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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

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文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

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2013.05
11
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13:00
Category : ミリタリー
 高性能鋼材を使うことで、水中排水量は変わるのだろうか?

 Dragonarさんによると、海自潜水艦がNS110を使う理由は、軽く作るためであるらしい。高張力鋼を使うことにより、水中排水量を減らす効果を狙ったものとしている。
 なんでこんなに耐力求めるのか?

自衛隊の潜水艦では、なぜ高張力鋼の性能向上に力を入れているのでしょうか。
その理由は軽量化にあると考えられます。

自衛隊の潜水艦は通常動力潜水艦の中でも、かなり大型の部類に入るものです。最新の”そうりゅう”型では、現用の通常動力潜水艦で世界最大となる、水中排水量4,200トンにまでなっており、艦の運動性や燃費などを考えれば、重量を少しでも減らしたいのだと考えられます。
   dragoner「潜水艦用高張力鋼 NS鋼について(後編) 」『dragoner.ねっと』(2013.5.10)http://dragoner-jp.blogspot.jp/2013/05/ns_10.html着色部は文谷による

 これは奇妙な主張である。基本的に鋼材の質で潜水艦の排水量、とくにDragonarさんが提示する水中排水量は変わることはないからだ。

 潜水艦の原理を考慮すれば、奇妙な理屈であることが明らかになる。潜行中の潜水艦は、基本的に中性浮力に調整される。タンクに水を入れて、浮きも沈みもしない重さにする。この時、水中排水量は、潜水艦がもつ体積と同じになる。海水が多少重いことを無視してざっくり説明すれば、潜水艦の体積を4200立米とすれば、4200トンになる。船殻の重さを変えてもかわらない。高性能鋼を使い船殻を軽く作ろうが、普通鋼で船殻を重く作ろうが、さらにはFRPで作ろうが、水中排水量は変化しない。

 Dragonarさんの主張は、これまで公式発表してきた内容とも異なる。従来から高張力鋼については、潜航深度を向上させるためと発表されている。Dragonarさんは公式発表が大好きな方である様子だが、これまでの公式発表と食い違うことについて気づかないのは不思議でならない。

 仮に公式発表以外の利点を考えるとしても、普通は防御性の向上を挙げるだろう。潜水艦の本体は一種の圧力容器である。大水深では、攻撃によって生まれた傷や変形によって、容器が水圧に耐えられなくなる可能性がある。これは圧力と耐久力の関係で決まることだが、高張力鋼を使うことにより、耐久性は上げることができる。

 公式発表の背後にあるものを推測することは悪い話ではない。

 しかし、その推測には検討を加える必要がある。たとえば、潜水艦を軽くするためという理由は、思いつくことは素晴らしいことである。だが、残念だが検討すれば否定される内容である。潜水艦の大きさは、兵装、乗員数、航続距離、作戦継続日数といった能力で決まる。大きさについては、鋼材の質はあまり関係しない。

 Dragonarさんは、自己の主張を検討していないのだろう。実際に、「新戦車は作るべきではない」あるいは「新戦車の製造数を抑えろ」とする主張を、勝手に「戦車不要論」と早合点する。しかも「軍隊不要論」になるというよくわからない論理の飛躍をしている。※ このあたりでも、検討の不足が伺われる。




※ dragoner「戦車不要論者って、軍隊不要論を否定できます?」『dragoner.ねっと』(2013.5.3) http://dragoner-jp.blogspot.jp/2013/05/blog-post_4762.html

※※ 潜水艦用高張力鋼 NS鋼について(後編)は、NS110の件についても、珍妙な主張がある。
 NS110の謎

さて、より耐力が強固なNS110は、”はるしお”型以降で採用されているという話が文献やネット上であります。しかし、NS110の規格制定年が1998年であることを考えると、”おやしお”型以降なのでは無いかと考えています(ただ、”おやしお”も1995年起工だから、果たしてNS110使われているんだろうか……)。
   dragoner「潜水艦用高張力鋼 NS鋼について(後編)」『dragoner.ねっと』(2013.5.10)http://dragoner-jp.blogspot.jp/2013/05/ns_10.html着色部は文谷による

