fc2ブログ

RSS
Admin
Archives

隅田金属日誌(墨田金属日誌)

隅田金属ぼるじひ社(コミケ:情報評論系/ミリタリ関係)の紹介用

プロフィール

文谷数重

Author:文谷数重
 零細サークルの隅田金属です。メカミリっぽいけど、メカミリではない、でもまあミリタリー風味といったところでしょうか。
 ちなみに、コミケでは「情報評論系」です

連絡先:q_montagne@pop02.odn.ne.jp

→ サークルMS「隅田金属」
→ 新刊・既刊等はこちら

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Powered by fc2 blog  |  Designed by sebek
2013.05
25
CM:3
TB:0
12:00
Category : ミリタリー
 3.5tトラックは悪いトラックではない。特に欠点もなく、軍隊で兵站や雑用としては充分である。性質上は荷馬、農耕馬と同じであり、高性能が求められるものでもない。別に世界一である必要もないし、世界一でなくとも恥じる必要はない。

 しかし、桜林美佐さんは、その3.5tトラックを万邦無比であるように喧伝している。連続で掲載された「大震災の津波に襲われ唯一動いたトラック いすゞ『3トン半』」「米軍兵士が感嘆の声を上げた水にも強いトラック」がそれだ。


■ 「津波に耐えたのは3.5tだけ」は疑わしい

 2つの記事は、例によって対象である3.5tトラックを持ち上げるものだ。前者では、3.5tトラックだけが津波に耐えたとしている。後者では、赤錆だらけになった米軍トラックに対して3.5tは錆も出ないと称賛している。

 3.5tトラックだけが津波に耐えたとする話は、記事対象を称賛し、他を下げる、桜林さんのいつもの誇張、脚色の様子である。桜林さんの話に具体的な部分や状況が出てこないあたりでも、それは窺える。

 そもそも、3.5tだけが生き残ったという話は、桜林さんの記事だけしか出てこない。ディーゼル車であれば生き残っても不思議はないのだが、同じディーゼル車である高機動車や2tトラックが動かないで、3.5tだけが動いた§ という話は、ネットを検索するかぎり、桜林さんの記事とそれをコピペしたものだけである。そして、空自松島基地での被災に関する新聞記事では、それと異なる内容が述べられている。「動いた車両はトラックや除雪車など6台」とある。トラックは3.5tに限定されていない上、除雪車も動いたとしている。ちなみに、除雪車はプラウもマスターも3.5tがベースではない。

 米軍兵士が感嘆したとする話も、少々おかしい。
 「これはすごいトラックだ!」

 そう声をあげたのは東日本大震災の時「トモダチ作戦」で車両を整備していた米軍兵士だった。同じように水に浸かったトラックが並び、中を開けてみると真っ赤に錆びた米軍の部品に対し、「3 1/2tトラック」の中はピカピカ。
   「米軍兵士が感嘆の声を上げた水にも強いトラック」
とあるが、米軍車輌が同様に水を浴びる理由が分からない。「東日本大震災の時『トモダチ作戦』」とあるが、米軍が津波を被ってはいない。被災地区で唯一米軍が展開する三沢は台地上にあり、津波を被ってはいない。

 米軍トラックとの比較も、あまり意味のあるものでもない。まず、米軍はあまり錆を気にしない。軍艦でもそうであるが、性能に影響しない限りは問題視せず、毎日の手入れでサビ落としはしない。腐食しない限りは、一定間隔で落とせばいいと考えている。また、逆に言えば、赤錆が発生しても問題ないようにも作っている。アメリカのトラックは、電蝕を防ぐために犠牲的に錆を発生させる部分を作っているという話もある。


■ 外国の軍用トラックでも道交法はクリアできる

 他にも奇妙に感じるところがある。軍用として必要な能力と、道交法に基づく車両制限令の制限をクリアできるのは3.5tトラックだけだとする話だ。
これ[登坂能力等]だけなら軍用トラックとして驚くほどではないだろう。日本のものは、この上さらに国内の道路交通法の下で一般道や高速道路を走れるようにしなければならないのだ。
   「大震災の津波に襲われ唯一動いたトラック いすゞ『3トン半』」
 しかし、日本でも外国製の大型のトラックやトレーラは走っている。あの手の車両は、一般的な軍用トラックよりも大きい。10t以下の軍用トラックなら、大概は日本の車両制限令をクリアできるのではないか。

 実際に、海外の軍用トラックを見ると、日本の法令制限もクリアできるように見える。3.5tトラックと同等の能力を持つインド、ルーマニア、スペインの軍用トラックを見ても、サイズも重量も車輌制限令をクリアできる。

 3.5tトラックは、路上搭載力で言えば6tであり、足廻りは6×6である。同等のトラックとして、インドのタタLPTA(6×6)5000kg、ルーマニアの15.330 DFAEG(6×6)5000kg、スペインのPAGASO 3050 (6×6)6t がある。

