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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2012.08
24
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12:59
Category : コミケ
2012年夏のあとがきです。ナマモノなのでココで開陳

 戦後70 年も経ち、軍隊生活に抱くイメージも実相から大きく外れたものなりました。『マブラヴ』シリーズですが、あの軍隊イメージでリアリティを感じるファンに呆れます。ファンの嗜好に添った味付けを繰り返した軍隊イメージです。過度にガチガチで固められた規律、過剰なナショナリティ強調には辟易です。それに違和感を感じないのは、日本軍隊がなくなり70 年が経過したためでしょう。 彼らにとっての軍隊イメージは、意識の高い人間だけで構成される非日常の特殊な社会集団です。生活臭や遊びの存在しない社会です。

 『マブラヴ』は抽象的で説明風なセリフが目立ちます。歴史やメカ等設定への稠密性への執着だけが溢れますが、それ以外はスカスカ。『FATE』と同じで、囲い込んだファンを喜ばせるだけの商売です。

 しかし、今期始まった『トータル・イクリプス』は例外でした。原作者小沢昭一、山本七平が観察した、等身大の昭和軍隊、戦争体験が生かされています。プレストーリーとして冒頭2 話を費やした、原作1巻『トータル・イクリプス 死んだら神様』は特に宜しいものでした。ゆとり世代が持つ、ヒーローが戦う戦争イメージではなく、あの戦争中に兵役に取られた一般国民の感覚が生きております。

 トータル・イクリプス1話「女の兵隊/毛虱と娘軍」は兵営のつらい面だけではなく、時には享楽にも興じた娘たちの姿を活写しています。もとがエロゲーだからでしょう。動員以降、最後の外出日に、唯依たちは全員で男を買いに行きます。ただし、上玉の役者を買う金もない。とはいえ質を落としたくもないと、彼女達は全員のお金をまとめ、名物を1 人買ってシェアする。隊内で浮いていた山城上総も含めて、姉妹になってしまうエピソードは皆が本当の仲間になった姿を描いており、心あたたまるものです。

 そして病気も仲良く伝染される。ひと月後の出征前夜、代表した甲斐が意を決して、眼帯教官に相談し、スカートを捲り上げ、下履きを下ろす。年甲斐もなく赤面した教官が虫眼鏡でまじまじと観察し一言「ケジラミだな」と。性病のカルテが残ると困ると、全員が下半身裸になって教官の前に並び、順番にスミスリンを噴霧してもらうところは、なかなか見ないタイプのエロ描写です。すでに四十郎だろう教官が「オレ、性欲も食欲も失せたよ」といったあたりは原作者小沢のエロ喜劇の雰囲気もあります。

 一転、第2 話の「橋」は、悲惨さが強調されます。唯依たちはベータ侵攻により、急遽前線投入が決まりましたが、結局は足手まといです。訓練未修で機動的運用はできない。前後に大きく動く最前線に投入できないことは明らかでした。教官は動員学徒に関する練度報告のあと「前線で夜に使うには心もとない」「下手すれば同士討ち」と後方残置すべきと示唆します。理由に「匍匐飛行ができない」と事実無根の報告も加えますが、言いたいことは皆が理解している。参加者も「バウンダリ南端に小さな橋がある」「重要ではない」「後に爆破予定です」「それまでは死守せねば」「そうしたまえ」と。

 しかし、悲劇への不安は、徐々に掻き立てられいく。配備された橋は、唯依たちの学校の側です。毎日キャフフしながら渡った橋。思い出との結びつきは、唯依たちを橋の防備にのめり込ませてしまう。

 そして、女中隊長の逮捕。姿勢がだらしない唯依たちを叱責すると「ちょっと痒くて」「膿がチョット、本当にホンのチョットだけ」と。問いただす中隊長が徐々に赤面する。時間的余裕があったのが裏目に出ました。こんなのにウツされたらタマランと、中隊長は薬品入手に出ますが、憲兵の尋問を受ける。何の意味もない橋に戦術機を配備する不自然と、経験不足で部下の病気とクスリについて中隊長は具体的には説明できない。そのまま前線軍法会議送り方になってしまう。

 残された小娘たちは何も判断できません。しかし、何の不安もない。無邪気に恋の話を繰り返す。山城上総が、秘していた教官への想いを「この戦いが終わったら…」と開陳すると、みなが冷やかします。しかし「遊んだのがバレたくらい大丈夫」と元気づけもする。物語で最も穏やかなシーンでしょう。

 しかし、その目の前の橋を、後方へ後退する部隊が通りすぎていく。その車両も傷病兵後送から、高級士官の乗用車、司令部付隊、通信部隊の車両に変わる。最後には天井にまで兵隊を乗せたトラックになる。死んだ眼をした彼らが小銃すら捨てていることには気づかない。どのような命令が出たのかも推測せず、情況を全く把握していない有様です。

 そして始まる戦闘。最初は群れからはぐれた少数のベータが侵入してくる。それを蹴散らし意気を上げるものの、その戦闘が新しいベータを呼んでしまう。数波にわかれて襲撃するベータ、櫛の歯が欠けるように減る娘たち。そして今まで見たこともない数のベータの群れ。残る娘は5 人だけ。弾薬を集めて再分配し「1 人7 発、大事に使えば7 匹までは殺せる」と至近距離にベータを引き付ける唯依たち。

