とは全く違う。まぶたは見開き、輝きのない瞳にハエがたかっても瞬きもしない。脚本野坂昭如が特飲街で実見した最低の娼婦が活写されています。

 『アイマス』は軽い作品ではありません。キレイ事だけ。枕はない。借金や人身売買の陰もない。性病も堕胎も結核もない。遊郭をピュアな純愛の場所であると嘯く『ドリームクラブ 嬢王物語』とは違うのです。

 純愛を描いても、雪歩回でのリアリティには全く及ばない。決して客に体を許さない雪歩に「男嫌いか穴なしか」と責め立てる小鳥と律子。しかし、雪歩にはただ一人、体を許した異母兄への操がある。兄の将来を言い含められ、強要された中条子堕で愛の結晶を守れなかった負い目がある。下腹部に残る大きな傷跡に、学徒出陣で戦死した兄と、陽の目を見なかった命の記憶を重ねている。これこそがピュアな心でしょう。

 純愛と喧伝しながら、その実「馴染」「情人」「浮気」を連呼しながら誰にでも転ぶ。亜麻音も雪もカフェー上がりで何一つ芸もないが、その口で客を馬鹿にし「野暮」と言い放つ烏滸がましさ。そのような『ドリームクラブ』とは大違いです。

 『アイマス』には確かに暗い展開もありましたが、希望につながるラストは素晴らしいものでした。唯一生き残り、焼け跡の中で戦後に向かい歩き出す千早は、明るい未来を予感させます。結核で動けない千早は、空襲のなか、竜宮小町に金庫に押込まれ命永らえます。あずさ達は、金庫を密閉するため、パックや洗髪に使う泥で目塗をしますが、それで逃げ遅れ落命してしまう。千早は竜宮小町から命をもらったのです。ラストでの千早は託された生命が萌え出る姿です。

 戦後編、XBOX360版『アイマス・酔いどれ天使』でラジオから流れるブギ「腰が抜けるほど恋をした」が千早声であること。PS3版『同・生きる』ブランコのシーン「いのち短し恋せよ乙女」と千早持ち歌が歌われる。これらは千早が結核を克服し、芸妓から歌手として大成したことを暗示しています。

 むしろ今期でやるせないのは、野坂昭如自伝『Fate/Zero 火垂るの墓』です。終戦後、冬の神戸での聖杯戦争。教会軒先に寝泊まりする戦災孤児には満足な食も服もなく、凍死の恐怖と戦っている。その壁一枚挟んだ反対側では、教会、魔術師、サーヴァントが暖衣飽食している。野坂が召喚した騎士王は誇りから闇米に手を出さない。腹ペコにもかかわらず配給米も節子に譲る。セイバーは最後に勝利するものの、そのまま栄養失調で倒れ、帰らない。平和を渇望した野坂が聖杯に望んだ「豊かな日本」も、朝鮮特需で実現する皮肉。

 野坂ほか焼跡派も既に齢八十。赤線もなくなりはや半世紀。当時を知る人は櫛の歯を引くように減っています。その当時の雰囲気を、片鱗であっても引き写した作品が『アイマス』なのでしょう。




※ 2011冬コミ新刊「あとがき」から、ナマモノなので此処で開陳
やはり、戦前でアイマスなら花柳界しかないですな
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