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- » 2023 . 12
Category : エネルギー
FT法で作られる燃料は、自衛隊が採用する必要もないし、品質も過剰にすぎる。経済性を考慮しても、実際に使われているように低品質燃料に混和するのが最もよい使い方ではないか。
藤原秀樹さんが、前々から、FT法について自衛隊の利用について述べている。最近では31日付の「日本の豊かな森林が生み出すクリーンなディーゼル燃料-自衛隊の利用でコストを下げ産業競争力強化を」がそれだ。
この藤原さんの記事は、FT法による燃料合成を丁寧に説明しており素晴らしいものである。
しかし、自衛隊に無理矢理にあてがう必要があるのか、品質についても高品質を強調し過ぎではないかといった点で、やや疑問がある。また、経済性についても、利用法や製造法について、現実に即していないように見える。FT法は他のバイオ燃料に比べて製造単価が高い。
自衛隊はそれほど高品質の燃料を必要としていない。
まず、航空燃料であるが、FT法100%純粋なケロシンは却って使いにくい。軽油や灯油には、芳香族と呼ばれる炭化水素が含まれている。匂いや黒煙そのほかの問題もあるのであまり好かれてはいない。しかし、その芳香族には配管をシールする作用がある。このため、ICAOではFT法100%のケロシンは使うな(半分に割ればOKとしている)としている。民間機も軍用機も、基本的には同じエンジンであるので、民間機で使えないものは、軍用機でも使えない。当然、自衛隊のジェット・ターボプロップでもそのままでは使えない。
艦艇燃料も、航空燃料と同じように適していない。今の護衛艦はガスタービンで動いている。飛行機に積んでいるエンジンと同じものであり、芳香族では同じ問題が発生する。また、コストの問題もある。艦艇燃料は航空燃料よりグレードの低い軽油2号を使っている。多少問題があっても、公開中でも機関科が面倒を見れるため、燃料は低グレードでいい。その点からすれば、ヨリ安価なバイオディーゼル、菜種油や天ぷら油を改質してできるような脂肪酸エステルで十分である。バイオディーゼルはFT法よりも更に安い。
陸上用の燃料としては、さらに適していない。陸上動力は、概ねディーゼル・エンジン(一部の艦艇も同じ)である。ディーゼルは何でも動く。極端な話、菜種油でも不良重油でも、灯油やアルコールで割ればそのまま動く。菜種油のたぐいの単価は、FT法どころではないくらいに安い。
つまり、自衛隊全体を無理してFT法燃料を使う必要はない。あっても、航空燃料の一部に混和する程度である。だが、米海軍は航空燃料にもバイオディーゼルをつかう実験をしている。エネルギー効率が悪いFT方法を主要する必要はない。
また、藤原さんが主張する経済性についても、疑問点がある。FT法の原料は、木材に限られたものではない。天然ガス液化(GTL)、石炭液化(CTL)、バイオマス液化(BTL)は全てFT法である。今日、同じFT法をとるのならば、アメリカのシェールガスやロシアの天然ガスを液化するのが一番安い。日本国内でも東京の地下にある南関東ガス田や、廃炭鉱や褐炭鉱からの低品質石炭、生ごみガス化をやったほうが、おそらく安価である。
経済性については、繰り返すが他のバイオ燃料との比較も必要である。既に述べたバイオ・ディーゼル(脂肪酸エステル)は、植物油脂ならなんでも利用できる。また、同じ木質原料を使うにしても、すでに稲藁でセルロースから触媒を使ったエタノールの商業製造に成功している。高温高圧を必要とし、エネルギー効率の悪いFT法よりも、エタノール製造のほうが効率が高い。
もちろん、FT法にもいいところはある。貧ガスや不良石炭を使用できる点はその長所である。
だが、その利用法としては、硫黄や燐、バナジウムを多く含む不良燃料への混和が一番経済的ではないか。改質が必要な燃料に混入し、改質なしで販売するのが一番安価だろう。あるいは、不快な匂いが無い点を活かしての、石油ファンヒータや石油ストーブ用としての販売だろう。
いずれにせよ、自衛隊が最初に使う必要はないし、自衛隊が必要とする燃料需要にも合致はしてないのである。
※ 藤原秀樹「日本の豊かな森林が生み出すクリーンなディーゼル燃料-自衛隊の利用でコストを下げ産業競争力強化を」(日本ビジネスプレス,2013.12.31)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39561
藤原秀樹さんが、前々から、FT法について自衛隊の利用について述べている。最近では31日付の「日本の豊かな森林が生み出すクリーンなディーゼル燃料-自衛隊の利用でコストを下げ産業競争力強化を」がそれだ。
