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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

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2012.06
09
CM:4
TB:1
13:00
Category : ミリタリー
 中国は、正規空母を多数建造するコストについて見通しが立たなくなったのではないか。

 「中国はVTOL空母にシフトする」記事がある。梁天仞さんの「中国打造『均衡艦隊』」が、香港月刊誌『鏡報』6月号※ 掲載であり「伝聞中国海軍近期作出一個重大決定、就是発展中国的直升機航母(特殊航母)」で始まっている。

 梁さんは、中国海軍が将来どのような戦力を中心にするのか、その伝聞情報を紹介している。戦力組成で柱となる装備については、攻撃空母とVTOL空母、原子力潜水艦とAIP動力潜水艦とする内容となっている。

 背景として、予算膨張への対処があるように見える。記事内容では「崑崙山18隻建造を6隻に止め、VTOL空母4隻を建造する」(大意)とされている。そして、正規空母運用を限定的に止める構想も紹介されている。揚陸艦を減らし、正規空母をVTOL空母に変更するもので、従来言論されていた大海軍建設から後退した内容となっている。大海軍建設が中途で変更される例は、戦争終結を除けば、悉く予算上での限界である。

 また、正規空母そのものへの懐疑もあるのではないか。中国正規空母でも相当に高価である。しかし、価格の割に高性能を望むこともできない。そして正規空母をもっても、日米に対抗できる見込みもない。

 中国であっての、正規空母はあまりにも高価である。取得も高くなるが、維持費も高い。

 正規空母は高価になる。大型船体と、高速発揮させるための大出力機関だけで高価である。しかも、エレベータや着艦制動装置、買える国であればカタパルトもつけなければならない。艦載機と整備器材は極め付きに高い。航空機と司令部機能を繋ぐC4ISRもコスト的に無視できない。護衛する艦艇や、対潜ヘリも揃えなければならない。

 その維持費も考慮しなければならない。まず、母艦・航空機燃料代がかかる。特に中国空母にはカタパルトがない。航空作業を行うときには、空母はほぼ全速で走り回る必要がある。航空機も、高頻度で飛ばさないと離着艦技能を維持できない。乗員や整備員給与ひとつにしても無視できない。なにせ人数が必要になる。大型水上艦と比較しても5倍から10倍が乗り込んでいる。さらに護衛艦艇ほかの維持費、経費も必要になる。

 そして中国空母では、高性能は期待できない。まず、まともな艦載機もない。そもそもノウハウもない。

 中国空母艦載機は、いまのところロシア製が主体である。しかし、ロシアにはまともな艦載機運用経験もノウハウもない。ロシアは20年程度、ほそぼそと空母を運用している。それなりに発着艦をしているが、実用には程遠い状況である。研究段階が継続している状況にある。南米空母と同じで、威信財として空母を維持しているに過ぎない。

 ロシア製空母装備は、低性能である。艦載機は陸上機改修であり、艦載機として開発されているわけではない。しかも、カタパルトもない。戦闘機・攻撃機だけではない。早期警戒機はヘリ運用である。その能力も高いとは考えられない。最新AEWヘリでも、E-2C初期型程度の能力(「限定的能力しかもたない中国早期警戒ヘリ」)しかない。空中給油機もない。

 そもそも、中国が手本にするロシアにはノウハウが欠けている。ロシア海軍は、機動部隊どころか、海軍作戦そのものの経験も少ない。沿岸海軍、潜水艦海軍であり、ノウハウに欠けている。中国海軍も似たような段階に留まっている。

 高性能を期待できない中国空母を、日米海軍力に対抗できるか疑問である。中国正規空母は、完成しても米空母よりも格下である。能力的に格下である上、数でも劣勢である。米艦隊と協調行動をとる日本海軍力も馬鹿にはできない。中国から見れば、日本はすでにヘリ空母を2隻装備しており、大型化したものを1隻建造中であり、別に1隻計画している。中国海軍が正規空母を装備したとしても、日米は圧倒できない。邀撃的に運用するにしても、数を頼んで押しつぶされる可能性も高い。

 もちろん、中国は正規空母は建造する。海軍力に蹂躙された中国は、その経験から海軍力を重視する。中国近現代史は、海軍力に蹂躙された歴史である。清朝は英海軍により侵略を受けて躓き、日本海軍力に止めを刺された。民国は海軍力に超越した日本により、長江デルタを侵略され、政経重心である上海から南京までを一気に占領された。また沿岸封鎖を受け、経済を破壊されている。新中国も例外ではない。50年代以降、中国沿岸部は米海軍力により圧迫されている。新中国にとって、国内問題であるはずの台湾問題でも、米海軍力による威嚇を受けている。海峡ミサイル危機はつい最近のことである。特に、海峡ミサイル危機での屈辱は、正規空母建造を決定付ける契機となった。

 しかし、正規空母整備は威信財と割りきったと見ることもできる。VTOL空母建造と運用構想として、梁さんは「正規空母により制空権を掌握し、攻撃はVTOL空母や水上艦に任せれば良いという話」と紹介している。マリアナ沖海戦での日本艦隊を彷彿させる構想であるが、そうそう上手くいかないだろうとは中国人も考えているだろう。大海軍建造は後退させるが、国民感情から正規空母は作らないわけにもいかない(「中国空母『空母を建造しないと死んでも死に切れねぇヨ』」)といったところだろう。



 ただねえ、まあ、中露については報道一つでどうと判断できるものでもない。「◯◯でこういっていた」というだけで信じこむのは危ういでしょう。微分的な変動であって、それで「将来こうなる」と断じては、全体を見失うことに繋がる。「中国空母はこうなります」とか「その話はデマだ」とか、言えるようなものでもありませんね。「こういう話もありますよ」程度にとどめておくのがよろしいかと。

※ 梁天仞「中国打造『均衡艦隊』」『鏡報』(鏡報文化,2012.6)pp.6-9.
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まとめtyaiました【中国も簡易空母で済ますカモ】

 中国は、正規空母を多数建造するコストについて見通しが立たなくなったのではないか。 「中国はVTOL空母にシフトする」記事がある。梁天仞さんの「中国打造『均衡艦隊』」が、香港月刊誌『鏡報』6月号※ 掲載であり「伝聞中国海軍近期作出一個重大決定、就是発展中国?...

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No title

そりゃアレスティングケーブルをロシアが売ってくれないんじゃSTOBAR空母建造するには致命的ですからね・・・。

搭載機は?

VTOL空母に搭載される戦闘機は、何が考えられるでしょう?ハリアーの中古機でしょうか?

No title

「崑崙山18隻建造を6隻に止め、VTOL空母4隻を建造する」というのは、空母船型の揚陸艦を建造するという意味では?

No title

機動部隊形成には
空母1隻に付きそれと同額の艦載機
3隻の巡洋艦、4隻の駆逐艦
さらに高速戦闘補給艦、潜水艦がいります
プレゼンスは認めますが金を湯水のごとく使う厄介者
それがタスクフォース