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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2012.11
02
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13:00
Category : 有職故実
 昭和30年の新聞で見つけた話。小菅の拘置所から鉄格子切って脱獄した人なんだが、その目的は母に会うためというもの。これは親孝行の一種だろう。

 今でも有名な事件である様子。グーグルで「脱獄 ◯◯」と、彼の苗字を入れると、そのまま名前まで出てくる。ほぼ新聞記事と同じ内容がでてくる。ただし、捕まったのは22日ではない。新聞によれば昭和30年5月に5月11日に脱獄、21日に捕まっている。

 脱獄自体は、彼の兄が差し入れた金ノコで鉄格子を切るというもの。脱獄後、彼の兄は逮捕、おそらく別件で引っ張られている。彼は脱獄後、鉄道を使い春日部まで無賃乗車、そこから歩いて栃木まで移動している。

 注目するのは、脱獄そのものではない。脱獄の理由が母に会うことにある。そして、とっ捕まえた警察が母に会わせてやったということ。その時に、実家の飯を食わせてやったことにある。

 彼は、重罪を犯したものの、親孝行でもあった。母のことを考えると居てもたってもいられなかったのだろう。そして、実家で張り込んでいた警察も親に会わせてやった。親に一目会いたいという気持ちを認めたものだ。家に上げてやり、10分ほと話をさせ、食事も許したという。

 彼を母に会わせたことは、正しい行動である。法理に適っているかはしらない。しかし、人倫の道に従った行いである。警察官であっても、刑務官であっても人倫を無視することは許されない。

 脱獄の理由が「母に会いたい」であるのだ、会わせないのは人情にもとる。もちろん、罪は罪であるし、脱獄も許される話ではない。しかし、果たして実家に駆け込んだ脱獄囚を、母に会わせないのは血肉の通った人間のやることではない。

 張り込んだ警察が彼を憎んでいたかどうかは知らない。しかし、憎んでいても、念願叶い、実家までたどり着いた彼をおっ母さんに会わせないのでは、警察は人でなしである。法理には適っているかもしれないが、人として正しくはない。禽獣の行いである。当時、なお不浄役人と嫌われた警察官も刑務官も、禽獣であることは許されない。

 論語にも「政は正なり」とある。法理がどうであろうと、最後に母に会いたいとする子の願いを曲げることは正しくはない。その場の正義は、孝行を許すことにある。法理を優先し、西欧的な法=Law=正義を機械的に振り回し、すぐに連れ去るのは「正」に反する。

 彼の脱獄は、法は許さない。しかし、人情としては許さねばならない。母に一目会いたいと、警吏の待ち伏せる実家に向かうのは、刑から逃げようとする心ではない。親に寄ろうとする子の心が現れたものだ。己の罪により母に不孝をなし、それを詫びるのは、むしろ称揚すべき行為である。
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