この藤原さんの記事は、FT法による燃料合成を丁寧に説明しており素晴らしいものである。
しかし、自衛隊に無理矢理にあてがう必要があるのか、品質についても高品質を強調し過ぎではないかといった点で、やや疑問がある。また、経済性についても、利用法や製造法について、現実に即していないように見える。FT法は他のバイオ燃料に比べて製造単価が高い。
自衛隊はそれほど高品質の燃料を必要としていない。
まず、航空燃料であるが、FT法100%純粋なケロシンは却って使いにくい。軽油や灯油には、芳香族と呼ばれる炭化水素が含まれている。匂いや黒煙そのほかの問題もあるのであまり好かれてはいない。しかし、その芳香族には配管をシールする作用がある。このため、ICAOではFT法100%のケロシンは使うな(半分に割ればOKとしている)としている。民間機も軍用機も、基本的には同じエンジンであるので、民間機で使えないものは、軍用機でも使えない。当然、自衛隊のジェット・ターボプロップでもそのままでは使えない。
艦艇燃料も、航空燃料と同じように適していない。今の護衛艦はガスタービンで動いている。飛行機に積んでいるエンジンと同じものであり、芳香族では同じ問題が発生する。また、コストの問題もある。艦艇燃料は航空燃料よりグレードの低い軽油2号を使っている。多少問題があっても、公開中でも機関科が面倒を見れるため、燃料は低グレードでいい。その点からすれば、ヨリ安価なバイオディーゼル、菜種油や天ぷら油を改質してできるような脂肪酸エステルで十分である。バイオディーゼルはFT法よりも更に安い。
陸上用の燃料としては、さらに適していない。陸上動力は、概ねディーゼル・エンジン(一部の艦艇も同じ)である。ディーゼルは何でも動く。極端な話、菜種油でも不良重油でも、灯油やアルコールで割ればそのまま動く。菜種油のたぐいの単価は、FT法どころではないくらいに安い。
つまり、自衛隊全体を無理してFT法燃料を使う必要はない。あっても、航空燃料の一部に混和する程度である。だが、米海軍は航空燃料にもバイオディーゼルをつかう実験をしている。エネルギー効率が悪いFT方法を主要する必要はない。
また、藤原さんが主張する経済性についても、疑問点がある。FT法の原料は、木材に限られたものではない。天然ガス液化(GTL)、石炭液化(CTL)、バイオマス液化(BTL)は全てFT法である。今日、同じFT法をとるのならば、アメリカのシェールガスやロシアの天然ガスを液化するのが一番安い。日本国内でも東京の地下にある南関東ガス田や、廃炭鉱や褐炭鉱からの低品質石炭、生ごみガス化をやったほうが、おそらく安価である。
経済性については、繰り返すが他のバイオ燃料との比較も必要である。既に述べたバイオ・ディーゼル(脂肪酸エステル)は、植物油脂ならなんでも利用できる。また、同じ木質原料を使うにしても、すでに稲藁でセルロースから触媒を使ったエタノールの商業製造に成功している。高温高圧を必要とし、エネルギー効率の悪いFT法よりも、エタノール製造のほうが効率が高い。
もちろん、FT法にもいいところはある。貧ガスや不良石炭を使用できる点はその長所である。
だが、その利用法としては、硫黄や燐、バナジウムを多く含む不良燃料への混和が一番経済的ではないか。改質が必要な燃料に混入し、改質なしで販売するのが一番安価だろう。あるいは、不快な匂いが無い点を活かしての、石油ファンヒータや石油ストーブ用としての販売だろう。
いずれにせよ、自衛隊が最初に使う必要はないし、自衛隊が必要とする燃料需要にも合致はしてないのである。
※ 藤原秀樹「日本の豊かな森林が生み出すクリーンなディーゼル燃料-自衛隊の利用でコストを下げ産業競争力強化を」(日本ビジネスプレス,2013.12.31)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39561
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Comment
13:54
だむ
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Re: タイトルなし
14:28
文谷数重
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> 普通はバイオ系燃料ならエタノールに持って行くもんだと思ったけど。
艦艇の機関について
20:24
伊達要一
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艦艇の機関科要員なんですが、燃料の質を上げるなどの方策で人員削減って可能なものなんでしょうか?