 NS110そのものは、すでに昭和50年代の雑誌に載っている。また、はるしお級に関する記事でもNS110を使用しているとある。手元にないので現物未確認だが、当時の防衛白書か装備年鑑にも書いてあった。このあたりは少し調べれば分かる話だ。

 規格化が1998年であることを根拠に「はるしお級に使っているわけがない」と考えるのは本末転倒だろう。現物があるのに理屈を優先するようなものである。北米のバイキング遺跡を見ながら、コロンブス以前にヨーロッパ文化の遺跡があるはずがないと考えるようなものだ。

 はるしおが使っているという記事から、規格化が1988年の誤植であるか、あるいは規格制定前に使用が始まっていると考えるのが普通だろう。実際に後者の例もある。ある旧海軍研究の大家によると、規格としてとレシピが決まる前に、性能規定だけで採用した例があるという。

 いずれにせよ、「はるしお級にNS110を使っているわけがない」と判断するほうが奇異な話である。
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Comment

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No title

潜水艦用鋼材の予備知識全くありませんが、NS110で検索して上位に来るのがこれ。

NDS Z 3017 艦船用超高張力鋼(NS110鋼)用溶接材料 H15.04.09
http://www.mod.go.jp/trdi/data/pdf/nds_open_link.pdf

80年代、つまり昭和50年代後半から開発を進め溶接方法の実証性について確認したのが2000年前後だったようです。制定は2003年ですね。

この評価書には要素技術の達成時期が書かれています。
http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/15/jigo/honbun/09.pdf
http://www.mod.go.jp/trdi/research/gaibuhyouka/pdf/NS110_15.pdf

N110鋼材自体は製作できてもその溶接方法が課題であったように読めます。それをクリアしたのが、2000年前後なのでしょう。

他の鋼材でもあることですが、開発当初は採用範囲を限っており、徐々に難易度の高い部位に広げていこうとしたのかも知れません。
ネットでははるしお型での使用という情報も流れていますが、もし事実ならそのようなものか、或いは強度に影響しない部分で実証テストしていたのでは。

鉄鋼・金属業界にも学会誌や産業向技術誌がありますし、細かい話はそのようなものを洗っていけば分かるかと。
防衛関連の技術雑誌や『防衛アンテナ』辺りにも載ってるかもしれませんね。

No title

何か調子悪いみたいで同じ投稿を2回以上送ったかも知れません。すいません。

No title

水中排水量が変わらなくとも軽量化されたことにより予備浮力が増えるのでは?

NS110鋼の耐圧船殻への使用について

NS 110鋼の耐圧船殻の使用はそうりゅう型からです。NS110鋼の完成時期と溶接技術の開発は同時ではありません。鋼は加熱すると残留応力の問題が発生して当初計算の抗力が維持できなくなります。したがって残留応力の発生を低下させる溶接技術が必要になるのです。この溶接技術は熟練工でも均一な溶接結果は期待できないくらい難しく、三菱も、川崎も、コンピューター制御の溶接ロボットを使用しております。この技術に関してのこれ以上のコメントは国益に反します。基準排水量の問題ですが体積が変化しなければ排水量の変化はないのでアルキメデスの原理で水中重量の変化は理論的にあり得ません。しかし(1)物質の質量から考察した場合、質量の増大は運動エネルギーの増加をもたらし、戦闘艦の場合は不利になります。(2)受ける浮力は体積基準で同じですが物質の比重が浮力より大きくなればその物質は沈みます。NS110鋼の使用は一義的に潜航深度の増大を求めますが二義的に比重の削減にも寄与します。
極めつけの証明になりますが潜水艦が魚雷発射しますとその魚雷の重量と同じ重さの海水を前部バラストタンクに注水します。これを怠ると自動懸張(懸垂)時に艦首がアップトリムになりますので艦の水平が保てなくなります。体積の変化は無いですが質量変化でバランスは変わりますが、現代ではコンピューターが自動的に行います。それと攻撃を受けた時の船殻の被害ですが水上艦攻撃と潜没潜水艦攻撃の弾頭は信管の設定が異なります。詳細伏せますが攻撃対象物により爆発時の目標物の相対位置を変化させます。