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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

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2012.04
28
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13:00
Category : 映画
 岩波ホールで『オレンジと太陽』を観てきました。

 白豪主義を維持するため、英国は本土から民族的に正しい孤児を輸出した。そういった内容の映画でした。岩波ホールで上映されている『オレンジと太陽』です。映画の筋書きは、http://oranges-movie.com/aboutmovie.htmlが大概になります。映画も出来はよろしくオススメですが、映画を見た後で、主人公であるハンフリーズによる『からのゆりかご』※を読むとよろしいでしょう。



 映画『オレンジと太陽』は、かつて児童移民としてオーストラリアに送られた孤児たちに光をあてる作品です。成長した子供たちは、自分たちが何者であるのか、ルーツを、アイデンティティを渇望します。棄民として輸出されたかつての孤児を救うため、彼らが何者であるのかを明らかにするため、80年代から戦ったハンフリーズを描いた映画です。

 オーストラリアへの児童移民は、残酷なものでした。児童移民は1970年まで続きますが、その待遇は1870年代かそれ以前の水準です。孤児の環境が過酷であった点は、映画だけでも充分に表現されています。しかし、映画ですので作劇術で刈り込まれた部分もあります。児童移民に与えられた残酷な取扱は『からのゆりかご』でより具体的に記述しています。

 まず本人意思も明確ではない児童を、親の承諾なしで地球の裏側、オーストラリアに移民として送り込むのです。その後に、子供たちは親との連絡はまったくとることができない。生きているにもかかわらず、親は死んだと説明される。場合によれば、名前や出生日といったアイデンティティも操作され、外地に輸出されてしまいます。

 当然ですが、オーストラリアには親類縁者いません。子供たちは宗教施設に放り込まれます。送り出す側も、引き取る側も主流は宗教団体です。カソリックが児童移民の発端ですが、英国国教会も、スコットランド国教会も、長老派協会も後に参加しています。

 『からのゆりかご』は、過酷な取扱を直接的に記述しています。

 子供たちはオーストラリアで劣悪な環境に置かれる。孤児院には、子供を保護する親の愛情はありません。カソリック系孤児院では、子供は劣悪な環境に置かれます。オーストラリア児童福祉局によるレポートでは「ベッドの下には多量の小水が溜ったままである。拭きとった形跡もなく、乾いて塩の結晶ができている。小水の塩分でベッドのスプリングは錆び、色がにじみ出ている(大意)」(304p)と述べられています。また、扱いも過酷です。アデレイドにあったグッドウッド孤児院では、靴下に穴が開いている、祈祷書の言葉を間違えた、服にシミをつけたといった理由で少女が全裸にされ、尼僧に鞭で叩かれた例(119p)も示されます。

 15歳になって孤児院を出ても、過酷な取扱は続きます。農園に引き渡されるのですが、そこでの扱いは、農奴や召使の扱いです。奴隷的な扱いであり、休みは6週間に一回。女子の例では、農園の長男による強姦未遂が何回も繰り返され、誰も助けてくれないといったエピソード(119p)が語られているのです。

 児童移民の目的も不純です。オーストラリア人は、アジア人に圧力を感じていた。アジア人種に対抗するためには白人移民が必要である。それも、価値観が固まっておらず、オーストラリアでの過酷な農場労働に疑問を抱かない子供が最適であると判断されました。子供は、宗教的に白紙であるため、本国では権威が低下した教会価値観を刷り込み易いといった点も、提案した宗教団体にとって有利な点でした。

 『からのゆりかご』では、児童移民を提唱した宗教指導者、特にカソリックの発言も提示されています。修道士は「『少年たちには魂の底まで宗教を教え込みます』」(269p)と発言しています。大司教は「『もしこの[人口]不足を我々と同じ人種で補うことができなければ、我々は近隣地域に住む多産のアジア諸種族の脅威に身をさらすままになる』」(269p)と主張しています。戦争直後の1945年にも、カソリック系新聞は「過去六十年にわたる避妊によって失われた6個師団分の潜在的[人口減により][中略]日本との戦争はよく考えても延期されているにすぎない。北からアジアが迫ってきている」(269p)と述べています。

