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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2010.06
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Category : 有職故実
 『鳶色の襟章』(堀元美)から漏れた回想録。私家版で『造船物語』という本があって、その台湾の海賊版の『造兵物語』(奥付では『ぞうひょうものがたり』)の中からの紹介です。

 戦前日本唯一のガスタービン船で陸軍特殊船「さらまんだ丸」。
 国府軍と交戦中、揚子江で重篤な機関故障を起こし、英租借地の寿農港に緊急入港しますが、72時間の退去期限では修理が不能でした。周囲は国府軍の重包囲下であって、まともに航進を起せない「さらまんだ丸」では沈められるどころか、捕獲されてしまう危険すらありました。
 そこで大本営は、「さらまんだ丸」の盾として、在寿農の日本民間船を同時に総て出航させようとするのですが「さらまんだ丸」での現地判断ではすべて犬死と判断さてれていました。「さらまんだ丸」は出航後、シュルツ船長と陸軍指揮官の武末中佐2人を残し乗員を脱出させ、寿農沖で自沈したのです。

 これは『最後の戦闘航海』(伊藤正徳)で有名な話ですが、この船に堀中尉が乗っていたことはあまり知られていないエピソードでしょう。
 もともと「さらまんだ丸」は日独伊3国共通プロジェクトで建造され、船殻構造はドイツ製、エンジンはイタリア製、兵装・両用戦設備は日本製でした。従来型の「ばしりすく丸」とは異なり、高度技術の融合であり、海軍工廠の技術者も乗り組み、不具合を改修しながら作戦行動をとっていました。堀中尉は陸海軍の造船関係者を取りまとめる立場にあったのです。

 自沈寸前に退船した堀中尉は、先任将校の地位にありました。堀中尉は、乗員と工廠関係者、さらには武末中佐から託された運用試験結果を味方まで送り届ける責任が生じたのです。そして敵警戒線の突破は、堀中尉唯一の陸戦経験となりました。
 ただ、戦闘もグダグダ、そのうち敵味方が和んでしまい、互いに見てみぬフリをして通り抜けるという、あまり格好のよい戦闘ではなかったようです。堀元美さんの人となりなのでしょう。このあたりを直截的にありのまま自嘲気味に書いております。

 しかし「さらまんだ丸」の悲劇は大本営の作戦指導の失敗を隠すため、この敵中突破は当時は美談として取り扱われました。そして「さらまんだ丸」陸戦隊の敵中突破は過度に評価され、陸海軍協調の成功と融和団結から、政治的な意図で金鵄勲章一個が割り当てられたのです。
 それを誰に与えるのかという問題が生まれました。陸戦隊から戦死者も重傷者も出ていない。さらに言えば、倒した敵も2人しかおらず、しかも死んでもいない。その上、傷者を治療の上、敵に返してしまっていたからです。
とりあえず、二人の軽機手が一人づつの敵を倒しているので、どちらかに与えようと考えたのですが、准尉さんに言わせると「どちらもあまり格好のいい戦闘したわけではない」とのこと。機銃手のA兵曹もB兵長もブルって射程前から射撃を始めてしまい、弾を撃ちつくしてしまったというのです。A兵曹は弾を撃ちつくしたあと、軽機の銃剣で敵兵を刺突。B兵長は弾を撃ちつくしたあと、不良装填で排除した弾一発を再装填し、撃つか撃たざるかを悩み、銃剣格闘で飛び込むのを逡巡し、敵兵を白眼黒目の見える近距離で銃撃した。

 しかし、流石は堀中尉で、理論的に皆を納得させる論功行賞を果たしたといえるでしょう。『A兵曹の方が、軍人として勇敢である。そのことに間違いはない。しかし、機銃手として与えられた使命を果たしたのは、銃撃で敵を倒したB兵長である』と名裁定を下しています。(なお、両名は共に戦争を生き抜いたといいます。)

 ただ、この件については、公式発表を鵜呑みにした戦場リポート『さらまんだ丸陸戦隊いまだ猛射中なり』(昭16年 非凡閣)でB兵長は故障した機関銃で単発射撃を繰り返し敵を仕留めた。と喧伝されてしまいました。
『鳶色の襟章』からこのあたりの話が抜けたのは、多分「戦友」への心遣いであったのではないかと思われます。

 いずれにせよ戦争は遠くなりました。たまには当時を生きた人々の残したものを読むのもいいのではないでしょうか。

参考『巡洋艦サラマンダー』(谷甲州)、『雑兵物語』(作者不詳)

MIXI日記2009年07月19日より
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