 軍用トラックとしての能力もほぼ同等である。これらは登坂能力も3.5tと同じ程度で、クリアランスや渡渉能力は3.5tよりもやや優れる。

 これら3ヶ国の軍用トラックは、車両制限令で問題となるサイズ・重量を、ともに問題なくクリアしている。最も問題となる車幅は、インドとスペインのトラックは、3.5tよりも小さい。ルーマニアのトラックも、3.5tよりも1.5センチ幅広なだけである。次に問題となる高さはインドのトラックが3.5tと略同じ、ルーマニアとスペインは寧ろ低い。

 軍用トラックとしての能力と、道交法は普通に両立するということである。3.5tを唯一の選択肢と主張するために「両立しない」と述べているが、明らかに事実と異なる。その点は普通に確認できるのだが、それをせず「両立しないので、民生転用や外国製輸入はできない」と結論付けるのは、桜林さんが調べるべきを調べていない証拠だ。§§


■ そのうちにリアカーもヨイショするだろう

 桜林さんにとって、防衛産業を評価する方法は、その製品が高度な性能を持っていることを誇張して伝えることしかない。もちろん、防衛産業にも良い部分もあるだろうし、悪い部分もある。商業的に悪い部分に触れられないまでも、その良い部分を普通に褒めればよい。だが、桜林さんは悪い部分、おかしな部分でも無理に評価を与えようとする。例えば談合は悪ではないという主張がそれである。また、一般的な製品であっても防衛省専用では、高価格に見合った高性能であるとも主張するところが、不当だ。

 ある軍事評論家は、いずれはリアカーも褒めるだろうと述べている。実際に褒める可能性もある。自衛隊には、災害時に使う折りたたみのリアカーがあるためだ。

 自衛隊には、20ftコンテナに入った防災キットというものがあり、その中に折りたたみ式のリアカーが入っている。もちろん、無きに優ること満々であるが、能力的にはプアである。海曹曰く「アレなら3才位のネコ車のほうが重いものが運べる」や「氷屋の自転車の方が」などとと言っている程度だ。

 だが、その時には、桜林さんは如何に高性能であるのか褒めるのだろう。そもそも、取材もメーカにその利点を聞いて引き写すだけである。隊員が別の手押し車や自転車のほうがいいという話は聞いたとしても、防衛産業を褒める上で邪魔になるので書くことはないだろう。



※  桜林美佐「大震災の津波に襲われ唯一動いたトラック いすゞ『3トン半』」『ZAKZAK』(産経新聞,2013.05.14)http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130514/plt1305140709001-n1.htm

※※ 桜林美佐「米軍兵士が感嘆の声を上げた水にも強いトラック」(産経新聞,2013.05.21)http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130521/plt1305210709002-n1.htm

§  今後、桜林さんが高機動車や2tトラックを褒めるときに困るのではないか。

§§ 3.5tや2tについて「外国の軍用トラックの方が安いから買え」という主張はない。
   なお、民生用転用についても否定したいらしい。だが、3.5tも2tも、載せる重さを減らし、足廻りを多少強化されている程度で、基本的に民生用と大差はない。


参 考 これまでの桜林さんの記事
スポンサーサイト



Comment

非公開コメント

今度、陸海空の航空部隊用に米国製の化学消防車が入りますが。

自衛隊にも車両制限令を超える外国製特殊車両が導入されるのですが桜林さんがどういう反応するか楽しみです。やっぱり国産じゃないと反応するのでしょうか?

もっとも今まで車両制限令に収まる化学消防車を装備していた自衛隊も大変でしょうね。急に予算が付いて一般競争入札だからって外国製のそれも車両制限令を超える消防車を持って来られたら…

海の回転翼の基地なんか車両重量30トン超の消防車なんて基地内道路保つのかしら?車庫に入るのかしら?

Re: タイトルなし

 日本企業が海外生産した車輌なんかは、どのように評価するのかも気になるのですよ。商業的理由から防衛産業を褒めなければならないので、褒めるべきなんですが、想定される読者が求める「日本は優秀」というチョットしたナショナリズムへの迎合はできないので困るんじゃないかと。まあ、触れないのが一番なんでしょうが。

 あと、30t超も問題ないですよ。航空燃料のトレーラとかも30t超えているでしょうし、航空機を引っ張る、大きい方の牽引車も輪荷重は相当ありますが、それには耐えられるようにしているわけですし。滑走路・エプロン・誘導路は、運用飛行機のグレードで強度を決めますが、普通の道路よりも丈夫なので、30tくらいはわけないです。

No title

「優秀な」国産である高機動車の民生型、メガクルーザーは殆ど売れなかった。ハンヴィーはあれだけ売れたのに。あれは某将官がハンヴィーみたいなのが欲しいといって開発されたらしい。大トヨタがつくっても発注者がアレだとマトモな製品ができなかった。

桜林さんはこういう事実も無視するんだろけどね。