 ベータの大波が橋にたどり着くその瞬間、艦砲による弾幕射撃が始まります。悉くが吹き飛ばされ、生き残ったベータが後退する。唯依たち5人は「勝った、守りきった」と喝采しますが、それはぬか喜びです。射線はすぐに下り、唯依たちに襲いかかる。「味方を殺すのか」と喚く唯依。弾幕射撃の後、生き残ったのは唯依と上総の2 人だけ。

 そこに教官が僚機を伴って到着する。2 機はともに大きな梱包を、道路爆破薬を携行している。始まった準備が何であるか察した唯依は「命を棄てて守った橋」、「私ひとりでも守り切る」と激昂します。そして、それを説得する教官が「橋は無価値だ。最初から落とす予定だった」と口を滑らせてしまう。

 その時、上総はいきなり教官機をフルオートで射撃する。教官僚機は上総機に応射。コクピットごと粉砕された上総機は教官機と同時に爆発。呆然とする唯依。そのメインカメラに飛散物が貼り付くが、それは教官と上総のツーショット写真。錯乱し、絶叫する唯依と、その背後で爆破される橋…

 このプレストーリ導入によって、本編、山本七平『トータル・イクリプス 一下級衛士の見た国連軍』が活きるのです。「半分死んたポンコツ」と自重する唯依。その醒めた視点で綴られたアラスカ物語は『マブラヴ』他作品とそのファンが持つ「空気に酔う」病理を痛烈に批判します。機械を重視し、人間関係を軽視する。気持ち悪いほどテンプレな人物造形、大仰なセリフ回しを評価する姿を「空気に酔ったもの」として描いています。

 『マブラヴ』特有の無機質な軍隊描写。それを冷笑的になぞらえることにより、合間に挟まれた、戦争体験者から拾った生きたエピソードが活きてくるのも逆転的です。

 第9 話で墜落したステラが米敗残兵と出会う話。「たかが百㎞じゃないか」に対し、老民兵の「たかが百㎞だと!」。「スタームルガーよりも優れた銃が」への「オレには…」といった反発は、機械しか描かない『マブラヴ』への批判です。

 第15 話のノーズアート話は萌えでした。タリサが同郷の女整備兵にノーズアートを頼みますが、よりによって屹立し汁を放つブータンの魔除けを描かれ、ユウヤに見られてしまう。ククリを使い半泣きで塗装を削るタリサは、生者の萌える物語です。

 なによりも第19 話「アルゴス小隊本部いまだ射撃中」でしょう。取り残されたオペレータ、ニーラム、リダ、フェーベの物語。『マブラヴ』で飾られる、高貴で清潔な死への皮肉そのものになっています。

 ベータ襲来により、司令部壕が孤立するところから物語は始まります。3 人は手鏡の反射で生存を知らせますが、ベータに阻まれた本隊は見守ることしかできない。しかし、ニーラム軍曹は「ここにM2がある限り、ベータはここを通れない」と豪語する。3人が頼るのは1門のM2重機。「M2 の命中精度は地球一だ。これから逃げられるソルジャーはいない」とも。そして3人の戦いが始まります。

 印象的であるのは、リダが「ギャップ調整適切ならざるなきや」「ベルトリンク捻じれあらざるや」と唱えながら何回も何回も銃身交換と給弾を続けるところでしょう。後半になると銃身だけではなく機筺部も熱を持ち始め、最後は赤熱します。それを尿で冷やしながらも射撃を維持する。戦場体験者の機関銃信仰、機関銃神話の再現そのものです。

 最後には、掩体が光線の直接射撃で溶かされ始める。しかし、3人はほぼ飲まず食わずでも射撃をやめない。弾庫と往復していたフェーベがベジタリアン用レーションを見つけ、嬉しそうに報告する。そしてニーラムの口元にレーションを運ぶフェーベに、ニーラムも照準器から眼を離すことなく感謝し「お前、今日誕生日だったよな」と尋ねる。「16 になりました、ようやく先任とお店に行けます」と答えるところは、本編でも最高のシーンです。

 『死んだら神様』も『一下級衛士』も、メカ設定排除に加え、奇妙なセリフ、演出を許さない姿勢は高く評価できます。他の『マブラヴ』だと「97式戦術歩行高等練習機」「殲滅速度を0.7% あげろ」「わがソ連軍の尋問技術は進んでいる」と、とうてい口語できない酷いセリフが頻出します。あんなの誰が考えるんでしょうね。しかし『死んだら神様』『一下級衛士』では違和感ある会話、演出はありません。「20 ばいの てきに ほういされる」「くわれます」、「しきんきょりでの はくへいせん」 「しにます」、「さいごの ひとりまで たたかう」「まけます」と、むしろ小桜エツ子の素朴な声にリアルを伺えます。

 BD には『トータル・イクリプス 人類は衰退しました』が収録されるとのことです。あまりにも空中楼閣的で戯画的な「マブラヴ」の世界を、新しい人類の出現で矛盾なく説明するとのことです。
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Comment

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No title

一部がどことなくドイツ映画の「橋」に似ているような・・・

Re: No title

なんせ、第二話の題名も「橋」でしたからね

第19話「アルゴス小隊本部いまだ射撃中」が独立機関銃隊いまだ射撃中へのオマージュであるように
多分、大きな影響を受けているのですよ

> 一部がどことなくドイツ映画の「橋」に似ているような・・・