暴論は百も承知なのですが、人員削減によるコスト減(もしくは他科への振り分け)と燃料コスト増がペイすれば……というようなことを考えてしまったもので。
Re: 艦艇の機関について
20:42
文谷数重
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軽油2号あるいはF-76には、現物には灰分はないという認識です。大気からの塩の混入もガスタービンならGT員の水洗いで除去できる。ディーゼルについても予防整備はするものの、実質はメンテフリーである。エンジン・トラブルや粗悪燃料といった問題はないと見ているのですが。
逆に、機関科の頭数は応急と被弾時の電機(レーザジャイロに整備って居るんですかねえ?)がメインで、内燃やGTの人には申し訳ないですけど、応工や艦上救難、電機指向なら、燃料を変えてもあまり人員減はできないのではないかと。
> 財務省の小役人じみた話で且つ本論から外れ恐縮なのですが、一点お伺い致したく。
>
> 艦艇の機関科要員なんですが、燃料の質を上げるなどの方策で人員削減って可能なものなんでしょうか?
> 暴論は百も承知なのですが、人員削減によるコスト減(もしくは他科への振り分け)と燃料コスト増がペイすれば……というようなことを考えてしまったもので。
Re: 艦艇の機関について
20:57
伊達要一
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ミリタリや機械関係は趣味にしても浅学で、現場の運用を理解していないため頓珍漢な質問を投げてしまいました。
本文の中で燃料起因でトラブルが起きてもという内容があったので、現状でもそういった事例があるものと早合点してしまった次第です。
また現状でも機関科要員減がコスト減(転科含み)に繋がらない旨、理解致しました。
No title
01:38
陣羽笛
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導入の最大のメリットは、エネルギーの中東依存を減らせることです。
あと水素とかEVとかと異なり、ガスステーションなどのインフラをそのまま利用できる。
それから不純物が少ないから、燃料電池にもむいている。
FT燃料をいきなり民間にやらせても難しい。
自衛隊をスプリングボードとして利用し、最低限のマーケットを形成して民間を引き込むのはあり、でしょう。
米国でもそうですしね。
No title
08:45
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まあ暖房に使うもよし、熱を発電に使うもよしですしね。
最近はバイオコークスなるものがあって、エネルギーをあまり無駄にすることなく、水分を飛ばして圧搾することで重量やかさばる問題を無くせると期待されているそうです。
No title
16:11
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あと水素とかEVとかと異なり、ガスステーションなどのインフラをそのまま利用できる。
それから不純物が少ないから、燃料電池にもむいている。
FT燃料をいきなり民間にやらせても難しい。
自衛隊をスプリングボードとして利用し、最低限のマーケットを形成して民間を引き込むのはあり、でしょう。米国でもそうですしね。