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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

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2010.05
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2008年夏コミのあとがき、ナマモノなので解禁

 骨太の映画でした。『生きる』や『椿三十郎』のリメイク。あえて言えば劣化コピーとは大違いでした。流石は岡本喜八、『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』の続編がこのような形で作られるとは、まだまだ映画界も捨てたものではありません。

 鬼束ちひろの主題歌が流れる中、物語は昭和20年7月26日の東京で始まります。彼女は詞先で歌を作るといいます。曲を提供した佐藤勝も、歌詞にあわせるのには苦労したでしょう。♪「学徒ターイ、ウェイ!」から始まって「西か東か南か北か、どこに行っても鼻ツマミ」「野暮な曹長が帳簿をめくる、お前らとっくに死んでいる」♪…今様の若者文化に合わせた、男女の別れや、嘘の悲しさを強調した鬼束の歌詞に、昭和3年会の佐藤勝は随分苦労して曲調をあわせたようです。

 その主題歌が流れる中、終戦工作も大詰めを迎えた昭和20年8月、あの暑い夏が始まります。
テーマは、前作と一変。軍部・右翼のクーデターと、カウンター・クープとしての学徒兵達の大活劇に変わっています。

 ただ、終戦から既に60年も経ちますので、伏線としての終戦工作を知らないと、若い人には少々突拍子もないかもしれません。
鈴木貫太郎(笠智衆)が小泉信三(石坂浩二)に戦争終結を諮詢したエピソードは既に歴史に属しつつあります。迫水久常の回顧録で知られるように、鈴木首相と小泉総長の関係は終戦工作の過程で急速に密接となりました。総長は、時に軍部の圧力に屈しそうな総理の『心の支え』といえる存在であり、世間付き合いのように官邸に赴く毎日であったことはよく知られたエピソードでした。その中で、秘されてきた『最後の早慶戦』が口の端に上ったことも、かつては常識でした。

 鈴木貫太郎はその姿から、単に日露戦争の英雄とだけ見られていましたが、実態はきわめて老獪な政治家でした。陸海軍の不穏分子、特に近衛師団の圧力から御文庫を守るために、彼ら学徒兵を手許に置くことを思いつきます。政治的な意図もあって『最後の早慶戦』は天聴に達せられ、学徒兵達の配置先が急遽調査されるのです。

 しかし、事実は過酷でした。彼らは入営前でありながら、即時に軍法会議に掛けられ、懲罰部隊に編入されていたのです。
罪状は軍務妨害。学徒出陣の壮行会直後、武装したままの学徒兵達が新橋の操車場で、虐殺される中国人捕虜の少女を助けた咎。憲兵隊に銃を向け、逃亡を援助したことが原因です。

 学徒兵達は、階級も与えられず、比島で、沖縄で、過酷な作戦に従事されてきました。
メカジキ部隊という名前の、魚雷にドラム缶を取り付けただけの肉弾兵器。しかも母艇は汚穢船改造の特設艦艇(艇長:藤田まこと)という悲惨さ。決死の攻撃を繰り返すことを命じられながら、特攻隊の冠称を拒絶された員数外の懲罰部隊。破滅の戦場で玉砕すら許されず、転戦のための自力の脱出を命じられ、繰り返した全滅予定部隊です。
そして、彼らは最後の戦場にいました。戦局の逼迫に伴い、本土に現れた敵水上部隊。その攻撃を命じられ、もう下がることのできない内地、遠州灘-東京湾での積極的で、そして絶望的な攻撃に従事させられていたのです。

 帰投する汚穢船。そこに、高木惣吉(仲代達也)が三式連絡機で着陸します。そして、老召の基地隊長(塚本明)に『海軍少将高木惣吉は、朕の命令により、重要作戦を指揮する。陸海軍、官民全ての要員は、階級の区別なく、彼に協力しその指示に従うこと 御名 御璽』を読み聞かせる。

 ただ、学徒兵達には感激も感涙もありません。報告では、18人いたはずの部隊は、15人にまで減っている。阪井隆信(加山雄三)は「1日早く着てくれたら、2人助かっていた」と無常観を漂わせ、足許の屍体を煙草で指します。そして戸田順治(寺田農)の「いまくたばりました、3人です」の声。それほどまで戦争は青年の心を荒ませていたのです。
そこまでシニカルに、ニヒルになりながらも、宮城に召された学徒兵達が戦争終結を支えることになるのです。

 彼らが宮城に入った8月13日。一通の計画が陸軍大臣に指し出されます。それはポツダム宣言受諾を策する和平派を天皇から隔離し、東京に戒厳令を敷こうというものです。そして、日本にはいちばん長い日がやってきます。ここまでがアバン・タイトル、20分を要しています。やはり本格派の映画です。後は、時計の指す時間を追いかけてのドラマが展開します。