 オーストラリアへの児童移民、孤児輸出がもっとも過酷な結果を生み出しました。同時期、ローデシアにも児童移民は行われましたが、子供の意志、親権者の承諾、親との連絡は確実であり、特に問題があるものではありません。到着後の環境も人道的であり、学校に通い、高級な教育を受け、後には社会の中心に出る機会が与えられています。対してオーストラリア向けが悲惨な結果となった理由は、やはり農奴(そういって差し支えないでしょう)として孤児を輸出する発想にありました。

 『からのゆりかご』がオーストラリアへの児童移民に焦点を当てた理由は、非人道性が際立っていたためです。『からのゆりかご』では、ほかにもカナダ、ローデシアへの児童移民もルポされています。しかし、問題はオーストラリアへの児童移民に絞られています。その理由は、オーストラリア向けが際立って悲惨であったためです。

 このため、映画化もオーストラリア向け児童移民に絞られています。題名も『からのゆりかご』ではなく、『オレンジと太陽』※※※ とオーストラリアを指すフレーズに変えられています。

 映画『オレンジと太陽』は、ハンフリーズを主人公にしています。原作は『からのゆりかご』であり、テーマはオーストラリアへの児童移民であることには変わりありません。しかし、ルポルタージュではなく、ハンフリーズの物語として作り変えています。ハンフリーズと夫、その子供達を主軸に再構成されました。かつての孤児たちと交歓し、英豪両政府と戦う姿は原作のままですが、そこに家族とハンフリーズの関係が持ち込まれております。ハンフリーズは児童移民問題に献身的に取り組みますが、同時に彼女が家族から離れた結果、生まれる苦しみとの葛藤も描いています。

 また『からのゆりかご』で項目立てされたテーマも大きく刈り込まれています。まず、カナダとローデシアへの児童移民は映画では取り上げられません。オーストラリアでの虐待も、特に性的虐待に代表させています。 ネタバレですが映画では徐々に暗示される内容ですので言及します。『オレンジと太陽』では性的虐待だけに焦点を絞られます。※※また、いくつかのエピソードでは登場人物を入れ替えられています。クライマックスでのセリフは、原作では現地の別の人物となっていますが、それを家族に変更しているのです。

 ストーリー化や刈り込みは、映画としての質を確保するための手段と言えるでしょう。映画原作は『からのゆりかご』ですが、ドキュメンタリーであるため、そのまま映画化すると冗長で退屈な、脚本、演出になってしまうことは避けられません。そこで作劇を重視し、物語として再構成した結果、映画として「鑑賞」できる作品に仕上がったのです。

 刈り込みはあったものの、不正義である児童移民への告発は鈍っておりません。刈り込みにより、原作で提示された数々の事実を減らすことになりますが、ハンフリーズが提示した問題意識は保持されています。児童移民問題とその解明も、映画はハンフリーズの視点で描けため、明快になっています。

 作劇も重視により、『オレンジと太陽』は、キチンと金をとれる映画になっています。ドラマとしても作劇しているため、ダレたりすることもありません。結果として、ドキュメンタリー映画のような、ドラマとしての退屈さは排除されている。鑑賞に躊躇はありません。。

 『オレンジと太陽』は観るべき映画です。岩波ホールの映画には当たり外れが多いことも事実ですが、東京市内まで出られる人であれば、今春観ておく映画です。そして映画に感ずるところがあれば『からのゆりかご』も読むべきでしょう。


※ ハンフリーズ,マーガレット著、都留信夫、都留敬子訳『からのゆりかご』(近代文藝社、2012)

※※ 少年、あるいは幼児と言われる子供へに対し、修道士が性的虐待を行います。

 この性的虐待についても、具体的な事例は『からのゆりかご』の方が詳しく書かれています。『からのゆりかご』では9歳半の男児を12ヶ月に20回犯す例や、別の男児を18夜連続で犯す例(315p)が挙げられています。

 カソリックによる性的虐待は、2000年以降に話題になりますが、ハンフリーズによる告発はその魁であったといえるでしょう。なったわけではないのでしょう。90年代にはハンフリーズが行った調査や、それに基づいたドキュメンタリーがイギリスやオーストラリアで放送されます。そこで明らかになった虐待、特に性的虐待により、児童移民がスキャンダルとして認識されるようになったのです。

※※※ 孤児に、豪州はいつも抜けるような青い空で、毎朝オレンジを食べられると勧誘するシーンがありますが、ドミニカ移民や満蒙開拓団を勧誘する文句そのものですねえ。
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一方、日本はいまだに中国人を騙して安い賃金で農家で働かせているんですから罪が深い。