 近衛連隊の交代、詔書案の作成、玉音盤の録音…全てに関して、学徒は何の感慨も持ちません。傍目には宮内省侍従室に詰める無気力な学徒士官、そう、新品のコンパスマークを付けた一躍海軍中尉となった学徒士官は、茫洋とした青年にしか見えませんでした。ポーカーをする阪井、オルガンでバッハを弾く戸田…。陸軍少壮の将校達も、戦争継続の説得も糠に釘。叛乱を企む参謀も、殴ったところで無表情の学徒達を見て『錆付いた短剣には用はない』とばかりに無視を決め込んでしまいます。彼らが出たところで「平和か、また野球ができるなぁ」と、無表情のまま口にして、互いに頷きあう学徒兵。

 日付が変わって8月15日、侍従室で玉音盤の包装にあたる迫水書記官長は、駄弁るだけで何もしない学徒兵に、苦々しい顔つきで包みを皇后宮職事務官室まで運ぶよう依頼します。ナレーション『長い日はおわるまでもない、まだその半分しか過ぎていなかった』 そして近歩二連隊に対し、偽の師団命令。『大隊は直ちに宮城を占拠、確保せよ』。

 宮内省で突如家捜しが、録音盤の捜索が始まると、学徒兵は態度を豹変させます。躊躇なく友軍を、そう、友軍である近衛兵に短機関銃で無警告射撃を開始します。近衛兵は一気に押し戻されます。着剣はしたものの、弾倉が空の歩兵銃では火力に劣ります。小隊長の「皇軍あい撃つか」に対し「聖慮に歯向かうか賊軍。貴様等はすでに皇軍ではない。軍服を着ていようが叛徒である!」と啖呵を切ります。レイテで、マニラで、そして沖縄で死に切れなかった学徒兵は、兵士としても最強のレベルにありました。
ただ、兵力の多寡の前に質は問題とはなりません。叛徒は一個中隊をもって、玉音盤の破砕を企図します。そう、破砕です。東京放送局は既に叛徒の占拠下にあり、また宮城も叛乱軍が抑えています。玉音盤そのものには価値はありません。あとは、邪魔な学徒兵達を排除すればよいのです。

 遠巻きに始まる機関銃の射撃。擲弾筒の水平発射。短機関銃装備の学徒兵は抵抗すること敵いません。玉音盤を守るため、皇后宮職事務官室に下がる学徒達。もう駄目か、と覚悟を決めたその時、息を吹き返した侍従から抜け穴を教えられます。武官から渡された陸軍将校の制服に着替え、玉音盤を持って脱出する阪井。その撤退を援護する戸田達。時間稼ぎと、文官の犠牲を減らすため、提案した一時停戦の後「一思いに楽にしてやれ」という歩兵中隊長の指揮で始まる猛烈な一斉射撃。

 学徒はそれぞれが斃れるとき、最後の早慶戦のシーンを思い浮かべます。セピア調のスローモーションで、前作『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』での活躍のシーンが流れるのです。試写会の監督挨拶で「出資元から『野球成分が全然ないのが問題』といわれ、急遽挿入した」カットでしょう。監督は『野球そのものは前作でやり切った』との立場で『イザとなったら、燃える御文庫の中で野球盤でもやらせておけばいい』と言い切っていたそうです。監督の意にはそぐわなかったかもしれませんが、近年の大ヒット映画『八甲田山』を参考にしたというこの演出には、やはり涙するものがあります。
しばらく経ち、叛徒が突入すると、蜂の巣になった学徒達。そして、オルガンに持たれかかったまま息絶えた戸田の姿があります。

 そしてクライマックス。単車で脱出に成功した阪井は、放送協会に侵入、第12スタジオで叛徒畑中少佐を背後から短機関銃で撲殺します。そして放送技師(加東大介)に玉音盤を渡そうとするのです。その瞬間『短機関銃を持ち、海軍式の敬礼をする陸軍武官』の不自然に気づいた叛乱軍の手により、玉音盤ごと吹飛ばされてしまうのです。

 夜が明けるのを待ち、東部軍司令官(石山健二郎)は近衛師団の指揮を執ります。そして、玉音盤事件の報告を、学徒達の活躍を聞きながら、ただ一言「犬死だったな」と呟くのです。

 朝の8時、大阪。袱紗で覆された録音版を捧げ持つ高木惣吉。そう、宮城の録音盤はダミーだったのです。この虚無感こそが、本作を傑作にしてます。

 ラスト・シーン。『謹んでお伝えいたします…国民は一人残らず謹んで玉音に拝しますよう、こちらは日本放送協会大阪放送局です…』そして『遠い空のボレロ』。


『最後の早慶戦 怒りの脱出』より
監督によると、第三作『最後の早慶戦 怒りのアフガン』も製作決定だそうです。

いつものことですけど、何で見てもいない映画の評を書くのでしょうね。

MIXI日記 2008年10月18日00:02から転載
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